151話
ハッピーバレンタイン(濁りスマイル)
どーうぞー。
メタバース「NOVA」内で、仮想キーボードがカチャカチャと音を立てている。物理的構造が存在しない以上、いっさい無音で作業することもできるが、結局のところどの作業者も「実感が湧かない」という理由で好みの音を付与するのだという。
「すっごい熱心に言ってくれたし、頑張んなきゃ……!」
――まあ、今はいいんじゃないか。
あまりにも熱のない言葉に火が付いたのが嬉しくて、トキノは言葉を引き出しすぎた。あまりにも長い……けれど燃え盛るような熱を感じる話を聞いて、それに応えることを考え出した。炎というにはあまりにも色のない、言い表すなら灰色のそれだとしても、三人を焦がすのにじゅうぶんなだけの熱を持っていた。
「やっぱしお母さんの言ってた通りだったなー。どんな人だって、何か持ってる……」
トキノの友人である“ヅノくん”こと小角は、当初から言っていた通り文芸部に入った。そして、どういう意図があるのか、何を考えているのだか……呆れたことに、トキノと“かりなん”ことカリナも勧誘した。
ふだんから女子と仲良く話すキャラのステレオタイプは、小角の特徴と大きく食い違う。彼が二人の女子と仲良くしていること自体が、奇異の視線を浴びてしかるべき出来事だった。彼自身は何も考えていないのか、あるいは友人がほとんどいないうえに新しく作る気もないのか、身長177cmのクソデカ女子と切っ先ふんわり美少女を「仲間」にしようとしている。
自分の立場を自覚しろ、とは言えなかった。小角は、経験の浅さからか、そういったことにはひどく無頓着で、なんなら女子と話すこと自体がそれなりにセンシティブな事象であることにも気付いていない。アイススケートの選手がチェーンソーを持つがごとき、自身のキャラと行動のギャップは……彼が自分を見ていないことで、彼の中だけで成立している事象だ。彼の中には「自分を見る」という行動が存在しない。ゆえに、教室の中でどのような立ち位置にいるのかを自覚し得ないのだ。
そして、カリナはあっさり快諾した。何をするのかと思えば、すらすらと短歌を詠んで、それを文字に書き始めた。ゲームばかりしているのならと、どんな能力があるか知ろうともしなかったが、意外な才能があったようである。
幼少にはクラシックバレエ、小学生のときはバトントワリング、中学生のときは吹奏楽と……人の前に出る習い事をしてきたが、どれもそれほど上手くなれなかった。トキノの中にある熱は、弱くなっていくばかりだった。だというのに、炎の数も勢いも段違いの二人が目の前に現れた。
――んじゃー、あたしも入れてよ。
部室に向かうと、ふっくらしたツーサイドアップの文学少女と、クマが異様に濃くてひどく痩せた青年がいた。暇なのか、どちらも文庫本を開いている。先に、文学少女の方が本を閉じて立ち上がった。「入部っ……」と立ち上がった勢いで倒れた椅子を直して、こほん、と仕切り直す。
「入部希望者かな? ようこそ、文芸部へ!」
「こんにちは! 私、天海カリナです」
「直矢叶希乃です、はじめまして!」
「元気だね、いいよいいよー。ほら、サカガキくんも」
ああ、と不健康そうな青年は立ち上がる。トキノよりは身長が低いが、横から叩いたら崩落しそうだと思えるほど、不気味なまでに細い。
「俺はサカガキ・ヤスミ。そっちが部長のカイドウ・モネ。詳しいことは部長に聞いてもらえると助かる」
「まったくもー、いっつもこうなんだからー。困っちゃうよね」
こんなところにいるのが不自然に思えるほど、部長はあざとくきゃぴきゃぴと笑顔を振りまいている。容姿だけを見れば、クラスのアイドルか何か、チアリーダーなどやっていても不思議ではないのだが……なにか深い理由があるのかもしれない。
「しっかしヅノくんも面白いねー、消滅の危機だから誰か連れてきて! って言ったらこんな……すっごい美少女ふたり連れてくるんだもん」
「え、それはいやその、ああいやえっと」
「私はいいよ、ちょうど楽しそうだったから」
「なんでここでキョドるかなぁ……」
もうちょっと前だろ、と内心でツッコミを入れつつ、案内された椅子に座る。
「じゃー、まずは自己紹介していこっか? 二人とも、本は読むタイプ? ぜんぜん読まない人でも、危機があぶない状況的に大歓迎だよ!」
なんで学園パートの方が早く書けるんだよ、今回一時間クオリティだぞ……(現在6:30)まあ、早く書けるに越したことはないんで、ガンガン進めていきましょうか。あ、みんなのデータを置いておきます。文章だけだとトキノのデカさが伝わらないかなと思いまして。
天海カリナ:CF(Certainly Female:顕性女性)
148cm/49kg
直矢叶希乃:CF(出生時よりの顕性女性)
177cm/71kg
小角征壱:CM(出生時よりの顕性男性)
151cm/48kg
海藤萌音:CF(顕性女性)
153cm/56kg
逆垣夢眠:CM(顕性男性)
164cm/49kg




