記憶だ
カルマはその頃、フィルスの元を離れ、森の奥地へと来ていた。
そこには、積み上がった魔獣の屍の山の上に立ち、返り血で血まみれのカルマの姿があった。
「もう少しなんだ……」
カルマはフィルスの元を離れてから魔獣を倒し続けていた、フィルスに言われた剣の重さを得るために。
カルマは不休で魔獣との戦闘を繰り返しており、体力の限界が来ていた。
カルマは眩暈がし、魔獣の上で足を滑らす。
「うわっ」
疲れ切ったカルマは地面に落ちていく。
___
目を開けるとそこはあの夢の世界での家の中...
「よう」
声の先にはカルマと同じ顔の青年の姿があった。
前と同じ家の中だが、女性の姿は見当たらない。
「思い出したか?」
「いやわからないんだ。」
「そうか。」
「君の名前は?」
「俺?……」
青年はそういうと口籠る。
「……?」
「俺はリョウタだ」
「リョウタ……?」
カルマは額に手を置き考え込む。その名前は知っている。記憶の片隅にこびりついている。何度も呼ばれたその名前を。
「リョウタ、君は一体誰なの?」
「もうわかるはずだ。俺がだれなのか。」
「君は...僕?」
カルマの頭の中に"ある記憶"が流れ込む。
それは自分であって自分でない記憶。
別の世界の小林涼太の記憶。
___
カルマは目を覚ました。魔獣の上から足を滑らしたカルマは地面に膝をつき、呆然と地面を見つめていた。
「僕は生まれる前、違う世界に住んでいた…」
カルマは頭の中に蘇った生前の記憶に驚いた。
だが、同時になぜか冷静だった。
生まれる前の記憶を思い出した話など聞いたことがない。そもそも生まれ変わりや前世などが他の人にも存在するのか、自分だけのことなのか。
だが、どんなに前世の記憶を思い返しても、カルマはカルマだった。まさにその記憶は自分のものではない他人の記憶でしかなかった。
だがしかし、何だろう。この小林涼太の記憶には、強い後悔を感じる。
そして、あの夢に出てきた女の人は母親だった。
この気持ちはきっと母親に対する強い謝意と後悔だ。
カルマの頭にバトロフとティリエの顔が思い浮かぶ。
「ちゃんと親孝行しないとな…」
カルマは疲れて力の抜ける体に身を任せ、その場にうつ伏せで倒れ込む。
地面がひんやりとして気持ちがいい。
カルマはそのまま意識を失うように眠ってしまった。




