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138話

 どうぞ。

 調整人体「サナリ」の中でも、ヘスタにいるサナリさんはテンションが高い。


「よく来た! ここへ来る志願者たちの傾向を分析して、欲しそうなアイテムをピックアップしておいたぞっ!」

「ありがたい、んですけど……どんな人たちが来てるのか、気になります」


 紙を使っている人のほとんどは、ライヴギアを符術と魔法の砲台にしている。まったくやらないとまでは言わないけど、俺は主に武器にすることが多いので、彼らとは噛み合わないだろう。


「そうだな、多くはいくつかのライヴギアを使って、動植物を使役するような戦い方をしていた記憶があるっ。しかし、ほとんどが自前の武器も持っていたのだ。するとどうすべきか、考えた末に出てきた色がこれだっ!」

「黒、ですね」


 じわりとわずかずつ広がっていくような、境界線のあいまいな漆黒。粉末なのか液体なのか、あるいはガス状の揮発物が下方向に流出し続けているのか、おそらくビンに収められた粉末の小山らしきそれは、とても奇妙なものに見えた。


「色彩「拠影真黒(よりかげのまぐろ)」だ。開発自体はされたが、目立つうえにどうやっても使いにくいために、ライヴギア技術が生まれてもなお増産されていない。役立ててもらえると助かる」

「押し付けようとしてませんか……?」


 現実で聞いたことのある、「世界一黒い物質」みたいなものなのだろう。表面の質感が分からなくなるとかで、何に使うために作ったのかは分からない……結局どうすればいいのか、どういう発想でこれを渡す気になったのか、答えを待ってみることにした。


「どうも、絵語の性能しだいでこれの効果も変わるようなのだっ。心材は先に渡しておくが、どうカスタムするかはそちらで決めるべきだな。というわけで」

「……あの、これって在庫処分なんじゃ」


 渡された「枝打訣業(わかれつよりつ)」という心材は、自律行動する味方のステータスを強化するという、かなり強力なものだった。どこまでもサモナー向けだが、いちおう星霊(アスト)にも応用できそうに思える。


 しかし、サナリさんがガラッと開けたのは、どう考えても道具か何かを入れるスペースだった。こんなところに入れる絵なんて、きちんと保存する意味もないか、表に出せないようなしろものだろう。ザビロさんみたいに「売れないかも」と言われるよりはずっといい気もするけど、前みたいないわくつきでも困る。


 まあでも、と思いながらぱっと見で性能が確認できる絵をいくつか取り出した。とくに保護もされていないので、本当にゴミだった可能性もあるのだが……これも節約だと思えば、得をしているのだろうか。これまでと比べても、そんなに上手くないというか、あからさまに画材か腕前が不足しているモノがずらずらと並ぶ。


「あの、これ本当に」

「それを使える、という事実が大事なのだ。わたしたちにとってみれば、これらは本当にどうしようもない廃品なのだがっ……それを役立てることができる、そこにこそ意味がある。さあ、確認してくれっ」


 言葉を濁したつもりだったのだが、廃品という表現がそのまんま出てきてしまった。


 独特のタッチ、というには色塗りの均一感がない……要は単純に下手くそな絵。なにか書かれているけど、抽象画だからかいっさい性能が浮かんでこない絵。もうだめかなと次の絵に目をやると、パッと性能が浮かんできた――が。


「これって何の絵なんでしょうか」

「うん? うむ、そうだな……君は知らないかもしれないが、昔話の絵だ」



――あるとき、ある家の娘が病気になった。治療の甲斐もなく弱っていく娘は、ただの病気ではない、呪詛かなにかの影響を受けていると思われた。天気がよい日は病状がやわらぐが、雨の日から数日続けて病状がひどくなる。

――ある僧侶に相談したところ、家を建てるとき釘に留められてしまった蛇が、雨漏りのするたびに苦しみ、冷たいと嘆いているのだという。家の者はすぐに屋根裏に上がり、釘を抜いて蛇を解き放った。するすると逃げていった蛇の元気さに共鳴するように、娘の病状もたちまちよくなった。



「『へびむかし』、あるいは『蛇の恩返し』だったか。そういうタイトルで収録されているはずだがっ……なにぶん、説話のたぐいはうろ覚えでな。申し訳ないっ」

「いえ、内容が分かっただけでも。釘で留められた蛇が、雨を浴びて泣いている……なんですね」

「そうだなっ。上がってきた男たちが驚いている顔があるだろう?」

「なるほど、これと合わせて解釈するんですね」


 被覆はいつもの「大数増刷」にするとして、絵語はこの……絵本の一ページだったらしい「釘蛇雨泣(ていだあめになく)」を選ぶことにした。


「よし、できた!」


 いつもスムーズだけど、いつもより自分で選んだ部分が多いからか、達成感が強かった。名前は〈双士の型〉、性能はだいたい予測できるけど、試し切りをするまでは分からない。この前の〈柳尾の型〉は、呪いが込められたアイテムを使ったせいでひどい目に遭った。これも、思っているのと違う効果になるかもしれない。


「面白いものを使いこなしてくれる、君はそういう人だと信じているぞっ」

「嬉しいこと言ってくれますね。やってみせますよ」


 サリディス近郊なら、と考えた俺は、さっそく出力ポイントに向かった。

 志願者ソルドは現地住民の生活リソースをなるたけ利用しないようにデザインされているので、サナリさんの「使えるかなと思ってゴミ集めといたよ!(1000%善意)」のような行動をとる人はけっこう多い。絵はとくに新品美品かつ希少な廃品()が多いので、ものすごい特殊なものを使いたい人は「幅のある色+誰も知らん絵」でやるそうな。


 残念ながら「へびむかし」はうろ覚えかつ検索しても出てこなかったので、これで正しいかどうかはちょっと分かりません。僧侶出てこないかもしれない。図書館もいま閉まってるんで調べに行けない。というわけでライヴギア。


〈双士の型〉

心材:「枝打訣業(わかれつよりつ)

色彩:「拠影真黒(よりかげのまぐろ)

絵語:「釘蛇雨泣(ていだあめになく)

被覆:「大数増刷(たいすうぞうさつ)

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