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第四十話 東川夕

「うーん...家だぁ〜」


始発に乗ってなんとか帰ってきた。京都じゃこんな早く電車は動かないね。


「寝るなら自分の部屋で寝てね。俺朝ご飯作っとくから」


「ふぁい...」


ふと考える時がある。姉さんはこのままでいいのか、と。

俺だってずっと姉さんのもとに居れるわけじゃない。いつかは俺も離れて姉さんもいつかは結婚するのだろう。

そのときに困るのは俺ではなく姉さんだ。基本的な家事もできなければ正しい生活をできるわけでもない。

でも、俺が教えても多分意味はないだろう。なにかないと家事を覚えないだろう。

人が変わる理由...女性が変わる理由は....恋か。恋でもしたら変わるのだろうか。いや、姉さんのそんな話を誰からも聞いたことがない。出かけるときも殆どなくてあるときは友人か事務所だけだ。


prrr...prrr


えぇと...西原さんか。


「もしもし」


「もしもしたいちくん?今大丈夫?」


「大丈夫です。ご飯作ってただけなので」


「それはよかった。起きたらたいちくんとあみ居なくなってたから」


「すみません。長居するのもどうかと思ったので」


「全然大丈夫だったのに〜」


「いえ...それでご要件は」


「いや、特に無いよ。話す人がいないから起きてるかなと思って電話しただけ」


「あ、そうなんですか」


「なんか話すこと無い???今暇なんだよね〜」


「え...」


自分からかけてきて何だこの人はと思ったが、ひとつ気になったことがあったから聞いてみた。


「西原先輩は姉さんと同じ大学ですよね?」


「うん。それがどうしたの?」


「姉さんって...なんか恋愛とかしてますか?」


「おっ!弟くん気になる?」


「気になるっていうか...まぁ気になります」


「って言ってもあみの恋愛事情は何も聞かないね。弟くんの話しか」


「そうですか」


ということは目ぼしい人は居ないんだろうか。


「なんで?」


「姉さんが家事できるようになるには恋しかないのかなって」


「ふふっ、たいちくんは思ってたより恋愛脳なんだね」


「そんなことないです。なんかよく聞くじゃないですか、恋愛したら人は変わるとか」


「それができたら人は簡単に変わってる。一応あみもたいちくんに負担をかけないように色々頑張ってた時期もあったけど無理だったんだよ」


「あの姉さんが俺のために?」


「うん。実際は何もできなかったけど、何も上達しなかったんだけど」


「そうだったんですか」


姉さんは自分なりに頑張っていたんだ


「あの子は多分ライバーやアイドルになるために生まれてきたような存在。だから家事ができなくてもかわいいから許される。多少なにかダメでも許される。私みたいな努力勢とは違ってね」


「え?」


「努力をしてあの天真爛漫を手に入れて、努力をして美貌を手に入れたような私とは違う。天性の才能であの性格を手に入れて天性の恵みであの顔を手に入れた」


いつもと違う、西原先輩。それはまるで西原ヨルではなく東川夕として言っているようだった。


「なんてね。私はこんな感じでメンヘラっぽくすることもできるのです!」


「あ、そうですか」


あれは役じゃなかった。東川夕としての本心だった。そうだとしか思えなかった。

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