カストリア襲撃③
バトロフは思い出す。
約12年ほど前、カストリア周囲の魔獣発生の調査で、国門の外へ出た時、傷つき倒れている当時4歳のハウロスを見つけた。
ハウロスはカストリアに保護され、怪我は完治したが、当時若干4歳だったことに加え、記憶が混濁しているようで自分がどこから来たのか両親はどこにいるのかもわからないようだった。
わかっていたのはハウロスという自分の名前と母と二人で何かから逃げていたということだけだった。
バトロフ達、衛兵隊は数日かけ周辺地域を捜索したがハウロスの母親らしき人物はいなかった。
その後、ハウロスは衛兵隊の兵舎に住むことになった。
バトロフは兵舎に寝泊まりすることはたまにしかなかったが、兵舎にいるときはよくハウロスを可愛がった。
ハウロスはよく笑う良い子に成長していった。
ある時、ハウロスにはある特異な能力があることにバトロフは気づく。それは並外れた魔力のコントロール技術である。
戦士協会で初めて魔術を教える時に"魔鋼"という鉱物に魔力を流し込む基礎的訓練がある。
魔鋼には魔力を流し込むことで形を変える特徴があるため、魔鋼に魔力を流し込んで魔力をコントロールするコツを掴む訓練だ。
バトロフがハウロスにその訓練をやらせてみたところ、ハウロスが手に持つ魔鋼はグニョグニョとまるで生きているかの様に形を変え、薄く広げたり、棒状に変化させたり、密度を高めて硬化したりと自由自在に操ってみせた。
通常、熟練の魔術士が魔鋼に魔力を流しても時間をかけてゆっくりと形を変えていく程度のはずだ。
「ハウロス…それどうやってやってるんだ?」
「え…と、作りたいものをイメージして作ってるだけです…」
「すごい…君は天才だ!ハウロス、君は魔術を習うべきだよ!」
「魔術?いやいいんです。ここで住まわせてもらってるだけで十分…」
ハウロスはとても義理堅く謙虚な少年だった。
それから何度バトロフが魔術士になるべきだと勧めても、このカストリアを離れることはないと聞かなかった。
それからハウロスは魔鋼を使った戦闘術でカストリアの衛兵隊の中でも最も強力な兵士となった。
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ハウロスは現れた魔人と向かい合う。
「ダメだハウロス…離れなさい!」
ハウロスは携帯している魔鋼の一部をナイフ状に替えて魔人に向けて構える。
「原理はわからんが、その魔術は要するに形を変えることのできる物質体を扱うということだな?」
「俺は魔術士じゃない」
「?…」
ハウロスはそういうと手に持った魔鋼を複数の弾丸に変え、魔人に向けて飛ばす。
「魔鋼弾」
魔人は剣でその弾丸を弾くとハウロスに飛び掛かる。
ハウロスは既に魔鋼を盾に変えて身を守っている。
しかし、魔人はハウロスの目の前で急激に方向転換すると、瞬時にハウロスの背後に回り込む。
(え……?)
ハウロスはその動きに違和感を感じた。ただ単に早いだけではない。通常方向転換をするには地面を蹴り、移動方向を変える必要がある。だがこの魔人はまるでハウロスの背後に吸い寄せられるかの様に移動したのだ。
「その迷いが命取りだ。」
魔人の剣がハウロスを襲う。ハウロスは瞬時に背後に盾を作るが、盾は破壊され、ハウロスは魔人の剣を受け、倒れ込む。
「ハウロス!!」
バトロフがハウロスを助けるため、魔人の背後に目掛けて剣を構えて飛びかかる。
「はっ、本当に人間はわかりやすい」
魔人はバトロフの攻撃を予想しており、バトロフに向けて剣を振り上げる。
「隊長!!」
魔人の剣筋はバトロフより早く、その剣はバトロフへ一直線に向かっていく。
……
その瞬間、横から炎を帯びた剣を持ったカルマが割って入り、魔人を剣ごとはじき飛ばす。
「なんだ!?」
はじき飛ばされた魔人は家屋に叩きつけられ、家屋の一部が崩れ落ちる。
(この威力……)
「カ、カルマ!おまえなぜ…」
「フィルスと一緒に戻ってきたんだ。父さん大丈夫?怪我はない?」
「ああ、何とか。助かったよカルマ」
「何だぁ〜?お前は……ガキ?」
カルマは魔人に向き直り、剣を構える。
「お、おい!カルマおま…」
「大丈夫だよ。父さん。任せて…」
カルマは焦るバトロフに笑みを見せる。
バトロフはカルマを止めようと思ったが、なぜか止めることができなかった。自分よりも一回りも二回りも小さい息子の背中がその時はなぜか大きく見えた。




