涙の理由
「失脚するって、どういうことですか……?」
レミノアの声は、かすかに震えていた。
「先王ゴードンの魔導符による遺言は、ドルドスの工作だったと判明しました。
今、ミルズ三傑のうち二人は戦闘不能。筆頭剣士ガーディスはドルドスに対し謀反を起こしています。」
「そんな……」
「だから、あなたがドルドスを恐れる必要はない。
ドルドスは王ではない。遺言を捏造した反逆者です。
俺たちが、必ず捕らえます。」
沈黙。
「……ごめんなさい……」
レミノアは震える声でそう言い、ゆっくりと振り向く。
涙を拭い、そして――膝をつき、両腕を広げた。
「お母さん!」
バランが飛び込む。
「ごめんね……バラン……ごめんね……」
レミノアは嗚咽を漏らしながら、息子を抱きしめる。
カルマは、その涙を見ていた。
震え。
躊躇い。
そして――まだ消えていない恐怖。
だが今は、それでいい。
カルマは小さく微笑む。
その時だった。
「……!!」
ふと、窓の外に視線を向けたカルマの表情が変わる。
王宮の正門から、慌ただしく走る二人の姿。
ドルドス。
そしてボルドー。
「……逃げる気か。」
カルマは迷わず窓を開け、窓枠に足をかける。
「え!?ちょ、何してるの!?」
制止の声も聞かず、カルマは外へ飛び出した。
「ドルドス……」
バランは窓からその背を見つめる。
___
風が耳を裂く。
四階。
地面が、遠い。
「……しまった。」
勢いで飛び出したことを、空中で後悔する。
これまでフィルスと行動していたせいで感覚が狂っていた。
彼女は、どこからでも平然と飛び降りていた。
「……魔力を、足に」
師の姿を思い出す。
呼吸を整え、魔力を脚部へ集中。
――着地。
衝撃が地面を砕く。
土煙が舞い上がる。
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「陛下、王国軍が到着したようです。」
「ひゃははは!これで侵略者どもも終わりだな!」
「ええ。三傑は手間取っているようですが――」
ドォン!!
馬車の前方に土煙が立つ。
「何だ!?」
その煙の中から、カルマが現れる。
「……っ、痛ぇな。」
「衛兵!曲者だ!」
ボルドーの号令と同時に、護衛が一斉に斬りかかる。
だが――
「魔剣術」
炎が閃く。
抜刀の一瞬で、二人の衛兵が地に伏す。
「くそっ、なんだこいつは!」
「我が兵は何をしている!」
その時。
王宮の大扉から、大量の兵が駆け出してくる。
「おお!来たか!」
ドルドスが歓喜の声を上げる。
だが――
様子が、おかしい。
兵たちは、カルマに向かっているのではない。
顔は蒼白。
恐怖に歪み。
何かから“逃げている”。
「な……?」
最後尾、轟音とともに、土煙が巻き上がる。
次の瞬間、兵たちが宙を舞う。
大地を踏み砕きながら進む、一人の男。
その姿はミルズ三傑 筆頭剣士ガーディス。
その眼は、怒りではなく――
“断罪”を宿していた。
「ドルドス……」
低く、響く声。
ドルドスの顔から、笑みが消える。




