146話
どうぞ。
新しくリリースされるゲームを遊ぶときは、あんまり調べものをしないようにしている。いまどきベータテストをやらないゲームなんてないので、情報はある程度出回るのだが……「ゲームバランスの調整」が行われることは確実だ。尖らせた結果ぽきっと折れる、なんてことは避けたい。
けれど、勝つ必要があるときは違う。
「えーっと……? ああ、そういう。終わるわけだ」
メタバース内で調べものをすると、ひとりごとが増えるらしい。そんな情報を首を振って追い出しつつ、俺は頭の中で情報をまとめる。
「捨てられた世界で、ボロボロになった人形が形を取り戻して、人を呪わず生きていこうとするお話……暗いなぁ」
忘れられたものが流れ着く「ステラレタ世界」。そこで目を覚ましたものたちは、自分の形さえなくして、そこで彷徨っていた。けれど、その世界にモノが落ちてくるようになってから、タマシイたちは思い出した……自分たちには形があって、夢に近付く想像力のもとになっていたことを。
かたちを決め、色を決め、服を身につけて、かれらは歓喜に沸いた。けれど、タマシイの数に比べてモノはあまりにも少ない。好きなときに好きな姿をとることはできず、眠りのうちにタマシイさえ失うものまでもが相次ぎ、「唯物闘争」が起こる……と同時に終結した。モノが壊れてしまえば、タマシイは永遠に形を得られなくなる。そこで、かれらは希望者を募ってモノを順々に身につけ、もっとも素晴らしい形をとることのできるものを探し出すことにした。
優勝者に預ければ、モノの存在を美しいまま保ちつつ、次なる優勝者にならんとするモチベーションを保つこともできる。そして、自分たちが捨てられた存在であることを忘れられる――そんな経緯から、今夜も「役を纏う舞踊」が始まる。
「設定はありがちだなぁ。環境は、っと……」
まず、どういうタイプが強いのかをちゃんと確かめる。物理と魔法どっちが強いのか、攻めるのと守るのはどっちがいいのか、どう行動するのがいいのか……対人メインのゲームだと、雰囲気でそのへんを流すのは危険だ。
見てみると、けっこう意外なことが書かれていた。
「え、召喚環境……? 対人なのに?」
かなり珍しい、というよりほとんどなさそうなゲームだ。最近のAIは発達しているから、昔ほど余計なことを無駄に繰り返す召喚モンスターはいない。なつき具合に応じて反応も変わるし、弱くても役割はある。でも、召喚できないキャラは人権がない、とまではいかない。召喚前提だと多いし、それを売りにしているゲームもあるけど……対人戦なのに人を主役にしないのは、かなりまずい選択ではないだろうか。
「まあいいや、とりあえずやってみるのが先決だよね……」
じっさいに召喚しか選択肢がないならいいけど、こういうのは崩れるものだ。やってみるだけの価値はある……待ってもらえるみたいだから、まだまだ検証の余地はある。調べた限り、対人モード以外もあるようだから、そっちで戦ってみるのがよさそうだ。
キャラクリエイトで、あの人に使った〈柳尾の型〉のことをすぐ思い出してもらえるように、印象が似た黒いバニースーツを初期コスチュームにした。ポニーテールにはちょっと合わないから、うさ耳は外して目隠しを巻く。それ以外はあんまり似せられなかったので、そこで妥協した。燕尾服風だとかなり違うけど、なんとなくあの魚の尻尾も想起させてくれそう……な気がする。
「インしてる、かな……?」
今からやってるのがバレると死ぬほどめんどくさそうだから、やっぱり連絡しないことにした。廃墟みたいな街には、人がぜんぜんいない。こういうゲームだと「新規がやってきた」と大喜びする人がいるものだけど、そういう体力すら残っていないのだろうか。
まずは、戦闘バランスを確かめてみる必要がある。早歩きでフィールドに出てみると、マネキンの体を四分割したうえで右上・左下だけ実体化したような……じつに奇妙な「半身」の姿になった。
「終了間近だから、ドロップ率爆上げしてるんだっけ。服と装備のコンボあるらしいし、遠近両方と環境入りぜんぶ取るか……」
まずは拾えるものを拾って戦える姿になり、モノを別世界に持ち去る「ディスポーザー」を倒して形を取り戻す。基本的な流れ通り、あちらこちらにきれいな曲線を持ったボロボロのかけらが落ちている。
さっさと検証に入るために、半身を完成させることにした。
カクヨムで連載、最近完結したモキュメンタリー・ホラー『あるネット掲示板の奇妙な書き込み』を読みました。まんまなわりに分かってねぇなあ……ま、あれで喜べる読者だらけみたいなんで、別に。売れていればいい主義は限界ギリギリまで貫くつもりなんで、カネになるならええんちゃう? とだけ。つまりそういうことですね。




