108話
どうぞ。
ごちゃっとしたスペースは、金臭い匂いと機械油みたいな匂い、妙に甘苦いような焦げたような妙な匂いが混じって、かなりひどい悪臭が漂っている。ワールドシミュレーターを使っているゲームは、こういう謎のこだわりが強いことがある……別にいらないんじゃないかな、と思いつつあちこちに目をやった。
遺物の復元をできる場所にやってきて、最初に目に入ったのは謎の作業台だった。鍛冶屋よりは手術台に近い金床には、ちょっと見覚えがある。そして、傍らの作業スペースで何かしている幼女は――
「サナリさん? どうしてここに?」
「うん? ああ、あちらにいる個体を知っているのか。私もサナリだ」
「え、っと」
「ヘスタの個体は説明好きだったろう。聞いていないのか、我らの出自を」
聞きました、と言葉だけを返したが、驚きは消えない。
アクロス・プログラム……並行世界を行き来する計画が失敗し、五つの地球同士が衝突するという未曽有の大災害を引き起こした、人類史上最大の事件があった。どうにか生き残りを図った人類は、スペースコロニーで調整人体を作り、原生人類が滅亡したのちにも人類種が存続できるようにした。
しかし、地球にいた現生人類のいくらかは、プログラムの研究内容を共有したり先祖の技術を継承したりと、たくましく生き残っていた。志願者の情報を解析し、調整人体を地上で作り出すことに成功したのがサナリさんだ、というところまでは知っていた。
「出力ポイントの使用は、君たちだけの特権ではないのだよ。死亡のリスクを回避できるうえに、意識のリンクで研究内容を共有できる」
「ふつうの人間と違って、必要なぶんの知識だけを転写して、寿命いっぱいまで研究活動をしてるらしいわ」
「すごいことしてますね……」
「君たちと同じだ。使い道のある資源は、目的のために使用されなければならない」
芸術を追及していたヘスタのサナリさんは、逆にものすごく特殊だったのかもしれない。
「それで。ここへ来たということは、不完全遺物の鑑定か復元をしたいのだろう? 現物があるなら出すといい」
「あ、そうでした」
錆びた棒のようなもの……なにがしかのスキルでも必要なのか、アイテム名も「不完全遺物」としか表示されない何かを出した。
「ふぅん、接合部か。フレイルに見えるが……ここに残っているのは皮革素材だな。ふたつ接合した刀剣か、かなり特殊なタイプの武器だ」
「す、すごい……!」
「サリディスの私は百五十年存在している。一山当てようという愚か者が多くてね、遺物は何千と鑑定してきたのだ」
「さすがね。ここへ来てよかったわ」
なんだかよくわからなかった何かは、……説明されても具体的には分からないけど、たぶん剣の持ち手だろう、ということだった。
「ふむ、そうだな。これを復元するには相当骨が折れるぞ、破損の度合いがあまりにも大きすぎるからな。ここまでだと、ただ物質的に埋めるだけではいけない」
「物質的に……素材持ってくるだけじゃダメってことですか」
「まあ、そうなるな。いくつかのブレイブを添加剤に、オーグメ……経験値をこちらに分配する処置をする必要もある。要するに、本来のバリアスの専一化処理と似た手順を踏むことになるな」
「え、えっと」
こっちが知らない情報までばんばん流し込まれるので、置いて行かれている。
「さて、君の使っている武器はなんだ? とくに何か持っている様子はないが」
「ライヴギアを……」
「ふむ。先人の知恵を隅々まで使うか、かれらも誇らしいことだろうよ」
「そうでしょうか」
いまひとつ、どういう考えなのかわからない人だった。
「修復したくなったら、いつでも来るといい。処理はいつでもできるからね」
新作がちょっとずつ進んでいます。まともに書けてるのひさびさな気がする。




