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【更新停止中】アクロス・ザ・ナギノクイント  作者: 亜空間会話(以下略)
2章 みゆきひらひらふるるよる
128/191

128話

 おもったよかはやかった……(五日)のではなく、ちょっと伝達事項がね。


 どうぞ。

 ログアウトしてすぐ、姉が寝ていたからとそのまま寝て、とくに夢も見ずに起きた。すでにカーテンも開いていて、少しだけ寒い空気も心地いい。


「おはよー、昨日はずいぶん遅かったね?」

「ごめん、イベントが立て込んでてさ……」


 まったくもー、とほっぺたをむにむにされた。朝ごはんを食べにリビングに降りると、珍しく父さんがいた。


「戸籍の変更届、出しに行くだろう。昨日は早めに切り上げてきたんだ」

「ありがと、父さん」


 母さんも運転はできるけど、あんまり向いていないとかで、お買い物もかなり近いところに行くかママチャリで行っている。大事な用事にはきちんと時間を割く、というスタンスは昔から崩していないようで、母さんが夫婦の愚痴を言わないのも、そういうところがあるかららしかった。


「そういや、カリナ。ざいろぷがお前のことを知ってるって言うわりに、どこの配信にも顔を出してないみたいだな」

「別のことで忙しくてさ。余裕あるときは、いつでもいけるよ?」

「そうだったか」

「うん」


 俺が生きたかったライブラリ・アースの撮れ高がどのくらいかは分からない。それに加えて、俺ひとりで紙を補充しに行ったときの突発クエスト、そこからの乱入を撮影するのも、あちら側の事情で難しかったのだろう。


「昨日はめっちゃ、流星雨みたいに星霊(アスト)が来てたらしくて。イベント終わりの日だし」

「何か増やしたのか?」

「〈トモガラ〉ってやつ。これで三体目だね」

「レア枠かな、聞かない名前だが」


 もとがプロゲーマーだった父さんは、ものすごいゲームプレイ経験がある。ありとあらゆるモチーフを目にしてきているだろうから、ちょっとマイナーな神話や怪物だって、知っていてもおかしくはない。自動生成多めの最近のゲームらしく、やはり〈トモガラ〉はオリジナルだったようだ。


 話しながら、トースト一枚をあっという間に食べ終えた。


「まあ、新しくトラブルに巻き込まれてないならそれでいいさ」

「……最近も何かあるの?」


 いや、と父さんは肩をすくめた。


「あったら嫌だなと思ってただけだ。知らない間に何かしてるもんだろう、子供は」

「もう、あなたったらまた、そういう無責任なこと言うんだから」


 ひとこと余計だったらしく、母さんの視線が冷え切っていた。


「すまん……」

「じゃ、先にお手洗いに行って……支所、行きましょうか」


 さらっと流しつつ、食洗器に大皿を入れた母さんはそう言った。


 部屋に戻って、さっきまで着ていた寝間着から細めのワンピースに着替える。腰のところをベルトでちょっと締めて、かなり体型が目立つ格好になった。


「こんなのでいいのかな?」

「締めないとめっちゃ太く見えるの。解くのめんどくさいけど……そーだなー、こんくらい? ぶといでしょ」

「くびれないね……」

「男子が言ってたんだけどね、バリ残すようなもん? なんだって」

「バリ……?」

「なんか、未処理だと見栄え悪い的な、前提満たせー、なやつ」


 遠すぎる界隈のネタなのか、ぜんぜん意味が分からなかった。ともあれ、出かける服装ができあがったので、玄関まで降りる。


「行くか」


 父さんの微笑みが含んでいる何かは、朝のそよ風と同じように、はっきりと分かる前に消えていた。

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