グロウスの過去
「やった……か?」
「ふぅ……。」
二人は同時に力が抜け、その場に座り込む。
血が床に滴る音だけが響いていた。
「さすがはミルズ三傑……二人がかりでようやくだ。」
「ああ、本当だ……あ、!!」
ハウロスの視線が凍りつく。
クレーターの中心。
崩れ落ちていたはずのグロウスが、ゆらりと上体を起こしていた。
体は血に染まり、片足はまともに動いていない。
それでも。
矛を支えに、立とうとしている。
「ゴードン様と語った……強い国にする為に……」
「……?」
声はかすれ、今にも途切れそうだった。
だがその目だけは、死んでいない。
その瞳に宿るのは憎悪ではなく――誓い。
彼の体はとうに限界を超えている。
それでも立ち上がろうとする。
それは、今は亡き恩人と見た夢のため。
ただ、それだけのために。
視界が、遠い昔へと滲む。
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回想(グロウス視点)
このミルズ王国はかつて、大国カイルディアとコロラド連邦に挟まれた緩衝地帯だった。
戦は日常。
炎は風景。
敵兵の足音と泣き声が、街の音だった。
グロウスも、その中の一人。
名もなき戦争孤児。
食べ物を求め、瓦礫の隙間を漁る日々。
ある日、豪奢な馬車が街を進んでいた。
衛兵に囲まれた、明らかに重鎮の移動。
グロウスは躊躇なく飛び出した。
「なんだ貴様!」
槍が向けられる。
「兵士でも、なんでもいい。僕に仕事をください……」
「何を言っている、このガキ――」
「待て。」
低く、よく通る声。
馬車の扉が開く。
現れたのは、この国の王――ゴードンだった。
「仕事が欲しいのか?」
グロウスは、ただ頷く。
王はしばし彼を見つめ、静かに言った。
「ならば、一緒に来なさい。」
「なっ!?ゴードン様?」
「いい。出しなさい。」
それが、すべての始まりだった。
グロウスは兵士として育てられた。
血を流し、骨を折り、何度も死にかけながら強くなった。
やがてミルズ随一の矛の使い手と呼ばれるまでに。
ある夜。
ゴードンは城のバルコニーで語った。
「この国は、戦争が多すぎる。」
夜風に乗る、重い声。
「侵略され、防ぎ、また奪われる。その度に兵は疲弊し、君のような孤児が生まれる。」
拳を握る王の背中。
「私はね、グロウス。他国がこの国を攻めることを諦めるほど、強くなりたいのだよ。」
振り返る。
その目は、王ではなく、一人の人間の目だった。
「そうすれば、国民が傷つくこともない。君のような子も、もう生まれない。」
その言葉は、少年の胸を撃ち抜いた。
「ゴードン様。僕は、陛下と共にこの国を強くするために命をかけます。」
「はっはっは。心強いな、グロウス。」
その後、彼は噂を聞く。
元天級の戦士が、故郷ミルズに戻っていると。
会いに行った。
それが、ガーディスとラミだった。
ゴードンと引き合わせ、三人は誓いを交わす。
――ミルズ三傑。
守れる国へ。
攻められぬ国へ。
そして、ミルズは強くなった。
攻められても、守れる国へと。
とりわけ元天級の戦士ガーディスは圧倒的だった。
グロウスは自ら筆頭剣士の座を譲る。
それでいい。
国が強くなるのなら。
やがて他国は、ミルズを攻めることを躊躇うようになった。
夢は、確かに形になっていた。
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