137話
あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします。
では、どうぞ。
サナリさんのところへ行くと、ちょうど何か作業が終わったのか、防護メガネを外したサナリさんがいた。ツナギの幼女という見た目はかなりミスマッチに思えるのだが、実際に軽くない作業をしているから着ているようだ。
「復元に来たのか」
「はい。これを、お願いします」
「鉱石だけでは復元できない。革はあるか? 質がよければなんでもいい」
「この鉱竜の皮、使えますか?」
うん、と幼女らしからぬトーンと無表情でうなずく。
「昔ながらの職人は、この技術にいい顔をしない。志願者もそういったものが多い。自分たちも、物質出力システムで生成されているというのに」
「自分の知ってるものと違い過ぎるからだと思います、たぶん」
輪っかのついた破片と複数種類の鉱石、たった一片とは思えないほど大きな皮を引き出しのような箱に放り込み、すぐさまガシャンと閉める。ガラクタオーブンみたいな機械からかなりの熱量が放射され、それなりにまぶしい光が隙間から漏れた。バリアで封鎖された金床の上に3DCGが表示され、それをなぞるように物体が出力されていった。
プレイヤーが出力ポイントから出てくるときもこんな感じなのだろうか、と思いながら見ていると、思っていたのとずいぶん違うものが出てくる。
「これって……」
「連接剣、とでもいったところか。少々使いにくそうだな」
連接“棍”はすでにあって、ヌンチャクを言い換えた言葉だ。けれど、これは――ふたつの倭刀の柄に穴を開け、ねっとりとした金色の鎖でつないだ「連接剣」は、どこのゲームでもあまり……ほとんど見ない形状をしていた。
「不服か? まだあれば、ひとつ分の料金でもうひとつ復元してもいい」
「あったかな……? あった、これを」
「あまり似ていると、同じ結果が出かねないが?」
「いえ、これはたぶん別物だと思います」
厚みが違ううえに、錆びの色も違う。「バリアス」というらしい、遺物のもとになった武具が何で構成されていたのかは分からないが、材質はたぶん別のものだ。
「ふむ。こちらは軽めの合金にした方がよさそうだな」
「あるものなら」
いくつか名前が出てきた鉱石を渡して、もう一度おんぼろオーブンでの復元が始まる。出てきた3DCGの形がよく理解できなくて、俺はじっと目を凝らした。
「長い、ひもの……」
「革紐でつながった手裏剣、というところか。しかもこれは、多いな」
鉱石を入れすぎたのか、三つの手裏剣を革紐でつないだワンセットが五つも出力されてしまった。基材が登録されると、素材から新造してしまうこともあるらしい。サナリさんもあまり見ない事例のようで、手近な黒板にメモしていた。
「このバリアスを生成した人間は、いったいどのような戦い方をしていたのだろうな」
「それは、そっちもじゃないでしょうか」
「確かにな。〈新生:独呼磋縛〉、それに〈新生:整座流揺〉……こんなものをどう使うのだか、こちらには想像もつかない。売却も考慮に入れていいだろう」
「二万メテラでそれはちょっと、嫌ですね」
公共施設の利用料金としては、このゲームの中でもそうとう高額な方だ。露店の出店だって半分もかからないだろうし、かなり派手に買い物をしても数万に届くかどうか怪しい。ほとんどお金がかからないからこそ、ここまで貯金ができているわけで、数万メテラはやはり高額には違いない。
「新たな模索から生まれるものもある、か。捨てる勇気も必要だとは思うが。ライヴギアと併せて使うのなら、ヘスタにいるサナリに相談するといい」
「ありがとうございます、さっそく行ってみますね」
両手で剣を持つ二刀流スタイルは、昔からロマンとしてよく知られているし、使う人も多い。このゲームの実体武器はそれなりに強いから、二刀流を実現できればかなり強いだろう。作るのが大変なので、上位陣にいれば御の字くらいのものだ。
けれど、左右がつながっていると可動範囲が限られる。ヌンチャクの形があれでいいのは、振り回すのが棒だからだ。持ち手になるべき部分が刃になっている時点で、明らかに何かおかしい。どんな剣術でも、あんなものを使いこなすようにはならないはずだった。うーむ、と悩みながらも、俺は出力ポイントに足を踏み入れた。
何度か来た「アトリエ・ちゃんぽら」の匂いは相変わらずで、カオス具合もより増しているように思えた。志願者から受け取った素材をそのまんま置いてでもいるのか、色や匂いのバリエーションがぐんと増えている。乱雑に見えるのに、このままでもいいかなと思える、なんだか不思議なランダム性の美しさがある……気がする。
ライヴギアの素材、とちょっと口に出した瞬間に、陰でがさごそしていたピュリィが「あ、ザクロさん!」と立ち上がった。
「こんにちは。昨日狩りまくってたんですけど」
「うん、私も強敵と戦ってて」
「フィルムが出たんですよ」
「出るんだ!?」
ドロップ品と聞いてはいたが、この目で見たことはない。マーケットに流れているものもかなり高額だから、みんなの衣服はだいたい初期装備だ。いくつも服を持っているのは、荒稼ぎして買ったり、ドロップ品をいくつも手に入れられる強豪だったり、いずれもただものではない。
「いつも刀……じゃないですけど、刀みたいなのを使ってるじゃないですか? だからですね、これを着てみてほしくて!」
「えっと、いいの?」
「えっちな服を薦めたので、今度はきれいな服をって思いまして」
「バランスかぁ……」
どういう思考回路をしてるのか分からないけど、そういうことならと受け取る。
「いま、刀っぽいやつが手に入ったところだから、使えるようになったら見せるね」
「おー! ということは、新しいライヴギアですね!」
そういう取り決めはないけど、ブレイブの性能を活かすために「装備セットをいくつも作る」という式がある。出た解はもちろん、ライヴギアをセットと見なしてブレイブのバフを常時発動させ続けることだった。
「じゃあ、またあとで」
「いってらっしゃい」
にっこにこのピュリィに見送られながら、俺はサナリさんの元へ向かった。
やべぇライヴギアの内訳決まってなかった……液体の方のデータはすでにあるのにこれはやばい。これからエコカリの記事に使う画像を編集するので、明日の投稿はちょっと難しいと思います。でも三が日毎日投稿してみたい。これを機にペースを上げたいのだ……




