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12話

 どうぞ。

「きみ、ベータのときには見なかったけど……どこかで修行でもしてたのか?」「紙の使い方って、こういうのもあるんだな」「何か新しいパーツでも入れてるの? ぜひ情報聞きたいんだけど」「配信とかやってるかしら? 今のうちに推し始めときたいのよね」「あれこれ扱ってるから、商売がしたいときはぜひ俺に」


 ドルン、と不機嫌そうな音が鳴った。


「先約済みだぜ、お前ら。っつうかよ、聖徳太子でもやらせるつもりか?」

「お話、聞けるんでしたね」


 十人以上が殺到している状態は、ちょっと困るというか、おいそれと移動できないのでさらに見物人が集まってくる負のスパイラルだった。暴力による威圧でも、とりあえず散らしてくれるのは助かる。


「有名人はきっちりリストアップしといてやっから、心配すんな。強ぇやつ同士は自然に引き合うもんだ、やべぇのとはまた出会うだろうよ」

「あらいやだ、ワタクシは配信観ながら狩りするのが好きなだけよ」


 それって常人にできることなんだろうか、と疑問を抱きつつ、体のどこにもライヴギアらしいものを持っていない女性を見送った。そして、アーミールックの男性に連れられるまま、雑居ビルのような場所へ入る。


 マップの一部分らしいが、誰もいなかった。


「久々に強ぇやつと戦えて、楽しかったぜ」

「こちらこそ。技を修める助けになりました」


 それで、と切り出した俺は気になっていた疑問をそのままぶつける。


「どんなのなんですか、課金した紙って」

「トガミの型、とか言ってやがったかな。陰陽師みてぇな、式神をわんさか召喚して魔法を撃ちまくるスタイルだ。強いは強いんだが、廃課金前提で、本体もクソ弱ぇ。戦っても面白くなかったなぁ」


 へえ、と生返事をした。強そうだし狩りの効率もよさそうだが、どう考えても収支のバランスを取らせられている。俺は支出をギリギリまで小さく抑え、入ってきた収入を使わなくてもいい戦いをしようとしていた。


 ライヴギアの基礎知識として、耐久値が削れるのは外側にある部分だということは理解している。そう仮定したとき、「式神をわんさか召喚する」というスタイルの被覆がどこに行くかと考えると、まず間違いなく式神そのものだろう。技を撃つと耐久値が削れるということは、「魔法を撃ちまくる」ことで被覆をガンガン消費することになる。


「どうした、黙りこくって」

「私が求めてる強さとは違うな、って思いまして」

「はっ、そんなことだろうと思ったぜ」

「あ、そうだ……コアレベルってなんなんですか?」


 キャパシティだな、とゾードは簡単に言い換えた。


「コアレベルが高いほど、同時展開できるセットの数が増えるんだ。つっても、レベル十になってようやっとふたつめのセットが解禁だからな……」


 基本的にセットひとつに必要なコアレベルは十で、強力なパーツを多く入れればそれ以上に膨れ上がることもある。レベル十以降かつコアレベルがじゅうぶん足りていれば、ふたつ以上のセットを同時に使えるようだった。


「じゃあ、このブレイブってぜんぜん使えませんね」

「なにっ、ブレイブ!? もう手に入れてんのかよ!」


 どんなんだよと言われたので、手元に出した。


「バリア張るってやつです。私はダメージ受けない前提で戦うので、こういうのは」

「ははっ、こいつは……! クソふざけてんなぁ、課金してるやつらに恨みでもあんのかよ、お前」

「どういうことですか」

「コアレベルを五割増しにするってアイテムがあってな。当然クソ強いから、真っ先に買うだろ? 緊急のときもってこいなそれも、オークションに出てたら買うよなあ」


 くくっ、とゾードは笑う。


「マジに、お前のこれからが楽しみだよ。フレンドにならねーか?」

「いいですよ。いろいろ助かりそうです」


 初めてのフレンドができた――あまりまともな人間ではないように思えるが、ネトゲに入れ込んでいる人間なんてこんなものだろう。俺だって、どちらかと言えば変な方だ。


「俺は狩りに行ってくるが、そっちはどうする? 俺とお前だと、相性がいい敵が違いそうなんだよな」

「あちこち回って、なんでも倒してきますよ。しばらくはこれ一本で」


 新しい別の紙を手に入れれば、そこから飛躍的に強くなるわけでもないらしい。「型」というコンボができるまではお試し程度のもので、性質をじゅうぶんに引き出すにはやっぱり型を成立させるしかない。となると、いくつものアイテムをきっちり揃えるまでは、これを主な戦力にするしかないようだ。


 ゾードは目を細めて笑い、こくりとうなずいた。


「それでこそって感じだな。またいつか、自慢のライヴギアができたら試し切りに来い」

「時間、かかりそうですけどね」

「失望させんなよ。お前くらい無茶やらかすようなやつなら、そうはならねーだろうけどな」

「期待しててください。面白いこと、いっぱいしてみたいと思ってるので」


 相手が気に入るかどうかはともかく、これからできそうなことはいくつもある。いろんな人から期待されているなら、いろんなことに手を伸ばしてみるのもいい。最初にやることは決まったので、まずは情報収集に向かうことにした。


「ゾードさん。ライヴギアのパーツがあるところ、知りませんか?」

『魔王2099 3.楽園監獄都市(メタユートピアシティ)・横浜』読みました。凡庸。バトルパートはわりかし面白いので、価値を見出すとすればそこが中心になるでしょうか。SFとしてもファンタジーとしてもまあうん以外の感想は出てこない、というかオチが瞬時に読める……スタートとゴールを同時に出されて、何が起こるかの予想も外さないんで、なんでしょうねこれ。だいぶ経ったんだから、主要人物のかんたんな紹介くらい入れてくれてもよかったんじゃないかなあ……緋月と秘書の存在ガチで忘れてた。


 先日『断頭台の花嫁』を読んだときにも思った「敵の目的・行動のなにが危険なのか」がぼやけているところが多くて、デビュー当時からの劣化を感じます。いらない視点人物がちょくちょくいるように見えるのに、説明が足りないところや後回しになったところが散見され、ラストの尺不足感がパないですね。最初の引用から読み取れる「正当化される蛮行」も、主人公側のそれには正当性がありすぎてね……


 コミカライズがスタートしたとかアニメ化するとかいろいろ動いているらしいので、根強いファンがいるんでしょうね。知らんけど。既刊三冊と『断頭台の花嫁』を合わせて、三千円あれば買えるかな。近場にあるでかい本屋に売ってたら、買って読んでみるのもいいと思います。少なくとも私が研究してきた中では上澄みも上澄みなので、中堅になれるかどうか、あたりのラノベが読みたい方はぜひどうぞ。

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