118話
いろいろ書いて精査して潰して、あとゲームやって……まあちょっとその、遅れました。
どうぞ。
数値以上に中身で強さが決まるVRMMOで、攻略するルートを決めさせるにはどうすればいいか。それ以前のゲームで用いられてきた、地形を変えたり封鎖したりといった手段も使われているが……それ以上に強い敵を配置する「外れルート」方式がいいらしい、というのが都市伝説的に伝わっている。
「それで、……その刀でやるのか」
「今は、これともうひとつしかなくて……」
補給のために紙を扱っているお店に来たのだが、そのまま戦闘に突入してしまった。結界テープを大量に消費する〈調弦の型〉は当然使えないし、アズラ・モメントは在庫がなさすぎるから〈裁刀の型〉もギリギリにならないと使わないつもりだ。
「どうだ」
「やれなくても、帰ってきますよ」
「あんたも志願者だってことかい」
「ええ、まあ」
それなりにゲームをやっている身からすると、ゾンビアタックは時間の無駄だ。きちんと勝てるスペックを身につけてから来るのが普通だし、消費するものがある場合ははっきり悪手だと言ってもいい。今回はフラグが立っているようだから、おそらく勝てるのだが……思い返すと、これまではバカをやりすぎていた気がする。
見やると、符蛆はあぐらをかいて座っていた。
道場めいた六角形の部屋に、壁紙の模様のように、規則的にお札が貼られている。符術で見た結界の文字と同じなので、地形を破壊不能にするためのものだろう。
「得物はなんでしょう」
「あんたと同じだ」
「なら、楽ですね」
「そうかい? 手練れらしいとは思っていたが」
近付く前に、戦術を組み立てる――と言いたいところだが、〈割鉈〉と〈柳尾〉以外は使えないので、機を見て切り替えるくらいしかできそうにない。これまでかれらに負けてきた理由は、単純なステータス差以上に、相手の技術が異様に優れていたところにある。それに、長物の扱いが達人クラスの敵は、ほかのゲームにはあまりいなかった……俺自身が対応に慣れていなかったこともある。
足音が聞こえたのか、ぴくりと反応したのが分かった。
「きたか」
ごく小さな、しかし確かに耳に届く声。
「しゃべった……!」
「どうした。そういうもんだろ」
「こっちに分かる言葉で話してるんですよ!」
「ほかは違うのかい」
機械は倍音混じりのゴロゴロ声だし、符蛆はがさがさしたノイズまみれの謎言語でしか話さない。かなり特殊なクエストなのだろう、と推測できた。
「おのれのわざをみがくにも、ときがたらぬでな。たましいをうれば、ときをこえてすべてをきわめられるときいた。……すこし、ながかったが」
古書のように色褪せた、浪人風の紙人形は、さっと手を伸ばして純白の刀を作りだした。そして、刀を混沌の色に染める。
「きさまがかみをつかうのであれば、このわざもあたいせんきんとはんぜよう。わしにかてば、ひとのみでこのわざをつかうちからをあたえようぞ。ひらくべきみちをためるもよし、かみひとえでつかみとるもよかろう。ぐをとがめるものもないぞ、さあ」
属性付与か、属性変更か。どちらにせよ、とんでもないスキルだ。
「手合わせ、お願いします」
「よかろう」
後ろで見守っていたサブロウザさんも、俺に並ぶ。真っ赤に変わった刀を鞘に収めるように構えて、敵は笑った。
「いざ」




