修行の終わり
今日も、カルマとフィルスは向かい合い、剣を構える。
静寂。
先に動いたのはカルマだった。
「火の玉!」
複数の火球が一直線にフィルスへ放たれる。
フィルスはそれを最小限の動きで躱す。だが――
カルマは、避ける先を読んでいた。
炎を纏わせた剣を振り上げ、回り込む。
「魔剣フレイア!」
回避の着地点へ、炎の刃が迫る。
「ほう」
だがフィルスは地面へ魔力を流す。
瞬間、氷柱が地面から隆起し、その反動で身体を滑らせるように軌道を変える。
「あっ、くそ!」
刃が空を裂く。
直後、両者の剣がぶつかり合った。
炎と鋼が火花を散らす。
重い。
フィルスの剣は、まるで岩を叩いているかのような圧。
カルマも歯を食いしばり押し返す。
だがフィルスは一度距離を取る。
足元に魔力が集中する。
嫌な予感が、肌を刺した。
次の瞬間。
消えた。
視界から、完全に。
「なっ――」
背後。
横。
正面。
超高速の移動と同時に、連撃が叩き込まれる。
「剣術:神速乱舞」
「ぐっ……!」
カルマは剣で急所を庇いながら耐える。
だが、最後の一突きが腹部に叩き込まれた。
衝撃が身体を貫く。
膝が折れる。
――終わりだ。
……そう思った瞬間。
カルマの左手が、フィルスの剣を掴んだ。
「……やっと、隙ができた」
「!?」
刃は深くは入っていない。衝撃だけを通す一撃。
それでも掴むには覚悟がいる。
右手には、既に炎。
薙ぎ払う。
「ぐっ!」
フィルスは上体を逸らす。
完全には避けきれない。
頬に、赤い線。
一筋の血が、ゆっくりと伝った。
沈黙。
「あ……」
カルマの声が震える。
フィルスは指で血を拭い、薄く笑った。
「終わりだな」
「え……?」
「私に一撃を与えた。合格だ」
数秒の沈黙。
「……や、やったー!終わったー!」
力が抜ける。
「まあ、実戦では使えん手だがな。刺される前提など論外だ」
「うん……でも、フィルスの隙を作るには、あれしか思いつかなかった……」
言い終える前に。
どさり。
「お、おい!」
カルマはそのまま倒れ込む。
だが苦悶の表情はない。
すー……すー……
「……寝ているのか」
フィルスは小さく息を吐く。
少年の寝顔は、年相応だった。
「……ダグラスの奴が言っていたことも、あながち間違いではないか」
あの時の言葉を思い出す。
――カルマを、頼む。
フィルスは小さく鼻を鳴らし、少年を担ぎ上げた。
⸻
「はっ!」
目を覚ますと、小屋の天井だった。
外はすでに夕闇。
「今日はもう遅い。明日、街へ戻るぞ」
「え、戻れるの?」
「最初からその約束だろう」
修行は終わる。
気づけば一年。
連れ去られたあの日から、長い時間が経っていた。
剣も、魔術も、そして心も――少しは強くなれただろうか。
ふと、考える。
……フィルスは、街に戻ったあとどうするのだろう。
別れるのか。
それとも――
胸の奥に、わずかな寂しさが芽生えた。
久々の後書きです!
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