剣と魔術と
翌日。
カルマは再びフィルスの前に立っていた。
「準備はいいか」
「うん」
短く息を吐き、剣を構える。
(大きく踏み込んで……速く振る)
地面を蹴る。踏み込みと同時に、全身の力を乗せて剣を薙いだ。
だが。
手応えがない。
フィルスの姿は、すでに間合いの外にあった。
距離が開く。
カルマは即座に剣から片手を離し、掌を向けた。
「火の玉」
炎の球が一直線に飛ぶ。
「ふっ」
フィルスは口元を歪め、真上へ跳んだ。炎は虚しく地を焦がす。
見上げた瞬間、影が落ちる。
――上から来る。
剣を構えた、そのとき。
足元に違和感。
視線を落とすと、地面と足が白く凍りついていた。
「広範囲凍結」
「やべっ……」
気づいた時には遅い。
振り下ろされた一撃がカルマを地面へ叩きつけた。
「がっ……!」
視界が跳ねる。
――――
目を開けると、フィルスがすぐ前に座っていた。
「いてて……」
「あれでいい」
「え?」
「私は剣術を教えるとは言っていない」
低い声。
「剣と魔術を両方扱う戦士は稀だ。それは“武器”になる。
……だが、お前はまだ甘い」
立ち上がり、背を向ける。
「今日は終わりだ」
去っていく背中を見ながら、カルマは思い出していた。
ダグラスの言葉。
戦士の道は一つに絞るのが普通だという話。
剣か、魔術か。どちらかに人生を捧げなければ“上”へは行けない。
階級は初級・中級・上級・天級・界級。
上級を越えるだけでも、才能と年月が必要。
両方を選べば、どちらも半端になる。
それが常識。
――なのに。
フィルスは、剣術も魔術も天級。
「そうか……」
カルマはゆっくり立ち上がる。
「生き残るのに、流派なんて関係ないんだ」
明日へ向け、剣を握り直した。
⸻
それから、修行の日々が始まった。
毎日、フィルスに叩きのめされ。
森を彷徨い、食料を探し。
襲ってくる魔獣を倒す。
眠るのも、食べるのも、生きるのも戦いの延長だった。
それでもカルマは生き延びた。
傷を増やしながら、確実に強くなっていった。
⸻
ある日。
ふと疑問が浮かぶ。
(フィルスは特訓以外の時間、どこにいるんだ?)
森を探すと、開けた場所に小屋があった。
丸太を組み、魔術で補強された頑丈な造り。
その前で、フィルスが腕を組んで立っていた。
「フィルス、それ……」
「住処だ」
「中、見せてほしい」
「自分で作れ」
即答だった。
カルマは追い返され、ぽつんと森に残される。
「……まじか」
空を見上げ、ため息。
だが、すぐに口元が緩んだ。
「上等じゃん」
こうしてまた一つ、
“生きるための技術”が増えたのだった。




