最強の矛
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場面は変わり、応急処置3階のハウロス
ハウロスはカミルと別れ、三階の廊下を進んでいた。
逃げ惑う王族の姿はある。だが敵影はない。
「よし、このまま階段を見つければ、バランのお母さんのいる四階だぞ!」
「うん!」
二人は廊下を駆け抜ける。
「……!」
階段を目前にして、ハウロスは足を止めた。
階段前に、矛を携えた細身の若い男が立っている。
静かに、待ち構えるように。
「やはり現れたか……ミルズ三傑、矛使いのグロウスだな?」
「ここまで来るとはね。でも――ここは通さないよ。」
軽い口調。だが隙はない。
(ボスとカミルが残りを抑えているはず……こいつさえ倒せば)
「悪いが、通させてもらう!」
ハウロスは魔鋼を展開。短剣から長剣へと瞬時に変形させ、一気に踏み込む。
刃を振り下ろす――
「魔術で変形?……いや、魔鋼か。」
グロウスの矛が一回転する。
次の瞬間。
「……!?」
横薙ぎの一閃。
ハウロスの長剣は、音もなく両断された。
最高硬度まで凝縮した魔鋼が。
剣先が廊下の石床に突き刺さる。
「最高硬度だぞ……鋼より硬いはずだ……」
ハウロスの目が見開かれる。
魔鋼は変形素材。だが凝縮すればあらゆる金属を凌駕する強度を持つ。
そして今の一振りは、彼の最高到達点だった。
「驚くのも無理はないよ。」
グロウスは矛をくるりと回す。
「これが僕の応徳剣術――
どんなものでも貫き、切断する〈最強の矛〉だ。」
刃先が床を掠める。
触れただけで石が裂け、壁が滑らかに断ち割られる。
「出鱈目な能力だな……」
間髪入れず矛が襲いかかる。
ハウロスは魔鋼を次々と変形させ、盾に、鎖に、刃に変えて受け流す。
だが――
触れた瞬間、すべてが断たれる。
魔鋼の欠片が、廊下に散っていく。
(まずい……削られてる)
仕込んでいた魔鋼は多い。だが、無限ではない。
切断。
破砕。
消耗。
やがて――
最後の一片が、宙で断ち割られた。
ハウロスは距離を取る。
「底をついたんだね?」
グロウスが一歩、踏み出す。
「じゃあ――おしまい。」
矛が振り上げられる。
踏み込みは速い。
「がはっ!」
視界が揺れる。
次の瞬間、ハウロスの肩から血が噴き出した。
浅くはない。
だが致命ではない。
それが逆に、グロウスの余裕を物語っていた。
「安心して。急所は外した。
君は生かして連れて行くよう言われてるからね。」
矛の切っ先が、ハウロスの喉元へと向けられる。




