148話
どうぞ。
街から少し離れたところまで移動し、互いに構えを取る。錫児さんは、股間を剣のように大上段に構えつつ、空手か何かのような構えを保っている。股間を剣として使う人なんて見たことがないから、どう出るかまったく読めない。
手に持った〈割鉈の型〉はさておいて、背後に出した〈三鳥の型〉で牽制の魔法を撃った。すっと股間の縦筋を合わせて、相手は魔法を消滅させる。基礎中の基礎、魔法を切る剣も当然のように修めている……まさか股間でやるとは思わなかったけど。
「さすがですね」
「ふっ、これくらいは当然だよ。この股間とも長い付き合いだからね」
今の動きから見て、股間の動きにはほとんど制限がないことが分かった。
ならばと仕掛け、切りかかるが――コンクリートブロックを殴りつけたかのような、恐ろしく固い感触が返ってきた。
「固った……!?」
「基本を忘れたのかい? ライヴギアに使えば、どんなものでもそれなり以上の耐久性を得る。君がいちばん、その恩恵を強く受けているじゃないか」
「たしかに!」
ただの紙がちょっとしたプラスチック並みに固くなるのなら、マンモスか何かの牙がどれほど固くなるか、という話だ。実体武器は破壊できるかもしれないが、これをまともに打ち合って壊せる未来が見えない。いちばん最初にこの刀を使ったときのような、ひんやりした恐怖が湧き上がってきた。
けれど、この恐怖は――
「おや。いい顔になってきたじゃないか」
「こういうの、楽しいですから」
特技を使い、クリティカルを狙い、できる限り耐久値を減らさないように立ち回る。まったく追い付かず、何度も〈クイックチェンジ〉を使って替え刃をした。こちらの動きを読み終わったのか、錫児さんは攻撃を始める。
概念攻撃を思わせるほど鋭い手刀、股間と同時に攻めてくる蹴り。他のゲームだと格闘タイプの敵と戦うことはあるけど、尻尾とは違う攻め方はあまりにも斬新で、ちっとも対処が上手くなっていかない。股間頼りかと思っていたけど、戦士としての完成度があまりにも高すぎる……武器をひとつ持たせたら、その瞬間に負けると確信できるくらいに。
持ち替えた〈調弦の型〉で牙を弾いて、大きめに距離を取る。
すると突然、錫児さんは手のひらをこちらに向けた。
「すまない、このくらいにしておいていいかな」
「あっ、用事ですか?」
「それもそうだが……つい、光線を撃とうとしてしまってね」
「縛りプレイしてたんですね」
たしかに自分から言い出していた気はするけど、だからと勝った気がするわけでもなかった。
「ああ、そうだ。このあたりからもう少し進んだところ、岩が黒っぽいあたりなんだが、色彩に使える鉱石があるそうだよ。少しにぎわってから、組み合わせが見つからないとかで撤退したそうでね」
「ただで手に入りそうなら、すっごくありがたいですね」
にこりと笑った(らしい)錫児さんは、そして街の方へ歩いていった。
ちょっと遅すぎるなと思ったので流れを早める。




