葛藤
そしてそれから平穏な日々がやってきた。
カルマにはそんな平和な日々が懐かしくすら思えた。
ダグラスが帰国してから、フィルスの修行、魔人軍の襲撃とカルマにとっては激動の日々だった。
ようやく訪れた平穏、だがなんだろう…
なぜか心が落ち着かない。
「今もどこかで危険な目に遭っている人がいるのかな…」
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数日後、カルマはイリーナの修行に付き合った後、暇になったので久しぶりにノーリエの家に行くことにした。
「こんにちは〜」
「お、久しぶりだねぇ」
魔人軍の襲撃があった後、一度安否の確認に来たが、ノーリエは何事もなかったかのように地下で読書をしていたのだそうだ。
遊びに来たのはフィルスとラダの森に行く前以来だったので、本当に久しぶりのことだった。
カルマはノーリエと一緒に魔導書を読んだりして過ごした。
「なんだか浮かない顔だね。」
「あーうん。たいしたことじゃないんだけどさ。」
「僕でいいなら話を聞くよ?」
カルマは15歳になる前にこの国を出ることについて迷っているとノーリエに相談した。
「なぜ躊躇っているんだい?」
「いや、父さんと母さんは望まないだろうからさ。」
「そうか。君は優しいね。少しでも長く両親の元にいてあげたいんだ。でもね、きっと将来君が大人になって過去を振り返った時、数年間両親の近くで過ごしたことは結果的にはご両親にとってあまり大きなことではないと思うんだ。
だけど、君が数年早く旅に出るか出ないかは多分とても大きい。君はとても伸び盛りだからね。」
「……うん。確かにそうだね。ありがとう、ノーリエさん」
「うん。まぁよく考えてみるといいよ。」
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カルマはそれからも悩みながらも、踏み出せない日々を過ごしていた。
フィルスにダグラスにノーリエ、皆カルマのためには早めに出た方が良いという。否定的なのはイリーナくらいだ。
きっとカルマが国を出るのが寂しいのだろう。
カルマ自身ももうすでにわかっていた。自分の為には年齢を待つ必要などないことを。
だが、脳裏をよぎるのは前世の記憶にあった母の表情…
もう、後悔したくないのだ。
・・・やはり今は家族と一緒にいよう。
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それからカルマはいつも通りの日々を過ごした。
それはそれで幸せな日々だった。
ある日、カルマが居間でぼーっとしているとティニエがカルマに話しかける。
「カルマももう少しで12歳になるのね。」
「あーうん。そうだね。」
「時間が経つのは早いわね。」
「……うん。」
「カルマ」
「なに?」
何か考え事をしながら素っ気のない相槌を打つカルマの前にティリエは座る。
「あなた、この国を出なさい。」
「!?」




