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第三章 ~『格闘術の師匠』~


 互いの実力を確認し終えたアトラスたちは、肩を並べ、学園通りを歩いていた。日が暮れているため、石畳の道を夕焼けが照らしている。


「二人とも強かったわね」


 ルカがキラキラと尊敬の眼差しを向ける。


「ルカの実力は確認しなくてよかったのか?」

「あんな凄い闘いを見せられた後だと、恥を掻くだけだもの。それにね、最近なんだか体調が良くなくて……」

「安静にしなくて大丈夫なのか?」

「平気よ。どうせただの風邪だもの」

「だが……」

「心配しすぎよ。それに二人がいれば私がいなくても勝てるでしょ?」


 選考会は先に二勝したチームの勝ち上がり選だ。クロウとアトラスが勝てば、ルカの出番はなくなる。


「油断はしていられないよ。組み合わせ次第では負けもあり得るからね。例えば、そう、もし僕がウシオと戦うことになれば、勝利を約束することはできない。負ける可能性は十二分にあるよ」

「その心配は無用だ。ウシオの出番は事前に聞いておく。そこに俺が出場すればいいのさ」


 チームの勝利より私怨を優先する性格だ。アトラスと戦うためなら、不利になると分かっていても躊躇いなく出番を教えるだろう。対戦順をコントロールすることは容易い。


「理想は僕が勝利し、そのままアトラスにバトンを渡せることだね。僕はウシオ以外なら負けない自信があるから、アトラスの勝利が選考会の鍵になりそうだね。勝つ自信はあるかい?」

「当然だ。負けるはずがない」


 魔力により耐久力を強化すれば、ウシオの《爆裂魔法》を耐えることは容易い。クロウのような超スピードでもなければ、相性的に敗北の可能性はないはずである。


 だがクロウは眉根を寄せて、不安げな表情を浮かべる。


「何か心配事があるのか?」

「君の負ける可能性について考えてみた。十中八九、敗北はありえないが、状況が悪い方向に転べばゼロじゃないかもしれない」

「あいつの魔法で俺の防御を突破できるとでも?」

「魔法では無理だろうね。でも魔術ならどうだい?」

「《時計爆弾》か。確かにあの魔術は厄介だ」


 対象に制限時間付きの爆弾をセットする魔術は、時間が長ければ長いほどに威力を増す。その威力に天井はないため、理屈の上ではアトラスに通じる可能性があった。


「だが『時計爆弾』は一定量のダメージを負うと解除される制約がある」

「そんな制約があるんだね……でもどうして君がそれを知っているんだい?」

「色々と事情があってな。とにかくダメージを与えれば対抗できるんだ。一発でも強打を入れれば、即解除さ」

「…………」


 クロウは納得できないのか、黙り込んでしまう。自分の魔術の弱点をペラペラとウシオが話すはずもない。なぜ知っているのか疑問が解消できないが故の沈黙だった。


「まぁいいや。君の話を信じるとしよう。でもね、だからこそ問題が残るよ」

「問題?」

「君の攻撃の話さ。今のままだと、ウシオに命中させることができないかもしれない」

「クロウのような超スピードもないんだぜ。躱せるはずがない」

「いいや、僕が躱せたのはスピード以外にも理由があるんだ。それはね、君の攻撃が大雑把すぎることさ」

「でも俺、普通に殴っているだけだぞ」

「それが駄目なんだ。僕にしろウシオにしろ、学年上位の生徒は格闘術を身に着けている。だから素人の打撃なら先読みできるんだ……もっとも、予想できても君の攻撃を躱せる人間は多くないだろうけどね」


 クロウの言葉の裏には、ウシオなら躱せるかもしれないというニュアンスが含まれていた。


 拳を躱される光景をイメージし、屈辱で怒りが沸々と湧いてくる。


「魔力でゴリ押しできる自信はあるが、折角の機会だ。格闘術を真剣に学んでみてもいいかもな」

「良ければ僕が教えようか?」

「気持ちはありがたいが、ライバルとは対等な関係でいたいんだ」


 クロウと師弟関係になるのは彼のちっぽけなプライドが許さなかった。


「でも僕以外に心当たりはあるのかい?」

「ないな。でもまぁ、心当たりはなくても探しだす方法はある」


 含みのある言葉にクロウは頭に疑問符を浮かべるが、その方法を伝えるわけにはいかない。


「それじゃあな。俺は知り合いと会ってから帰るよ」


 クロウとルカを置いて、アトラスは一人学園通りを逆走する。下校時間は過ぎているため周囲に人はいない。学園に戻った頃には夜の帳が落ち始めていた。


「よし、ここなら見つかる心配もないぞ」


 学園の校舎裏まで移動したアトラスは、呆然と虚空を見つめる。


「メイリス、俺の様子を監視しているんだろ? 話があるんだ。出てきてくれないか」


 アトラスの呼びかけに応じるように、空中に魔力の扉が開く。ガチャンという音と共に現れた金髪のエルフは、柔和な笑みを浮かべていた。


「用件は分かるな?」

「武術に詳しい人物を探せということですね?」

「尚且つ、俺の師匠になってくれそうな奴だ。可能か?」

「条件付けの検索は私の魔術の得意とするところですから、もちろん可能です。ただ曖昧な探索は、汎用性が高い分、検索範囲は狭いですよ」

「それでも当てもなく探し回るよりマシさ」

「では――見つけました! ここから東に三百メートルの位置に探し人はいます」


 メイリスの『千里の鏡』に目的の人物が映し出される。後ろ姿のため顔は見えないが、甲冑姿の兵士と銀髪の少女が言い争っていた。


「どうやら修羅場のようだ」

「助けに参られますか?」

「もちろん。俺は正義のヒーローだぜ」


 アトラスはメイリスに礼を伝えると、東の方角に駆けだす。魔力で脚力を増した彼の足は、迅速な目的地への到着を可能とした。


「見つけたッ」


 辿り着いた場所には映像通り、銀髪の少女と騎士がいた。そして少女の顔には見覚えがあった。


「お前は……マリアッ」


 フドウ村で救い出したマリアと再会を果たす。偶然の邂逅だった。


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