カルマの師匠
その日の夜、久しぶりに家族四人で食卓を囲んだ。
父も母も、どこか安心したような顔をしている。家にダグラスがいるだけで、空気が違った。
「そうだ。お父さん」
食事の途中、ダグラスが口を開く。
「カルマに、剣と魔術の師匠をつけたいと思うのですが」
箸を止めたバトロフが眉を寄せる。
「まだ少し早くないか? カルマは九歳になったばかりだぞ」
「そんなことはありません。台頭していく強い戦士たちは皆、十歳になる前から本格的に学んでいます。それにカルマは既に初級魔術を扱える。独学を続けるより、正しい導き手をつけるべきです」
「うーむ……」
父は腕を組み、低く唸る。
「戦士協会の訓練校はどうするのだ。あと一年で入学できる」
「訓練校では基礎止まりです。優秀な師匠がいれば、入学の必要はありません」
「剣は兄さんが教えてくれるんじゃないの?」
カルマの言葉に、ダグラスはわずかに目を細めた。
「すまんな。俺はしばらくこの街にいるが、依頼が入れば出る。付きっきりは難しい」
「……で、誰に頼む気だ」
父の声は低い。
ダグラスは迷いなく答えた。
「心当たりがあります」
⸻
それから三週間後。
今日の午後、カルマの師匠になる人物が来るらしい。
落ち着かないまま、カルマは午前中にイリーナの家を訪れた。
「こんにちはー」
扉の向こうから母親の声がする。
「カルマ君、ちょっと待っててね」
最初は警戒されていた。名前のことで苦労してきた家だからだろう。それでも最近は笑顔を向けてくれるようになった。それが、カルマには嬉しかった。
やがてイリーナが外へ出てくる。
「おはよう。今日は魔術の練習?」
「それなんだけどさ……当分できなくなりそう」
「えっ!?」
カルマは事情を説明する。
「修行かあ……すごいね。でも寂しいな」
「ごめん。でも強くなりたいんだ」
イリーナはすぐに笑った。
「私も特訓する! もう少しで回復魔術できそうなんだよ!」
彼女は攻撃魔術より回復に興味がある。優しい性格そのままだ。
「師匠ってどんな人なの?」
「それが……ちょっと心配でさ」
両親の顔が曇っていたのを思い出す。
⸻
***回想***
ダグラスが父と母にカルマの師匠候補について説明している。
「魔術・剣術ともに天級に至った人物です。フィルス・アラモ・ディリア」
「……狂戦士フィルスか?」
「はい」
「技術は認める。だが……危険だと聞く」
「昔の話です。今は落ち着いています」
「……本当か」
「俺が保証します」
父は長く沈黙し、やがて頷いた。
***回想終了***
⸻
「なんか心配だね……」
「うん……」
「無理だと思ったら言いなよ。私がお兄さんにガツンと言ってあげる!」
カルマは笑った。
「その時は頼むよ」
〈頭の中の整理用 メモ〉
一般的には10歳を超えると、戦士協会という場所で戦士になるための授業を受けることができ、15歳以上が戦士として登録することができる。
カストリアには戦士協会がない。




