116話
文字数的に締めに入らないといけないのにぜんっぜんそういう話になってない。まずい。
どうぞ。
ログインすると、ものすごいカオスの街並みが目に入った。
結局どうしてこうなったんだろう、と思う前に、横にサクヤヒメがいるのが目に入る。
「あ、出てきてたんだ?」
「うむ。ここまで緑がないと、探したくもなろうというものよ」
「サボテンとかじゃダメかな」
「うむ……まあ、悪くはないかのう」
採取したものを渡してみたけど、あんまり喜んでもらえなかった。
「そうじゃなあ、わしからクエストでも出しておこうかの。緑の心地よい場所で、茶でも飲まんか? ここへ緑を芽吹かせるよりは楽じゃろうて」
「お茶ね、わかった。お茶菓子は好きなものある?」
「わしの手でもつまめるものがよいな」
「あられとかかな……?」
いつの間にかお茶っぽいものを出してすすっているけど、見ると「白湯じゃ、雰囲気だけじゃよ」と目を細めて言われた。ノイスのときにも思ったけど、星霊はなんとなくディティールだけのアイテムを持っていることがある。
「ちょっと外に出るけど、サクヤヒメはどうする?」
「道中は引っ込んでおこうかの。わしの力が必要になったときは呼ぶがよい」
砂ぼこりはちょっと苦手らしく、すっとデータ化して引っ込んでいった。
このあたりのモンスターはどちらかと言うと弱いけど、資材がぜんぜん足りないので、ボスでも出てきたら負けそうだった。結界テープは使い切ったし、アズラ・モメントは全然ない。この街にだけあるアイテムもあるのかな、とマップを見る。
「あんまり、お店ない……?」
紙を扱っているお店は、なんか妙に狭い路地と、露天商が短時間だけやっている閉店済みの場所だけだった。現実のマップみたいに「営業時間外」と書いてあるのが、なんだか絶妙にシュールだ。
砂をじゃりじゃり踏みながら歩いて、異国情緒とスラムっぽさとすごく素人仕事っぽい乱雑さが漂う、謎のカオスを進む。ワールドシミュレーターってこんなものも作れるんだな、とへんなところに感心しつつ、目的地に近付いていく――
「ない……のかな」
「ん? 何を探してんだ、志願者の」
露店みたいなものがないな、と思っていたら、建物の中から人の声が聞こえた。竹垣っぽい、ここだけ和風なせいでものすごい違和感のある場所だった。
「この辺にお店ってありませんか? こういうのに、紙を使ってて……」
「ああ、そういうやつかい。これが店に思えるってな、なかなか奇特な嬢ちゃんだな」
どういう仕組みだったのか、壁の模様がずずっと割れて、隠し扉のように開いた。これが寄木細工かな、と思いつつ入り口をくぐると、倉庫のようなところへ入った。
声の主は、貧乏浪人みたいな……というと失礼なんだろうけど、モチーフはたぶんそのまんまのビジュアルをしていた。柿色の着流しはあちこち妙な裂け方をしていて、ただものではなさそうな雰囲気を感じさせる。
「売り物じゃない、とか……」
「いや、まあ……売っちゃいるがな。買うつもりなのか」
「使えるものなら……?」
「どうも分からん。その使い方ってのを見せてくれるか?」
ライヴギアを起動して、〈割鉈の型〉を出す。続けて〈柳尾の型〉を見せて、両方をゆるりと振ってみせた。〈三鳥の型〉で安定させると、「サブロウザ」と名乗った男性は幾度かうなずいた。
「ふぅん。本で読んだよりはマシだな」
「本!?」
ああ、とサブロウザさんは和綴じの古書を、がっさがっさと漁った五つ目のかごから出した。
「あった、あった。『百遍蘇りしつわもののこと』。お前さんらのことを描いた記録だな」
「あるんだ……!」
「記録はなんでも残すもんだ。俺があんたのことを描くかもしれんぜ」
「え? それはちょっと、恥ずかしいような」
滅多にない機会だからさ、と男はおどけて見せる。
「ちょいと頼み事がある。ここの地下にいる、ご先祖様の遺産をだな……できそうだったらでいいんだ、倒す手伝いをしちゃあくれねぇかい」
「遺産、というのは」
「〈符蛆〉って言ってな。折り紙の人形みてえなものなんだが、何か貴重なものを織り込んで作っちまったらしいんだ」
「どうして、いきなり……?」
さっきのでけぇ刀だ、とサブロウザさんは目に力を込めた。
「何人かに拝み倒したが、記録には「同種の武により打ち倒すべし」と書いてあってな。機械が打ち壊される、骨は砕かれる、紙でしかやれねぇようなんだ」




