バランの母
カルマは目が覚めると宿屋で横になっていた。
カルマは慌てた様子で起き上がる。
「あっボス、大丈夫ですか?」
「あ、うん。それよりバランは?」
「バラン?ああ、あの少年ですね。そっちのベッドで寝てますよ。」
カルマが振り返ると、バランは寝息を立てて眠っている。近くにはカミルが座っていた。
「この子も特に問題ない。安心しろ。」
「ああ、ありがとう。」
「一体何があったんです。」
カルマはハウロスとカミルに経緯を話す。
王宮の麓で衛兵に追われるバランにあったこと。
バランの母が王宮に連れて行かれたこと。
「なるほど……それでこの国の王族に雇われた戦士達と交戦したと…」
「うん。エクスプロドって言ってた…」
「エクスプロド!?」
「知っているの?」
「新星ですよ。」
「新星?」
「戦士になって1年目で上級以上の戦士に認定された者をそう呼ぶんです。今年も何人か新星が出ましたけど、エクスプロドの団長は確かその1人です。」
「そうか。あいつが…」
「ハウロスはよく知ってるね。」
「ええ。衛兵隊の中に戦士オタクがいたんですよ。
それに、エクスプロドの団長は俺と同い年の16歳なんで記憶に残っていたんです。」
「16歳...」
「それでどうするんだ?
バランをこのままほっとく訳にもいくまい。」
カミルがバランの顔を見ながらカルマに問いかける。
「そうだね。……」
「でも、この子の母親は王宮に自ら行ったんですよね。やれることなんてないんじゃないですか?」
.....
「どうにかバランをお母さんに会わせてあげられないかな?」
「……まさか、この子を連れて王宮に乗り込む気ですか?」
「無理かな?」
「いやいやいや、流石に無理ですよ」
「侵入くらいできるのではないか?」
「いやいやいや、何言ってんだよカミル。一国の王宮だぞ?」
ハウロスは現実的に無理だと主張する。
「俺も可能性はあると思う。けど、問題はその後だと思うんだ。」
「そのあと?」
「仮にバランをお母さんに会わせて、連れ戻すことができたとして、その後俺達がこの国を去ったら、バランとバランの母は無事に生きていけるかな。」
「他国に逃したらどうだ?」
「一度手から離れた人を強引に連れ戻す程の王だ。
仮に2人がこの国から逃げたとしても、追手に追われ続けることになるよ。」
「それもそうだな。」
「んー……」
その後、3人は話し合いを続けたが答えが出ることはなかった。しばらくはこの国に滞在する予定だったので、その間、この国の情報を集めることにした。
「でも、ボス、この国に滞在するといっても、魔導図書館にはもう行けないですよね?」
「うん。衛兵に顔を覚えられただろうし、まともに街も歩けないだろうね。」
ハウロスはそれを聞いて何かを考える。
「もしよければなんですが、闇商店なる場所を知ってるんですが、行ってみますか?」
「え?闇商店?なにそれ。」
「この国では魔導書の売買は国が行う魔導図書館意外禁止されているんです。」
「非認可で魔導書を売っている店ってこと?」
「はい。そうです。」
「なんでそんな店を知ってるの?」
「前に仕事でミルズに来たことがあると話したと思うんですけど、その時に要注意の施設の一つとして聞いたんです。」
「ミルズ王国から要注意と思われてるお店だと、既に警戒されているんじゃ……」
「俺が来た時は反乱が起きていた時でしたから、あくまで反乱の火種になり得るという意味での警戒でしたよ。結局その店は反乱には無関係でしたからね。」
「なるほど、じゃあ明日行ってみようかな。場所だけ教えて。」
「わかりました。」
「カミルはどうする?」
「この間も言ったが私は魔導書の知識は皆無だ。悪いがカルマに任せよう。」
「わかった。カミルに合いそうなものが見つかったら声をかけるよ。」
「ああ、助かる。」




