地を穿つ
「はぁ……はぁ、僕もどうかしていたね……少し感情的になってしまった。」
グロウスはこめかみを押さえ、ゆっくりと呼吸を整える。そして鋭い視線で二人を射抜いた。
「は、はは……こんな二人に我を忘れるなんてあり得ない。冷静にいこう。」
膝を深く曲げ、姿勢を低く落とす。
次の瞬間、床を砕く勢いで踏み込み、一気に距離を詰めた。
「任せい!」
閃光のような矛の連撃を、ローグベルトが大盾で真正面から受け止める。
甲高い衝突音が廊下に響く。
「そのまま動くなよ!」
ハウロスは後退しながら、手元の魔鋼と、先ほど切り裂かれて散乱した欠片を一斉に震わせる。
無数の金属片が針のように伸び、ローグベルトを避ける軌道でグロウスへ襲いかかる。
「ちぃ……本当に目障りだね、君は!」
体を紙一重で捻り、矛で弾き、辛うじて躱すグロウス。
だが、その動きにわずかな乱れが生まれる。
「俺が盾だけだと思っているのか?」
盾の陰で、ローグベルトの腕が大きく振りかぶられていた。
「地動斧!!」
重力そのものを叩きつけるような一撃。
グロウスは矛で受けるが、衝撃を殺しきれず、後方へ弾き飛ばされた。
床を転がり、壁へ叩きつけられる。
「今だ!小僧!」
二人は一気に距離を詰める。
倒れたグロウスへ、斧と剣が同時に振り下ろされる――
その瞬間。
グロウスの姿が掻き消えた。
次の瞬間には、二人の頭上。
回転しながら軽やかに飛び越え、背後へ着地する。
「あんまり舐めないでよね?」
「!!?」
「ガハッ……!」
遅れて、無数の斬撃が二人の体を走る。
いつ斬られたのかすら分からない。
ハウロスとローグベルトは膝をつき、血を滴らせる。
「くそ……」
「なんだ……見えなかった……」
「さぁ、もう終わりかい? 僕はまだまだ君たちを切り裂かないと気が済まないよ?」
「くそ……マゾ野郎が……」
「お前の魔鋼で足止めはできんのか。」
「手元のはほぼ使い切った。今は落ちてる欠片を拾いながら戦ってる。足止めできるほど量はない。」
「さっき落ちている魔鋼も動かしていたな?」
「あれは近くのやつだけだ。しかも一度見せたから、もう不用意には近づかない。」
「なるほどな……」
血を拭いながら、ローグベルトはわずかに笑う。
「なんだ? 作戦会議かい? 無駄だよ。
盾は厄介だが鈍重なパワー型。君は近づかなければ怖くないテクニカル型……もう見切った。」
グロウスが矛を構え直す。
「ふ……どうかな。」
ローグベルトは盾を前面に構え、ハウロスを覆い隠す。
ハウロスは静かに息を整えながら、足元へ視線を落とす。
そこには、戦闘で砕かれ、踏み散らされた魔鋼の欠片が無数に転がっていた。
「守ってばかりじゃ勝てないよ!」
グロウスが真正面から突撃する。
豪快な薙ぎ払いが盾を打つ。
「盾は切れなくても、体勢を崩せば終わりさ!」
強烈な一撃で盾が横へ弾かれる。
大きくこじ開けられた防御。
「不用意に近づいたな……?」
「……!!」
盾の裏から現れたのは、ローグベルトではない。
ハウロスだった。
同時に、床一面に散らばっていた魔鋼の欠片が一斉に変形する。
針となり、楔となり、グロウスの両足を床へ縫い止めた。
「なっ――」
「今だぁ!」
ハウロスの背後からローグベルトが跳び出す。
「地動斧!!」
魔力を帯びた渾身の一撃が振り下ろされる。
「ぐあぁぁ!!」
矛で受けたが、衝撃は止まらない。
矛ごと、グロウスは地面へ叩きつけられた。
轟音。
床は中心から放射状にひび割れ、クレーターのように陥没する。
血を吐き、グロウスはその中心に沈んだ。
矛が、かすかに震えている。




