133話
クリスマス明日かよぉ!? ノルマがキツい、ができるだけやる。
どうぞ。
全員が席につき、一人ひとりが前に立って自己紹介をしていく。
「天海カリナです、雪峰中学から来ました。趣味はゲーム、いろいろやってます。よろしくお願いします」
あえて「性潜性児です」と宣言するものは少ない。当事者同士であったとしても、だからどうしろというのか、という返答しかできないからだ。相手がどのような返答を望んでいるのか、深い信頼関係にあったとしても、導き出すことは難しい。本人たちはなんでもないように口にするが、どう答えていいかは当人たちにもわからないに違いない。
だからなのか、忘れていたのか、あるいはどうでもいいことだからなのか。カリナは、その事実を告げることなく教壇を降りた。軽い拍手が空疎に響いて、次の自己紹介が始まる。何人ものあいさつが続き、たくさんの言葉が続いた。手で水を汲むように、それらはこぼれ落ちていく。
あ、と気付く。
「小角征壱、です。雪峰中学からこっちに。趣味は読書で、いろいろ読んでます。部活は文芸部に入る予定です……よろしく、お願いします」
かわいらしい顔をしていて、体格もどちらかといえば小さい。けれど、意志に強靭な芯があることを感じさせる、きらきらした目をしていた。小さい子供が石ころ集めをしているときのような、無心の熱意を感じさせる表情だ。
そのうちに、順番が回ってくる。
「直矢叶希乃です。悠蓮中学からこっちに入学しました。体動かすのは好きだけど、とくにスポーツはやってないです。一年間、よろしくお願いします」
バク宙をしてみたり、ハーモニカをワンフレーズ吹いてみたり、いろいろ個性的な自己紹介が繰り広げられて、その日は終わった。帰る準備をしていると、後ろからオヅノがやってくる。
「あのえっと、一緒に、かえ――らな、い」
「ヅノくん飛ばしすぎじゃない……? いいけどさー?」
トキノがカリナに声をかけようとしていたところを、二人まとめて相手取ることになった、といった雰囲気だった。派手に縮こまっているが、こういうタイプの男子はそこまで怖くない……調子に乗ったとしても、すぐに潰せる。思考の表面に浮かんでこないそれが瞬時に経過して、トキノは笑顔のまま歩き出した。
「二人は部活どうするの? 僕は決めてるけど」
志があってよろしゅーございますなー、と適当な言葉を垂れ流す。
「私は帰宅部でいいかな。ゲームしたいし」
「ほんとに好きなんだねぇ、ゲーム」
「お父さんがプロゲーマーだったから、影響受けたのかな。まだ勝てない」
「いまも現役なの?」
「違うよ」
「えぇ……すごいなぁ、元なのに衰えてないのか」
燃えているではないが、ずっとやれるほど好きなことがある……何かができる能力を無駄にしているトキノにとっては、ひどくうらやましい感情だった。
「トキノは? すごいきれいな動きだけど」
今どきのゲームをやっていると、人の動きがどんなものかも分かるらしい。とても運動神経ばつぐんには思えないが、確かな目があるようだ。
「バレエとかチアとかやってたからかなぁ。縁あって?」
「すごいね。今やってないんだ」
「まーねー。育つ段階から削るでしょ? あれがねー……」
「ああ、バレエやる人がみんな細いのは、そういうことなんだね」
階段を下りて下駄箱までたどり着くと、楽しそうに話す大勢がいた。どこか遠く感じるのは、自分の中にあまり中身が入っていないと意識しすぎているせいだろうか。大きな石段を歩いて降り、何かの芸術作品らしい、いくつかの岩を組み合わせたものの横を通り過ぎた。
「じゃあ私、あっちだから。二人は一緒に行くの?」
「どうしようか」
「え、あえっと、……どうしよう」
「じゃあ行こう」
とくに何も気にしていないようで、カリナはずんずん進んでいく。振り回されるように、オヅノは着いていった。
(ゲームかぁ……。ヅノくんはやるのかなぁ)
妙な角度で吹いた風は、わざわざ髪の毛を使って右頬だけを撫でた。
いちおうなのですが、登場人物の名前を「初見カタカナ/その後漢字」にしてるのは、「人名を音声言語に直すのが思ったより難しいから」という理由があります。いちおうウルトラシリーズのオマージュでもある。身近に「サイトウさん」がそれぞれ別の名字で五人くらいいて、「難しいほうのサイで」って言われて分からない経験を何度もしてたので、分かりやすい形になるようにと頑張っています。
たしか「西塔さん」もいる……ってのはともかく、「○○へんに○○って書く〇って漢字」って自己紹介がゴミクソ冗長だしつまんない字数稼ぎにしかならんだろうなってのがね。あと「これ音声言語でなんて言ってんの?」「漢字読み取るの無理じゃね?」ってツッコミをしまくってたのもある。




