128話
おもったよかはやかった……(五日)のではなく、ちょっと伝達事項がね。
どうぞ。
ログアウトしてすぐ、姉が寝ていたからとそのまま寝て、とくに夢も見ずに起きた。すでにカーテンも開いていて、少しだけ寒い空気も心地いい。
「おはよー、昨日はずいぶん遅かったね?」
「ごめん、イベントが立て込んでてさ……」
まったくもー、とほっぺたをむにむにされた。朝ごはんを食べにリビングに降りると、珍しく父さんがいた。
「戸籍の変更届、出しに行くだろう。昨日は早めに切り上げてきたんだ」
「ありがと、父さん」
母さんも運転はできるけど、あんまり向いていないとかで、お買い物もかなり近いところに行くかママチャリで行っている。大事な用事にはきちんと時間を割く、というスタンスは昔から崩していないようで、母さんが夫婦の愚痴を言わないのも、そういうところがあるかららしかった。
「そういや、カリナ。ざいろぷがお前のことを知ってるって言うわりに、どこの配信にも顔を出してないみたいだな」
「別のことで忙しくてさ。余裕あるときは、いつでもいけるよ?」
「そうだったか」
「うん」
俺が生きたかったライブラリ・アースの撮れ高がどのくらいかは分からない。それに加えて、俺ひとりで紙を補充しに行ったときの突発クエスト、そこからの乱入を撮影するのも、あちら側の事情で難しかったのだろう。
「昨日はめっちゃ、流星雨みたいに星霊が来てたらしくて。イベント終わりの日だし」
「何か増やしたのか?」
「〈トモガラ〉ってやつ。これで三体目だね」
「レア枠かな、聞かない名前だが」
もとがプロゲーマーだった父さんは、ものすごいゲームプレイ経験がある。ありとあらゆるモチーフを目にしてきているだろうから、ちょっとマイナーな神話や怪物だって、知っていてもおかしくはない。自動生成多めの最近のゲームらしく、やはり〈トモガラ〉はオリジナルだったようだ。
話しながら、トースト一枚をあっという間に食べ終えた。
「まあ、新しくトラブルに巻き込まれてないならそれでいいさ」
「……最近も何かあるの?」
いや、と父さんは肩をすくめた。
「あったら嫌だなと思ってただけだ。知らない間に何かしてるもんだろう、子供は」
「もう、あなたったらまた、そういう無責任なこと言うんだから」
ひとこと余計だったらしく、母さんの視線が冷え切っていた。
「すまん……」
「じゃ、先にお手洗いに行って……支所、行きましょうか」
さらっと流しつつ、食洗器に大皿を入れた母さんはそう言った。
部屋に戻って、さっきまで着ていた寝間着から細めのワンピースに着替える。腰のところをベルトでちょっと締めて、かなり体型が目立つ格好になった。
「こんなのでいいのかな?」
「締めないとめっちゃ太く見えるの。解くのめんどくさいけど……そーだなー、こんくらい? ぶといでしょ」
「くびれないね……」
「男子が言ってたんだけどね、バリ残すようなもん? なんだって」
「バリ……?」
「なんか、未処理だと見栄え悪い的な、前提満たせー、なやつ」
遠すぎる界隈のネタなのか、ぜんぜん意味が分からなかった。ともあれ、出かける服装ができあがったので、玄関まで降りる。
「行くか」
父さんの微笑みが含んでいる何かは、朝のそよ風と同じように、はっきりと分かる前に消えていた。




