143話
よし、今日更新すれば二日はオンパロス満喫できるな!
どうぞ。
敵を倒しに倒して、まだ攻略中の、次の街への関門あたりまで来ていた。大陸とか世界地図がどうなっているのかはまだまだ不明で、サナリさんたちが言っていたミザリアやバナコ、トウバといった勢力がどんな風に位置しているのかも判明していない。
「それより先に、あのイカ倒さないとね……」
友人たちは「あのボスが倒された」という情報をあれこれと持ってきてくれるけど、どこでも「イカみたいなロボ」の話は出てきていない。たどり着いていないのか、出現条件が厳しすぎるのかはわからないが、あのダンジョンのうまみがほぼないこともあるかもしれない。
ゆっくり戻りながら、解放された性能を読む。
いろんなゲームで鎖にできそうなことはだいたいできる……伸縮自在で硬化も拘束もできて、座標を固定したまま伸び縮みすることで疑似的なチェーンソーにもなる。こっちの方は本当に優秀だけど、ひも付き手裏剣こと〈新生:整座流揺〉は、ほんとうに使いどころがわからないままだった。
「装備キャラは一人なのに、パスすると強化かぁ……」
あのとき見たブレイブの情報によれば、「バリアス」という武器は、個々人のスタイルに応じて変化していくもののようだった。時代の幅がどのくらいあるかは知らないけど、遺物が出土した時代には、最低でも二人以上の「一人が複数人(?)」みたいな、なんだかよくわからない状態の人間がいたことになる。
ヌンチャクみたいな剣を使うのはまだいいとしても、パスするとダメージが最大で三倍になるのに、装備できるのは一人だけ――なんて武器があるのは、いかにも不自然だ。ライヴギア技術が生まれる前から、素の能力として分身できる人間がいた、なんて……とてもそうは思えないけど、「定義上ひとり扱いの複数人」がいないと、こんなものはできないはずだ。
しかも、装備していないとパスもできないから、うまくパスできそうなトモガラやノイスに頼むこともできない。星霊には専用の装備があるから、やっぱり分身ができる前提だ。
『めぼしい反応もねェ、ぶつぶつ独り言ばっかしと来た。どうもつまんねェ日だな』
「ノイスに頼めること、……あ、そうだ」
使用者の情報を読み取ってもらえないかと頼んでみると、『四十レベルは要るぜ』と苦笑されてしまった。この前からのプラチナの花嫁みたいな外装のまま、ノイスは『これか』と倭刀を器用につかむ。
『いちおう、あんたの内部からも視界リンクで見てたんだが……また妙なもんだなァ。左右分けた方がやりやすいと思うがね』
「誰でもそうなんじゃない? 一人でも二人でも」
計算リソースとして、一時的に四十レベルを渡す。
『あーあー、新生だかやったおかげで無駄な情報まみれだぜ。二時間かけて梳かしたのにフリルつけたリボン巻いてベールかけた御髪みてェになってやがる……』
「そんなに?」
やったことは正しいけど、本当のところ余計な付け足しにしかなっていないような……絶妙に下手なたとえだけど、なんとなく伝わった。
『おっと。使用者の肉体情報が割れたぜ! 二重登録、じゃねェなあ。やはり双子か』
「あ、そっちか!」
『それに……汚染か何かかね、遺伝情報が破綻してるぜ。よく生きてられたな』
「え、なにそれ」
まだ何も言っていないに等しいのに、ものすごく嫌な感じがした。
『いや、違うのか。テロメアの状態と肉体情報がぜんぜん合ってねェ、それにここも……やりやがったな、新生児へのゲノム編集! クローンで改造人間じゃねェか……!』
「で、でもそんなの……」
『遺伝情報から外観を再現すると、こうなるなァ』
「――」
ファンタジーならよく見る、なんだったらゲーム内で操ったことだってある、ごくありふれたもの。舞台が舞台ならいくらでもいる、それ自体には何の感情も乗らないような姿がそこにあった。
最初からそう作られたのだろう、絶世と表現しても否定するもののない美少女。ただし、筋肉と脂肪の量は、そうあれとデザインされた通りの奇妙な偏りを見せている。豊満な肢体ながら、戦闘に充分なだけの強靭さも兼ね備えていることが、体型から見て取れる。何より異様なのは、それが明らかに人間ではないと分かる特徴が、いくつも存在することだった。
二本の角があり、要所はウロコで覆われていて、ちょうど骨盤のあたりから尻尾が生えている。ひとことで表現するのなら「竜人」とでも言ったところか。
『どこの地球だか知らねェが、こんなモンまで作るか。マーレスってェあれが人をどんだけ追い詰めたか、分かろうってモンだなァ』
「……志願者たちのご先祖様、なのかもね」
考えてみれば、志願者も「調整人体」と明言されている。ライヴギア技術の方ばかりに目を向けていたけど、俺たちを作るためには、ヒトクローン技術とゲノム編集は必須だ。なんなら、アバターをデザインした通りに出力する、という技術自体が現実的に考えればそれ以外にはあり得ない。
『そんで? どうやって分身するつもりなのか聞いてもいいかい、マイマスター』
「ライヴギアかな、やっぱり。二人じゃ足りなさそうだし……紙作ってるとことか、サブロウザさんに聞いてみようかな」
なんとなくのあたりを付けて、俺は街に戻った。




