師匠と弟子
「魔術には初級・中級・上級の基礎魔術があるだろう?」
「うん」
「応徳魔術というのはそれらに該当しない、個人毎の魔術士によって編み出された技のことだ。
天級を超える魔術師は強力な応徳魔術がなければなれないと言われている。なぜだかわかるか?」
「基礎魔術の方が弱いから?」
「いや、そういうわけではない。応徳魔術でも使い物にならんものもたくさんあるし、むしろ私は基礎魔術の方が使いやすく強力で洗練された術だと思っている。」
「じゃあなんで?」
「基礎魔術は既に"研究しつくされている"から。
対応策が既に考えられている以上、一定のレベルを超えると基礎魔術だけでは勝つとができなくかるからだ。……まぁ、1人だけ基礎魔術のみで天級をやっているバカもいるがな。」
「じゃあ僕の考えた魔剣も応徳魔術なんだね。」
「ああ、属性魔法を物体に付与する魔術は見たことがないからな。だが、似た術を扱う者は知っている。」
「誰?」
「私の師匠、賢人ルドラだ。」
「え!?フィルスって賢人ルドラの弟子なの?」
「ああ、ルドラは剣を振るうのと同時にノーモーションでの魔術を放つ。お前のように魔術を付与するものではないがな。」
「へー!賢人ルドラの魔術と剣術かぁ。」
カルマはその話に目を輝かせながら聞く。
賢人ルドラといえば、復活した魔人の脅威を守ってきた界級の英雄戦士である。12年前に魔人に倒され亡くなってしまったが緋衣の魔人と呼ばれる幹部たちを複数体討伐し魔人達の戦力を大きく削ったのだ。
今、魔人の攻撃が落ち着いているのは賢人ルドラのおかげと言えるだろう。
また、賢人ルドラは最後の界級戦士であることも有名である。賢人ルドラの死後、未だに界級に至る戦士は現れていない。
カルマはその孫弟子となったことは凄いことだと今更ながら思った。
フィルスはそんなカルマを見て少し昔のことを思い出していた。
***
(フィルスの回想)
フィルスがまだ8歳の頃のことだ。
平原で木の剣を使って戦闘訓練を行なっている。
相手は同じくルドラの弟子で同世代の少年ルドロスだ。
ルドロスは剣を振りながら、もう片方の手で氷魔術を放つ。
少女フィルスはその魔術を避け、素早くルドロスの後ろに回り込み、ルドロスに向けて剣を振り下ろす。
「いたぁ!」
「ははは!私の勝ち!」
「くっそー…」
「ルドロスは魔術を使うと隙ができるからな。気をつけた方がいいよ」
「うっさいわ!怪力女!」
「なんだと!このへたれ男!」
ルドロスとフィルスは掴み合いの喧嘩を始める。
「ねぇ先生、またやってるよ」
「はは、まったく…」
そこには賢人ルドラと、もう1人の弟子、少女アリディアが座っている。
ルドラは腰を上げ、2人に近づいていく。
「こらこらやめなさい。」
2人を制しするとルドロスの肩に手を置く。
「フィルスは君のためを思って言ってくれたんだ。ひどいことを言ってはいけないよ。」
「……はい。」
そしてルドラはフィルスの元に来て膝をつく。
「フィルス、君も応戦しないことだ。」
「でも、本当のこと言っただけだもん。ルドロスは魔術を使ったあと隙ができるから…」
フィルスは口を尖らせながら答える。
ルドラはフィルスの頭に手を置く。
「フィルスは相手のことをよく見ているね。
将来、私と同じように君が弟子を取ることになったら、きっと良い師匠になるだろうね。」
「私は死ぬまで戦士だからししょーにはならないよ。」
「はは、そうなのか?だが師匠も良いものだぞ。君達のいろんな表情が見れて…」
「そんなの見てもつまんないよ。」
「そうか。でもきっとわかる時が来るさ」
〈回想終了〉
***
フィルスはカルマの頭に手を置く。
「まぁ、確かに、悪くはないものだな…」
「ん?なにが?」
「うるさい」
「いてっ!」
それからもフィルスとの戦闘訓練の日々は続いた。
カルマの動きは修行開始前に比べて格段に良くなっていた。もちろん修行の成果もあるが、前世の記憶を思い出したことも大きかった。
前世の記憶を思い出してから格段に体の使い方が上手くなったのだ。
前世では剣など使ったことがないし、魔術に関しては存在しない世界だった。
だが、20年近く体を使ってきた記憶・経験がカルマの身体能力を底上げさせていた。




