114話
noteどうしようかなー……
どうぞ。
湯上りの肌はあたたかな薄桃色で、ほんのりと湯気を放っているように思われた。雨よりも甘くて軽い、たぶん湿気のにおいが乗っている。
「やわいねぇ、いいぞぅ」
「あんまり滑らないよね。どっちがいいんだろ」
タオルで水気を拭きとるのに乗じて、姉はあちこちをすりすりしていた。
「乾いてるときは滑って、濡れてるときは滑らない……のが理想かなぁ。表面になんにもないときはそうなの」
「普通のときに滑るのって……あ、脂とか」
「そうそう、皮脂」
「ない方が滑らないんだね」
水分で皮脂を流してしまったあとは、皮膚の表面はあんまり滑らない。逆に、乾いてからだと何もない方が滑る。理屈を説明されると、逆によくわからなくなった。
「なまちちもよいのう。や、ほんとにいいねー」
「なんで揉むの……」
後ろから手を回すと揉みやすいらしい、ということが事実として伝わってくる。胸を揉むと気持ちがいいとか感じるとか、いろいろ聞く気はするけど、マッサージの方が気持ちがいいと思う。妙なぞわぞわ感があって、落ち着かない。
「ていっ」
「ふわぉ……なまちち合わせとはやるねー? なんかインモラル」
手を引き抜いてくるっと回り、胸同士でくっつく。抵抗としてやってみたけど、なんか絵面がすごいことになっていて、自分でも何をやっているんだかわからなかった。ぱっと離して、着替えに移った。
「姉妹で肌ってどのくらいくっつくんだろうねー。普通じゃなさそうなんだけど」
「普通はマッサージもしないと思うし、お風呂も別なんじゃない?」
少なくとも、全裸で抱き合うなんて状況は一生に一度もないだろう。今しがた一回やったけど、今後ありそうにも思えない。
スポーツブラは着方を間違えたらちぎれそうだな、と思ったけど、後ろで留めるタイプはそういう謎の心配をすることもなく着られる。ホックを留めて、ちょっとズレている胸の肉をむにっと上に持ってきて、形を整えた。
「お姉ちゃん、これかわいくない?」
「めっちゃくちゃかわいいよー。あたしも似合うなら着てた」
どちらかというと色黒ぎみの姉は、かなりビビッドな色を身につけている。逆にパステルカラーを、とならないのは何かあるんだろうけど、下着はかなり大人っぽい。本人の好みもそうだし、体形もバッチリだから、これ以上にならないのかもしれない。
鏡を見ると、なんだか得意げな顔の自分がいた。霧にかすむ小麦畑を思わせるような薄緑、清潔な白のレースに、ちょっと金属光沢をおびて見える梅色の刺繍。いいものを身につけると気分が上がる的なことをショップ店員さんも言っていた。本当にその通りで、こういう「自分がきれいになった」実感がすごい勢いで湧き上がってくる。
「すごくいい顔してる。六月も、こういう顔が見たくてやってるんだと思うなー」
「恩人だよね……」
性徴顕化なり姉のスキンシップなりで、こういう感覚が芽生えてくるきっかけはあったと思う。でも、花開くために必要なものがきれいに揃った、揃えてもらえたことはすごくありがたいことだった。
「カリナ? 明日は戸籍変更しに行くからね」
「あっ、うん」
動作の合間が妙に間延びしていたけど、そろそろ湯冷めしかけている。急いで服を着て、リビングに向かった。




