95.個性
そして十分に回復した3人は山を越えるため、洞穴を出る。
「あれ?ボス?」
「ん?」
「眼帯は……」
カルマはこれまで隠していた左目の眼帯を外していた。
もちろんハウロスとカミルはカルマの左目のことを知っていたが、いきなり外して外に出ようとしているのだから驚いたのだ。
「いや、なんか馬鹿らしく思ってさ。」
「なにがだ?」
「この間言ってくれたじゃん?前世がどうであれ、俺は俺だって。
この左目も同じだなって。目が赤くても俺は俺さ。
それにさ。隠すのって逃げてるのと同じじゃん。この現実を受け止めようと思ってね。」
「街ではどうするんですか?」
「ん?このまま行くよ。」
「それは…騒ぎになるんじゃ…」
「それなら慣れてもらうのを待つだけさ。」
「……」
「私はいいと思うぞ。それでこそカルマだ。」
「うん!」
「そうですね!ボスがいいならいいと思います。」
カルマはその赤い目をさらけ出した。
カストリアの家ではバトロフが厳しく目を出さないよう言いつけていた。それからカルマは10年以上目を隠し続けていた。
バトロフの言いつけは間違っていない。子供だったカルマを守るために必要なことだった。
だが、カルマはもう1人の戦士だ。カルマはその赤い目を自分自身の個性なのだと割りきったのだ。
そんなカルマに続いてハウロスとカミルも歩き出す。
しばらく傾斜を登ると、先日ベルベストタイガーと遭遇したあたりまで戻ってきた。
3人は慎重に、少しルートを変えながら登っていく。
すると、近くの木陰から何か物音が聞こえる。
「何かいる……?」
「フガッ!フガ……」
「これは……」
そこには足を怪我しているのか、倒れ込み足をばたつかせている小さい魔獣がいた。
「お……おい、ベルベストタイガーだぞ。」
それはベルベストタイガーの子供だった。
大きさは人間よりも小さいくらいだが、子供とはいえ、その姿はこの山の獣の頂点だ。
「足が折れているのか……」
カミルはベルベストタイガーの子供に近づく。
ベルベストタイガーの子供は足に触れようとするカミルに威嚇している。
「大丈夫だ…私も森で育った。こんなに寒いところではなかったが...
落ち着け…危害を加えるつもりはない。」
カミルは声をかけながらゆっくりと撫で始める。
ベルベストタイガーは次第に威嚇を止める。
「おお……」
「手伝ってくれ。包帯があったよな。木で固定して縛るぞ。」
「ああ、うん。」
3人はベルベストタイガーの子供の折れている足や、体の傷の応急処置を行う。
「よし、これでとりあえず大丈夫だ。」
「でも、この後どうする?」
「お前、まだ歩けないだろ?」
「グルル……」
「……」
「カルマ?」
カルマはベルベストタイガーに近づくと、体を持ち上げる。
「どうするつもりだ?」
「この間、巨大な奴が出てきたところ、穴があったと思うんだけど…」
「!?……まさか連れていくつもりですか?」
「いや、近くまで送るだけだよ。危険な目に遭うかもしれないから、2人はここで待ってて。」
「いや、私もいくぞカルマ」
カミルもベルベストタイガーの体を抱える。
「あぁ!わかりました。俺も行きます。」
「2人とも…戦闘になるかもしれないよ?」
「かといって、置いていくわけにもいかないんでしょう?」
「そうだね。」




