97.アリアと古代の魔獣
ランダロスは一度、洞穴へ戻り、3m近くある大きなベルベストタイガーを2体連れて戻ってきた。
「よし行くぞ!」
「うわっ!」
ランダロスはカルマを咥え放り投げると、自分の背中に乗せる。
「すげぇ。これでいくの?」
後ろを振り向くと、ハウロスとカミルもベルベストタイガーの背に乗っている。
カミルは不思議そうにベルベストタイガーの背中を叩いている。ハウロスは少し心配そうな顔をしている。
「では、行くぞぉ!」
「ガアァ!」「ガフゥ!」
3人を乗せた三体は凄い速さで雪の上を駆け上がっていく。
「早えぇ。」
「これならすぐに山頂までいけそうだな。」
「なぁ。ランダロス」
「なんだ?」
「言語を話せるのはランドロスだけなの?」
「ああ、人間の言葉を話せるのは我だけだ。」
「ランドロスみたいな魔獣は見たことがない…」
「我はグランダムができる前から生きている。古代の魔獣だからな。」
「え!?魔創神グランがこの大地を平定する前から?」
「そうだ。」
「凄いそんな魔獣がいたなんて……」
「さぁ、もうすぐ山頂だぞ?」
「え!もう?」
「我らにとってはこの山は庭のようなものだからな。」
3人と3体はベルベスト山の山頂へ辿りついた。
彼らはその絶景に言葉が出なかった。遠くまで広がる大地に地平線。山の麓には街や森が見えている。
「あれがコロラド連邦だ。」
「街がちっさい…」
「これは絶景ですね…ボス」
「うん。凄いね。これだけでも来た価値はあっただろ?」
「本当に素晴らしいな。」
驚く3人に続くように、三体のベルベストタイガー達を遠吠えのようにその景色に向かって吠えている。
「よし、では下山する。下りは更に早いので捕まっておけ。」
ランダロスが言うように、下りの道のりは凄いものだった。岩肌をとびこえ、直角の岩壁を走り、深い雪をものともせず走り抜ける。
「ランドロスはなぜ人間の言葉を話せるの?」
「……500年も昔のことだが、アリアという召喚術士がいた。
彼女は我を含む各地の魔獣と契約していた大召喚術士だが、彼女は自らの利益の為に我らを召喚することはなかった。」
「じゃあ何のために召喚契約をしていたの?」
「……ふっ、我らと"友達"になりたかったそうだ。
そんな彼女は各魔獣と対話を行えるようになるために、それぞれの魔獣の言語を覚えようとしていた。」
「そんなことできるの?」
「無理だな。だが、彼女は諦めなかった。何度も何度も我らの声を聞こうとしていた。
我はそんな彼女の思いに応えようと思い始めた。
それから数十年、人間語を練習し話せるようになった。
各種国の魔獣の言葉に比べれば、人間の言葉など、単調で簡単だ。」
「まぁ、人間語を話せるようになった頃、アリアは死んでしまったが……」
「そんな……」
「わはは、そんな暗い話でもない。
そもそも人間の寿命など我からすれば、ほんの僅かなものだ。それにもう500年も前の話だしな。」
「でもこうしてランダロスと話ができるのも、そのアリアって人のおかげなんだね。」
「まぁ、そういうことだ。そう意味では、人間の言葉を覚えたことは悪くはなかったのかもな。
こうして、人間の小僧に昔話を聞かせることができた。」
「ふふっ、そうだね。」
そんな話をしているうちに、麓の街が目の前に広がってきた。ベルベスト山を越え、コロラド連邦領が近づいてきたのだ。
「ボス、もうすぐですよ!」
「うん!」




