兄ダグラスの帰還
ある日、カルマにとって胸が跳ねる知らせが届いた。
兄ダグラスが、久しぶりに帰ってくるという。
「よし、兄さんが帰るまでに使える魔術を増やすぞ!」
小さな拳を握りしめ、カルマは勢いよく家を飛び出した。
兄に褒めてもらいたい。
驚かせたい。
追いつきたい。
その想いだけで、足取りは軽かった。
⸻
それから約一ヶ月後の夜。
家族で食事を囲んでいたその時だった。
——バンッ!!
扉が勢いよく開く。
「ただいま戻りました!」
「兄さん!!」
カルマは椅子を蹴るように立ち上がった。
戸口に立っていたのは、屈強な戦士の姿。
高い背、厚い胸板、鎧の隙間からのぞく鍛え抜かれた筋肉。
それでもカルマにとっては、ただの“兄”だった。
「おお、カルマ……大きくなったな」
低くて優しい声。
カルマは迷わず飛びついた。
「兄さんお帰りなさい!僕ね、話したいこといっぱいあるんだ!」
「はは、待て待て。あとでちゃんと時間を取る」
大きな手が、くしゃりと頭を撫でる。
「カルマ、兄さんは疲れてるんだ。また後にしなさい」
父の声に、カルマは名残惜しそうに席へ戻った。
ダグラスは荷を下ろし、両親の前に立つ。
「父さん、母さん。ただいま戻りました」
「よく帰ったな。ゆっくり休め」
「お湯を用意するわね」
「ありがとうございます、母さん」
昔から変わらない光景。
ダグラスは両親に敬語を使う。
不思議に思ったことはある。
けれどカルマにとって、それは“いつものこと”だった。
⸻
食事の後。
居間で魔導書を読んでいると、ダグラスが入ってくる。
「待たせたな。少し外に出るか?」
カルマの顔が一瞬で輝いた。
「うん!!」
⸻
町外れの草原。
夜風が気持ちいい。
「魔術を使えるようになったんだってな?」
「うん!いっぱい練習したんだ!」
「兄さんに見せてくれるか?」
「もちろん!」
カルマは草原の中央へ駆け出す。
「いくよ!」
手をかざす。
ちり、と火花が散る。
続けて炎の球が放たれ、氷の鞭が空を裂き、地面が白く凍りつく。
小さな体から、次々と初級魔術が放たれていく。
「どう!? まだ他にもできるよ!」
ダグラスは言葉を失った。
初級魔術——確かに難度は高くない。
だがそれは“魔術士にとっては”だ。
七歳の子供が、独学で、複数属性を操るなど。
(……規格外だ)
胸の奥が、熱くなる。
誇りと、そして微かな焦り。
「……すごいな、カルマ」
「ほんと!? 頑張ったんだよ!」
「さすが俺の弟だ。将来、とんでもない魔術士になるぞ」
カルマは満面の笑みを浮かべる。
「ねえ兄さんは魔術使えないんだよね?」
「ああ。俺は剣だけだ。魔力はほとんど無い」
「兄弟なのに不思議だね」
「あ、ああ……そうだな」
一瞬だけ。
ダグラスの視線が揺れた。
夜風が草を鳴らす。
カルマは気づかない。
その言葉が、兄の胸をどれだけ締めつけたかを。
〈頭の中の整理用 メモ〉
ダグラス・ミラ・フィーラン
= カルマの兄で有名な剣士。
カルマの兄だが魔術は扱えない。




