134話
サンタさんは起きたときには用意してる、ってんでいつもより早めに。
どうぞ。
「おかえり、カリナ」
「ん、ただいま……」
家に着いた瞬間、どっと疲れが出てきた。自室に戻るのもなんだから、母さんがココアを淹れてくれるあいだリビングで待つことにする。ちっちゃい鍋をコンロに置いた母さんは、ふいにこちらに微笑みかけた。
「で、どうだったの?」
「なんか、初日から友達できた……かな、たぶん」
「あら、よかった。ゲームやるからいいもん、なんていうのかと思ったわ」
「一回も言ってないよ、そんなこと!」
制服をちゃんと着られているか分からなかったけど、そんなにおかしなところはなかったようで、見咎められたりたしなめられたりはしなかった。デパートに出かけたときより、よっぽど強くスカートを意識したけど……たぶん、あちこちでそれなりに風が吹いていたからだろう。
「友達ってどんな子?」
「中学のときいた小角くんと、悠蓮から来てた直矢さんって人。文学系男子? と、長身の美人さん」
「二人も!」
「直矢さん、私が性徴顕化したの分かったみたいな感じで、めっちゃ見てたから……話しかけてみたらふつうだったけど。で、名乗ったから小角くんも流れで話して」
かわいいからでしょ、と母さんはひいき強めのコメントを出す。女性目線はまだまだわからないが、かわいい女子にはあれやこれやと、アブないこと含めやりたくなるのが女心というものなのだそうだ。
「エナも、カリナのことむにむにふにふにしてるでしょう」
「あれってそういう感覚なんだ……?」
アニメでも漫画でも、「やたらべたべたする女の子同士の関係」は描かれがちだが……あれが現実でいうとどういうものなのかは、実際に見たり体験したりしてみても、いまだによく分からないままだ。
「たっだいまー!」
「おかえり、お姉ちゃん」
出迎えに行くと、「うんうん、かわいい」と頭をなでなでされた。
「どこ進学してもって思ってたけど、似合うなー。こっちすごい青だから、偏差値とかよりもっと違う感じになるもんね」
「地元だとまた変わっちゃいそうだけど……」
雪峰高校の制服は、シャツも含めて青系統で統一されている。一方のこちら灯盛高校はというと、ブレザーの袖口に緑のラインが入っていたり、青いチェックのスカートに赤の差し色が入っていたりする。色が散らばっているような印象もあるけど、学校説明の資料によれば、季節の移り変わりを表現している……らしい。
「エナも座ってなさいな、ココア作ってるから」
「はーい!」
県内での雪峰高校は「エリート街道の入り口」で、あの青に袖を通すことに憧れている学生も少なくない――ゲームばかりしていて、なんとなくがんばれば父さんと同じになれるかなと思っていた俺は、受験勉強はそんなにやらなかった。そもそもの話として、俺はテストの成績や偏差値なんかの意味は、そこまできちんと把握していない。
「どう? 友達、できそう?」
「ん、できたよ。男女ひとりずつ?」
「おー、さすがー。よしよしよしよし」
「……えへへ」
母さんがココアを持ってきてくれたので、三人で飲む。粉を溶かしただけではない、鍋で作った本格派のやつだ。そんなことができるなんて知らなかったけど、なにかそういう方法があるらしい。
「ほぁー、あったかい……」
「深みのある香りとコク、芳醇で……えっと」
「急にどうしたのエナ」
「いやー、なんかカッコいいかなって」
急に決め顔で何か言いだしたけど、言葉ちから(?)がそこで途切れている。マッサージは上手いと思うけど、食レポなんかは違う分野だから、ぜんぜんだった。
「やー。楽しそうでよかったー」
「うん。楽しくなりそうだよ」
くるくるとココアをかき混ぜると、ふんわりといい香りが立った。人生を変える大事件じゃないけど、すごく温かい。こんなことをたくさん積み重ねていけたら、きっといい人生になるんだろうな、と……なんか妙なことを考えてしまって、ふっと笑った。
「ずっと着ててもシワになっちゃうし、着替えよっか?」
「ん、そうだね」
まだまだ、ブレザーの腕の関節のところなんかがかなり浮いていて、みんなが言う「服が歩いている」状態がなんとなくわかった。すこし温度が下がっていたココアを飲み干して、俺は二階の部屋に戻った。
次回……の後半からたぶんゲーム。




