カストリア襲撃⑤
カルマは強引に体をひねり、剣を横薙ぎに振り抜いた。
炎が唸りグラヴィスへと迫る。
だが魔人は避けない。
大剣を軽く合わせるだけ。
ガキンッ!!
「くっ…!」
今度は確かな手応えがあった。
炎が刃を押し込み、魔人の体をわずかに押し返す。
(いける!炎の力を乗せれば――)
次の瞬間。
カルマの腕が、急に跳ね下がった。
「!?」
剣が、信じられないほど重い。
まるで大木でも持ち上げている様な感覚。咄嗟に剣から手を離すと、ドシンと音を立ててカルマの剣は地面に沈む。
その隙を、魔人の大剣が静かに振り下ろす。
ドンッ!!
咄嗟に転がって避けたが、さっきまで立っていた場所の地面が砕け、石が噴き上がる。
「カルマ!!」
背後で父の叫び。
カルマは転がり落ちた自分の剣を拾いあげ、息を荒げながら距離を取る。
体も剣も重くない……
「あいつに近づいた時だけおかしくなる」
魔人は追ってこない。
ただ大剣を肩に担ぎ、こちらを観察している。
「理解が早いな」
初めて、わずかに口元が動いた。
「だが――」
一歩、踏み出す。
カルマの心臓が跳ねた。
「お前は俺には勝てねぇよ!」
空気が重くなる。
見えない何かの“領域”に、再び足先が触れた感覚がした。
カルマは息を整えながら、魔人の足元を見た。
自分が下がった瞬間、体は軽くなった。
あいつが一歩近づくと、また重くなる。
(やっぱりあいつの近くにいる時だけだ……!)
カルマはグラヴィスとの距離を保ちながら後退する。
横へ跳躍したり後退したりわざと大きく動く。
グラヴィスの視線がそれを追いかける。
「こざかしいな……」
カルマは家屋の崩れた柱を蹴りあげ反転して突っ込んだ。
「はあああっ!!」
一直線の斬撃。刃が噛み合う。
カルマの腕や剣におかしな重さは感じない。
すぐに剣を引き、一度後退し体制を立て直す。
魔人の大剣が振り下ろされるが――
ズドン!!
刃が地面に深々とめり込んだ。
(重くなったのは、あっちの剣!?)
カルマの目が見開かれる。
魔人は一瞬、動きを止めた。
ほんの一瞬だけ、大剣を引き抜く動作が遅れる。
「……重さを、入れ替えてる?」
言葉が自然に口から出た。
自分が重くなった時、あいつは大きな大剣を軽々と片手で振っていた。今はあいつの剣が重い。
ものの“重さ”が、入れ替わっている。
「だから速くて重いんだな……!」
炎が大きく燃え上がる。
グラヴィスの目が、わずかに細まった。
「理解したか。これが俺の応徳魔術 質量交換」
「近くにある物同士…でしょ?」
「そうだ。俺は俺の剣とお前の剣、あとはその辺に落ちてる柱や石、そんなもの同士の重さを入れ替えることができる。」
「ふーん。そんなことまで教えちゃって良いの?」
「ははっ、俺の自慢でな。まぁだか、確かに少しおしゃべりが過ぎたか。」
カルマは再び地面を蹴る。
(だったら、入れ替えられる対象を増やす。)
カルマは崩れた瓦礫の山へ飛び込み、大きく剣を振り回す。石、木片、塵、粉塵が宙を舞う。そして、カルマは落ちていた重い梁をグラヴィスの頭上へと投げつける。
気づけばカルマは一気に間合いへ戻る。
魔人の周囲、三メートルの中に無数の“重さの候補”が入り込む。
「これで選べるか?」
カルマは見逃していなかった、グラヴィスが重さを入れ替える時、視線を動かし、対象を選択する仕草をしていた。
(この魔術、そんなに簡単なものじゃないはず…)
グラヴィスの領域内に、カルマ・大剣・梁・瓦礫・石・木材・粉塵と大小様々な物質が混在する。
一瞬の判断。
カルマは剣を鞘に納め、グラヴィスに近づく、その鞘から炎熱が噴き出ている。
「魔剣術 炎 構ノ型 炎感知陣」
(なんだ?熱?)
グラヴィスはその熱気を脅威に感じ、自身に迫るカルマの体を軽くする。
(小石か何かと入れ替えたのか?けど…)
次の瞬間――
魔人の体にカルマが投げつけた大きな梁が直撃する。
「残念!順番を間違えたね!」
「ちぃ……」
グラヴィスは梁の重さを軽くし、腕で軽く払い落とす。
だが、次の瞬間、腰に剣を納めたカルマがグラヴィスに接近している。
「魔剣術 炎 抜ノ型 炎閃斬」
そしてそれは剣に纏った炎が、剣の刀身よりも長く伸び、大きな半円を描く。




