マイボス
カルマとハウロスは故郷カストリアを離れ、魔術士アリディアを訪ねるためにルードミリシオンを目指す。そのためにはまずはカストリアの隣国、ミルズ王国へ行く必要がある。
ミルズ王国へ行くにはまずはラダの森を抜ける必要がある。
カルマがフィルスと修行のためにラダの森へ入った時にはただ単に整備されていない森の中に入っただけだが、森の中にはミルズへ抜けるための整備された道が存在している。
だが、そのルートを通ったとしてもしばしば魔獣が現れるため、武力を持たない商人等には厳しい道のりだ。
2人はラダの森に到着すると、木々の間に伸びる道を進んでいく。
「ラダの森にこんな道があったんだ。」
「カルマ殿はこの森で修行していたんですよね?」
「うん。そうだよ。というか、その"カルマ殿"っていうのやめない?」
「じゃあ…カルマ様?」
「いやもっとやめて。普通にカルマでいいよ。」
「いえ、俺はあなたの従者になったんですからそうはいきません。」
「従者にしたつもりもないんだけど…」
「何と呼べばいいですか?戦士団でもないから団長も変だし…あ、そうだ。フレアローズって知ってます?」
「なに?それ。」
「賢人ルドラが台頭した同時期に活躍していたっていう非公認の戦士団らしいんですけどね。」
「非公認の戦士団…ってなんか悪い人達なの?」
「いやいや、緋衣の魔人の1人を倒したすごい人たちですよ。」
「なんで非公認なの?」
「なんでもリーダーが14歳で、公式には認められなかったからだそうです。」
「ああ、戦士になれるのは15歳からだからか。でも、そんな人が緋衣の魔人を?」
「ええ、それでそのリーダーのことを団員達は"ボス"って呼んでたらしいんですよ。」
「へぇ。」
だからどうですか"ボス"って」
「えぇ、やだよ。マフィアみたいじゃん。」
「…?マフィア?……まぁ、若くして戦士を目指すカルマ殿もフレアローズと似たところがありますから、こらからはボスと呼ばせていただきますね。」
「え、決定?」
「はい!」
カルマの問いに満面の笑顔で返すハウロス。
カルマはそれを見て、諦めた様に項垂れた。
___
その後、2人はラダの森を進んでいく。
時折、魔獣が飛び出してきて戦闘となったが、2人にとっては大した敵ではなかった。
ほとんどが、カルマが動く前にハウロスが魔鋼で敵を倒した。
「ハウロスのその魔術はどういうものなの?」
「あ、ボスは魔鋼ご存知ないですか?」
「魔鋼?」
「そうか。ボスは戦士協会の訓練を受けてないんでしたよね。」
「うん。」
「戦士協会の基礎訓練で使われる特殊な鉱石で、魔力を込めると形を変えるんです。」
「へー!面白いね。」
「ええ、それが俺は特別、変形の速さが異常だったのと、変形の幅も大きかったので、実戦に応用して使ってるんです。」
「便利でいいなぁ。これ。」
カルマはハウロスから受け取った小さな魔鋼を手の上で変形させている。
「さすがですね。初めてでそれだけ変形させられる人はなかなかいませんよ。」
「そうなんだ。でも持ち運ぶのは大変そうだね。」
「そうなんですよ。大量の魔鋼があれば戦いやすいんですけど、移動には向かないので、とりあえず俺は体中に詰めれるだけ詰めてるんです。」
ハウロスはポッケから小さな魔鋼を取り出してカルマに見せる。
「……きゃー……」
その時だった森の奥の方から女性の叫び声が聞こえたのだ。
「今の……声?」
「こっちだ!」
カルマ達は道から外れ深い森を進んでいく。
___
「この辺だったはずなんだけど……」
「誰もいませんね……」
森の奥地に進むにつれて魔獣の気配が強まっていく。
しかし人の姿は見当たらなかった。
「ボス!これを……」
ハウロスは何かを見つけるとカルマを呼ぶ
「これは……」
そこには大きな魔獣が大量の矢を浴びて絶命している姿だった。
「まるで四方八方から矢を受けたような……」
……
その時だった。カルマは自分たちを取り囲む様に人の気配を感じる。ハウロスも感じ取った様で魔鋼を取り出し構えている。
「ハウロス……」
「ええ、いますね……」




