115話
どうぞ。
ジャーマンポテトに卵焼き、鶏肉のポトフと、夕食はあったかいものがめじろ押しだった。野菜の日と肉の日というか、どちらかがすごく多い日があるけど、今日は肉の日っぽく見える。なんとなくだけど、どっちかに偏ってるな、と意識しているのかもしれない。
「美味しいよねー。とくにこの固いじゃがいも」
「うちの子たちって、こうなのよね……」
「そうだよ?」
「うんうん」
火が通っていなくてゴリッゴリに固いじゃがいもは、たぶん健康には良くないんだろうけど、けっこう美味しい。いい感じの焦げ目がついてうまみたっぷりのベーコンもいいけど、やっぱりコショウの利いたじゃがいもあってこそのジャーマンポテトだ。
父さんも固いじゃがいもが好きだけど、固さよりも「半生」というところに魅力があると思う。カツオのたたきも美味しいし、カツオ以外に鮭とかサワラのたたきも美味しかった。父さんが言っていた「時間あったら牛刺し食べてみようか」という言葉もずっと覚えているけど、まだ時間はかかりそうだ。
「でもこっちのじゃがいもも好き」
「いまもニンジンのクセはあんまり好きじゃないけど。こうやると美味しいんだよねー」
「子供がもっと多いとこだと、一人ひとり好みが違って大変って聞くわね」
「お姉ちゃんと私が似ててよかったね……」
姉の影響を受けている部分は、そんなにないと思う――今までの人生のほとんどは、家族みんなからちょっとずつ影響されてできている。父さんの影響でゲームを始めて続けているから、いちばん比率が大きいのは父さんだ。母さんのぽわぽわとか姉のセンスもちょっとはもらっているだろうけど、いまひとつピンと来ない。
「名前は「天海カリナ」でいいのよね。もう呼んでるけど」
「うん。顕性女性になったし、カルヤって名前からはなにか変えないとだし」
昔から……それこそ古代でも、「精神的な性別」はあったらしい。両性具有が彫像に残っていたり、無性の天使が男性を愛して女性化する、なんて神話もあったりするそうだ。そこに性徴顕化が乗っかってきて、そのあたりはさらにややこしくなった。
法整備が進んで、そのあたりの戸籍は変えやすくなった。ただ、お医者さんの診断書はやっぱり必要で、体で区別される事実はそのまんまのことが多いらしい。更衣室とかロッカールームは結局ふたつか三つで変わらず、診断書があっても、男性として成長した人は女性の競技には出られない。そのあたりは、なんだかんだで「正しくなる選択肢」が採られたのだ――と、父さんが言っていた。いまひとつ要領を得ないけど、ふつうの人がちゃんと生きられるように、ということだそうだ。
書く項目はそんなになくて、抵抗感もなかった。性別の項目が「顕性男性・潜性男性・顕性女性・潜性女性・どれでもない」の五つに分かれているのも、時代がそうだからだろう。俺は顕性男性だと思っていた状態が潜性女性で、性徴顕化を経て顕性女性になった。この時代には珍しくもない、ただの「そういう人」だ。
「ん、書き終わったよ」
「こっち置いときましょうか」
姉はとっくに部屋に引っ込んでいて、母さんと二人だった。何か言おうとしているような、そうでもないような……なんとも言えない顔をしている。
「どうかした?」
「……何度も聞いてごめんなさい、本当にだいじょうぶ?」
「じゃなかったら、こんな服着ないかな。見てほら」
「やめなさい、はしたない」
今は――今だけかもしれないけど、俺は「新しい見た目」に違和感を覚えたりしないタイプの人間だ。ゲームばかりしていたからか、そういう更新には慣れている。ゾードが言っていたような、見た目と大きく違うキャラを使うことにも、ほとんど抵抗を覚えない。
そういう意味では、大きく変わる準備はできていたのだろう。
「変わることが怖いのって、やっぱり人間だけなのかな?」
「どうなのかしら。あの人みたいなことは、私には言えないわね」
――どんな形で生きていたって、それが当然だって思ってるんだろうな。
ワールドシミュレーターで作られた、けれど成立するとは思えないほどのクソゲーを遊びまくった世代にとっては、そういう言葉も出てくるものなのだろうか。昔も今も、あの言葉に対する感想は変わらないけど……昔よりは、すっと理解できる気がする。
「朝ごはん食べてすぐ、だよね」
「ええ。ちゃんと起きててね」
ほんのちょっとだけで会話は終わったのに、母さんはもう落ち着いていた。
地震が起きてから外出できず、まったく運動しないので健康状態がかなり悪化していました。首も痛いし体の震えも止まらないしで、ココアの配合を少し変えました。そろそろ紅茶に切り替えないと、左足を切り落とすことになりそうですね。冬まで様子見するのと、マッサージを欠かさないようにしようと思います。あと怖い話の動画見るのもやめといた方がいいかな。パターンは掴んだので、取材としても必要なくなりましたし。
ヒロアカの映画、ようやっと観に行ったらけっこう面白かったです。なんか演技の方向性がみんな一緒な気がして、空気に染まるって言うんでしょうか、そういうのを感じましたね。開始当初は能力のデメリットも強調されてた気がしますが、よくよく考えたら爆轟?は最初っからそんなにだったような……と思ったけどダークマイト無法すぎん? 自分の体すら錬金可能とかなんやあれ。
特撮もぜんぶ面白いし映画も面白いんで、毒素として資料を読もうと思います。今月のnoteももうネトゲでごまかそう(適当)。読み直すのめんどくせぇ……




