136話
明日も更新したい。
どうぞ。
それは、明らかに――
「そういう感じですか?」
「何を言ってるのよ」
見せ技……観客がいることを前提にした、大振りの刺突だった。元来「突き刺す」という動きは隙が少ないものだけど、腕をいっぱいに伸ばした、まるで漫画の大ゴマのような、見てくれと言わんばかりの演出じみたものになっている。
造作もなくかわして、小ぶりの手刀を脇腹に叩きこんだ。
[ノイス、引っ込んでていいよ]
[あァ、こんなんじゃあ出る幕なさそうだからなァ]
最大警戒を解く。そして、金焔の輝きをまとった剣技をわざとギリギリで避ける。誘った追撃をムチでからめとって、思いきり投げ飛ばした。
「きゃああっ!?」
崩れた岩がガラガラと落ちて、モゼットは生き埋めになった……と思ったら、タコのような何かが岩の中から出てきた。
「液体、ですか」
「そうよ。あなたも、もっと合理的にやればいいのに」
「……自信あるんですね」
「これでも、あっちでは一位に君臨してるんだもの」
何の冗談だろう、と思ったが、ひとまず口に出さないことにした。ムチにからめとられるような対人勢はどんなゲームでもほとんどいないし、初速が段違いのレイピアがムチなどに負けるわけがない。〈ウロボロ・スフィア〉あたりでなんとか、と考えていたが、そんなこともなかった。
海色のタコは、かなりの速度で二本の触手を振り回す。すぐ〈調弦の型〉に切り替えて、かき鳴らした弦から深紅の三日月をいくつも撃ちだした。本体がどこにいるのかと思ったら、背後から刺突が飛んでくる――その場でくるりと回って避けて、〈秘奥珠貝〉にいくつもビームを撃たせる。
面白いほど翻弄されている相手は、上下左右にぐわんぐわん移動させられていた。やりすぎると酔いそうだから、適度に別の符術を当ててHPゲージを削る。
「なっ、なにこれ!?」
「動画出回ってませんでしたっけ?」
「出回ってんのは俺が最初にやったときだ、これはねぇよ」
「あ、すみません」
威力最低の重力光線という、ものすごく使いにくい技だ。ゾードは初見で打ち破ったし、もとから一人相手に対して使っても大した意味はないはずなのに……なぜか効いている。
「わかったか?」
「ええ、まあ……」
今まで全然見ていなかった攻略サイトに、ゲーム内からアクセスする。実際に動いてできるかどうかは別、という開発者のプライドからか、ゲーム内からそのゲームの攻略サイトを閲覧することは可能だ。
「何してるの、戦闘放棄?」
「相手になりませんから」
やってきた刺突を、〈一刀隼風〉で腕を飛ばして止めた。
「液体カテゴリの最強が〈テンタクル・ウェイブ〉……確かに強そうですけど」
自律稼働もさせられるタコ型のライヴギアで、「浸水」状態を付与することで相手の敏捷をどんどん下げていく。二十スタックで「溺水」状態へ変化して、全ステータスが下がると同時にHPがぐんぐん減っていく……書いてあることは確かに強いし、シーズンパスで最初から使えるから、これを使うのは当然の判断だ。
「どうやって使うか、自分で考えなかったんですね」
速度型アタッカーの補助として採用するのが最適、と書かれているが……攻略サイトの常で、それしか書かれていない。情報提供をしたのが一人だけで、それが完全なセオリーだと思った……という、そうとは思えないけどそれしか見当たらないような、あんまり考えたくない答えが出た。
トラップ系・爆発系の魔法をいくつか渡して、着弾と同時に「浸水」状態をガンガン蓄積させていった方がいい……少なくとも、対人戦なら。逆に、自分が「浸水」させられるようにスキルを受け取って、多段ヒットでぐいぐい弱体化させるのもいいだろう。いくら強くても、使い方が根本的に間違っていれば、対策できないはずがない。
「普段はサモナーか何かやってますね? 触手使った追い詰め方はいい感じだったのに、本体の動きはぜんぜんですし」
「さすがね。ゾードがぜひって思うわけだわ……“ここ”では、私の負けね」
おい、とかなり低めた声が届く。
「お前、両方で負けないと認めないとか言うんじゃあ」
「そうよ! 完敗って完全に負けることじゃない?」
ホームグラウンドではない場所で負けても、これが自分の実力じゃないと憤慨する人はけっこういる。『キラナイ』で戦うときも、帰還兵かどうかで動きがだいぶ変わってくる……あのバカみたいな敵AIに対処することに慣れすぎて、相手の反撃があるかないかを見誤る人もけっこういた。この人も、いつもやっているゲームで負けない限りは、相手の方が上だと認めないような考えなのだろう。
「普段は何を?」
「おいてめー、なんで乗ってんだよ」
「負けたのに負けてないって言い訳する人は、ちゃんと負かさないと……そのうち、勝ったつもりで来ますから」
「あぁ、まあそうだな。お前もなかなか分かってんじゃねぇか」
人同士の戦いだと、そういうこともある。父さんにも言われたし、いろんなゲームをやる口実にもなるから、そういうケンカはそれなりに買っている。
「いつもは『アクタノマイ:コウコウ』をやってるわ。近くサービス終了するから、あんまり人はいないけど」
「一部はてめーのせいだろうがよ……ま、どっちもやる気ならいいが」
何を言っているんだろう、とは思ったけど、とりあえず戦いは終わった。
「じゃあ、やることがあるので、これで」
「待ってるわ、あっちでね」
やっぱり負けてないつもりだな、とちょっとがっかりした。
液体のライヴギア出てないやんけ! と思ったのでとりあえず出した。名前出てないしバトルしてない、というか二章ラスボス予定だったやつを完ッッ全に忘れてて出せなかったんだよね……三章の強敵かラスボスになってもらう。これは言い訳のしようもなく私のやらかしなので、事前にお知らせしておきます。
自己解剖(noteに投稿予定の記事。公開するかは不明)……は年内に終わらないだろうし、こっちを明日に投稿できるように頑張りますか。エコカリの新キャラはまあ、徹夜すれば両方やれるやろ()。というわけで皆さん、よいお年を。




