畏怖
「ふぅ……」
カルマは深呼吸し、地面に落ちた眼帯を拾い上げた。
「ごめんなさい……助けてくれて、ありがとう」
俯いたままの少女。
「大丈夫だった?」
「あ、うん……」
........
カルマは慌てて眼帯を付け直す。
「怖いよね、こんな目」
少女ははっと顔を上げた。
「ち、違うよ!助けてもらったのに、怖いなんて……!」
必死に首を振る少女。
「さっきの……魔術?」
「うん。ただの初級基礎魔術だけどね」
カルマは少し照れくさく笑った。
「あの...私にも、教えてくれない?」
少女は少し迷ってから、小さな声で言った。
カルマは一瞬考えた。
でも最後は、いつもの笑顔になる。
「いいよ。一緒にやろう」
少女の顔がぱっと明るくなる。
「あと..さ、名前で人は決まらないよ。気にしなくていい」
少女は少し驚いた顔をした後、俯きながら小さく頷いた。
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それから数日。
二人は並んで本を開き、魔術の練習をしながら笑った。
彼女はイリーナといって、カルマによく懐いた。
カルマは少しだけ思う。
ノーリエさんの所にも行きたいな、と。
でもイリーナの嬉しそうな顔を見ると、まあいいかと思えた。
誰かの役に立てることが、嬉しかった。
_________
翌日。
今日はイリーナは来られないと聞いていた。
カルマは久しぶりに一人で街へ向かう。
——何かが違った。
最初は分からなかった。
でも、歩くほどに気づく。
誰も笑いかけてこない。声が小さい。視線が、刺さる。昨日までの温度が、ない。
魚屋の主人が声をかける。
「坊主……お前、緋眼なんだってな」
カルマの心臓が止まる。
振り返ると、人が集まっていた。
その目は、昨日までと違う。
遠巻きに見る目。距離を取る足。囁き声。
「不吉な子供だ」
「魔人の仲間か」
理解が、遅れて追いつく。
——ああ。
知られたんだ。
石が飛んできた。
痛みより先に、胸の奥が冷える。
どうして。
ただ、目が赤いだけなのに。
〈頭の中の整理用 メモ〉
緋眼= 赤い瞳のこと。
この世界では赤い瞳の魔人が昔から恐れられているため、緋眼は忌み嫌われている。




