母の想い
カルマは、母のその言葉に驚いた。
なぜならカルマは、父と母の前で「国を出たい」と言ったこともなければ、そんな素振りを見せた覚えもなかったからだ。
「母さん……なんで?」
「私はあなたのお母さんよ? あなたの考えていることなんて、顔を見ればすぐにわかるわ。」
カルマは知っていた。
母親とは、いつだって子供のことを一番に考えている存在だと。
思い返せば、ティニエはカルマのすることを一度も否定したことがない。
町の変わり者と言われるノーリエの家に入り浸っていた時も。
街中で眼帯を外してしまった時も。
いつもカルマを信じ、尊重してくれていた。
――だからこそ。
今回は、行けない。
行ってはならない。
「母さん……でも……」
「カルマ……あなた、お父さんやお母さんのためにって思ってるでしょう?」
「……!? ……うん」
「あのね。そうやって考えてくれるのは嬉しい。けれど、それはね……お母さんのためにはなっていないのよ。」
「えっ?」
「ねぇカルマ。私の幸せって何だと思う?」
「……わからない。」
「あなたが成長して、幸せになることよ。」
ティニエは、そっとカルマを抱き寄せる。
「だからね。あなたが自分の道を決めて進むことを、お父さんも私も止めたりはしない。」
「母さん……」
ティニエはカルマの両肩に手を置き、まっすぐに目を合わせた。
「カルマ・ミラ・フィーラン。あなたは戦士ダグラスの弟で、私たちの最愛の息子。
それは、離れていても絶対に変わらない。
寂しくはなるわ。でも、あなたが健やかでいてくれるなら……それでいいの。」
カルマは、もしかしたら自分は思い違いをしていたのかもしれないと思った。
前世の自分は、母に冷たく当たってしまった。
けれど――もしかしたら、あの母はそれすらも理解し、尊重してくれていたのではないか。
だからあの時、穏やかに笑っていたのだろうか。
後悔が消えることはない。
それでも、胸の奥が少しだけ洗われた気がした。
「母さん……ありがとう。」
ティニエは目に涙を浮かべながら、カルマを強く抱きしめた。
その温もりを胸に刻みながら――
カルマは、この国を出て戦士として旅立つことを決意した。




