牢獄の少女
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カルマとハウロスは、使われていない家屋を借りることになり、ひとまず腰を下ろした。
陽が落ちるまでまだ時間がある。カルマは一人、外へ出て集落を歩いてみることにした。
子供達は弓の練習をし、
大人達は木材や食材を運び、
あちこちで談笑の声が上がっている。
森の奥とは思えないほど、穏やかな光景だった。
……
集落の外れまで歩いた時だった。
奥の大木に、木材で組まれた不自然な建造物がぶら下がっているのが見える。
近づくと、それは牢のようなものだった。
中には、部族と同じ装束を着た一人の少女が閉じ込められている。
カルマと目が合った瞬間、少女は喉の奥から唸り声をあげた。
「うーっ……!」
今にも飛びかかりそうな勢いで牢を揺らし、カルマを威嚇する。
その目は焦点が合っていない。
「すみません。変なものを見せてしまって。」
いつの間にか、長老が隣に立っていた。
「あの人は?」
「あやつはカミル。この集落で育った者です。」
「どうして、あんな……」
「母親を亡くしてから、手がつけられぬほど暴れるようになりましてな。」
「だから牢に?」
「……あやつは“悪魔憑き”なのです。」
「悪魔憑き……?」
「徐々に凶暴になり、今では言葉もほとんど通じません。」
少女は再び牢を揺らす。木が軋む音が森に響いた。
「さ、あまり近づかぬ方がよい。戻りましょう。」
「……はい。」
カルマは最後にもう一度だけカミルを見ると、集落へ戻った。
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その夜、長老達と共に食事を囲む。
森の実りと、狩猟で得た獣の肉。豪快に焼かれたそれは驚くほど美味だった。
だが、カルマの頭からは牢の少女の姿が離れない。
「長老。さっきのカミルの話、詳しく聞いてもいいですか?」
「気に掛かりましたかな。」
「僕と同じくらいの子が、ああやって繋がれてるのを見ると……」
長老はゆっくりと頷いた。
「カミルは昔は元気な娘でした。母と、歳の離れた兄ギルの三人暮らし。」
「兄?」
「ええ。ギルは戦士になると言って集落を旅立ちました。一族総出で見送ったものです。」
そこまでは希望の話だった。
「その後、母親が病で亡くなりました。医者もおらぬ森の暮らしです。珍しいことではありません。」
そして、カミルは一人になった。
「カミルは私の家で引き取りましたが、部屋から出なくなりましてな。」
そして、ある日。
「突然、家から出てきたかと思えば、暴れ出したのです。白目を剥き、まるで何かに操られているように。」
男達が総出で取り押さえたという。
「その力は異常でした。」
その後、正気に戻ったが――
「定期的に暴れるようになったのです。しかも、回を追うごとに間隔が短くなっていった。」
つい先日。
「子供を襲いました。」
命は助かった。だが、隔離が決まった。
「今は……寝ているか、暴れているかのどちらかです。」
……
部屋に戻り、寝床につく。
「ボス、気の毒ではありますが……これはゲド族の問題です。あまり深入りしても。」
「うん……」
カルマは天井を見つめる。
森は静かだ。
だが、あの少女の唸り声が、耳の奥に残っている。




