ゲド族のミド
翌朝、ハウロスが目を覚ますとカルマが何やら外出の準備をしていた。
「おはようございます。もう行きますか?」
「あ、おはよう。ごめんハウロス、ここを出るのもう数日待ってもらってもいい?」
「え?俺は構いませんが、何かあったんですか?」
「ちょっと急いでて、また話すー!」
カルマはそういうと急いで部屋を出て行った。
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カルマは長老の家を訪ねる。
「カルマ殿、どうされたかな?」
「長老、あと1日か2日かここに滞在してもいいかな?」
「それは構いませんよ。好きなだけいてくだされ。」
「それともう一つ聞きたいことがあるんだけど」
「なんですかな?」
「この集落に魔導書があるところってある?」
「魔導書ですか?ゲド族の者に魔術士はいませんが……
あそこにある、ミドの家ならいくつかあると思います。昔、魔術を覚えるといってどこからか集めていたので」
長老は木上に作られている家屋を指差して言う。
「あそこか……ありがとう。ちょっと行ってくるね!」
カルマはそれを聞くなり、その木に吊るされた梯子を登り始める。
カルマはミドの家の扉をノックする。
「あの〜すみません。」
「…なんだい?」
そこの家から、他の部族とは雰囲気の違う女性が出てくる。
「あなたがミドさん?急で申し訳ないんだけど、ミドさんが持っている魔導書を見させてもらいたいんだけどいいですか?」
「……」
ミドはジッとカルマを見つめる。
「いいよ。入んな。」
ミドの家に入ると、本棚に並ぶたくさんの魔導書があった。
「すごい。たくさんある...」
「あんた、そこそこやり手の魔術士だろ?」
「そんなこともないけど、なんで?」
「見ればある程度わかる。今更基礎魔術の魔導書が必要なのかい?」
「うん。ちょっと必要な魔術があってね。」
「もしかして……」
「?」
ミドは本棚の中からとある魔導書を取り出し、あるページのを開く。
「あんたが探している魔術はこれかい?」
「なんで……」
カルマは驚きのあまり声を出すことができなかった。
何故ならまさに自分が探していた本の、しかも探していた内容のページをミドが開いていたからである。
「ミドさん、あなたもしかして...」
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その頃、ハウロスはカルマのことが気になり長老の家に来ていた。
「長老、うちのボスは……」
「ああ、あそこですよ。」
長老が指差す先には木の上に造られた家屋がある。
「あそこになにがあるんです?」
「この集落に魔導書があるところはないかと聞かれたので、あそこに住むミドなら魔導書を持っていると伝えましてね。」
(何故魔導書を……?)
「ゲド族にも魔術士がいるんですか?」
「いや、ミドは魔術士ではありません。魔術を学んでいるだけです。」
「なぜ学んでいるんです?」
「ミドは10年前に旅立ったギルを探しに行こうとしているんです。」
「ギルって確か……」
「ええ、カミルの兄です。ゲド族の弓の実力は天下一品、彼なら有名な戦士になると思っていたのですが…」
「何かあったんですか?」
「いや、わからんのです。10年前にここを出て行ったっきり。連絡もなく、話を聞くこともない……
そしてミドはギルの幼馴染でした。」
「それで……」
「ええ。最近では部屋に引きこもり魔術の知識ばかり得ようとしている。」
戦士は各国の戦士協会に登録することでなることができるが、戦士協会に所属する戦士の数は年々増えているという。
その中で名を轟かせるほどの戦士となる者はほんの一握りだ。ギルのように実力のあるはずの戦士が地方支部の任務を受けるだけの日々…なんてことも少なくはない。
ハウロスはカルマのことが気になってはいたものの、邪魔をしないように部屋で待つことにした。




