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第3話 ノーガード


『光君のお姉さんについて、お話を聞かせていただきたく』


 先生は昨日、うちの母親に自分の素性をばらした。向こうは驚きながらも僕のことを心配してくれたらしいけど。

 先生は丁寧に嘘を詫び、本題に入った。母親はしばらく黙り込み、やがて……。


『承知しました。ようやく、この日が来たんですね』


 と、電話口でホッとしたような声で応えたという。


 ――――ホッとするくらいなら、さっさと話してくれたらいいのに……。


 僕はまだひねくれてそんなことを思う。両親にしてみれば、僕が気付くのを待っていたのだろうと、頭ではわかっていたけれど。




 先生の車に乗り、1時間半ほどの旅程。僕は何を話していいのかわからず、黙りこくっていた。

 軽快な洋楽が流れていたけど、少しも軽快な気分にはならない。今から僕が聞くことになる『真実』と、どう向き合えばいいのか。

 強殺事件が起きてから20年経っているのに、不眠症を患うに至った理由、原因。いったいどんな切なく恐ろしいことが起きたのだろう。


 ――――僕はそれを思いだすことができるのだろうか。


「先生……」

「ん? どうした? あと30分くらいで着くよ」

「うん、わかってる。先生、僕は思い出すことができるかな。その……みーちゃんのこと」


 先生は、右手にハンドルを置き、左手で僕の髪をくしゃくしゃとかき混ぜる。


「思い出すさ。言ったろ? もう暗示は解けてるんだ。君の不眠症が解消されたと同じころに。なにも心配することはない」


 先生にそう言われると、何故だか安心できてしまう。昨日から怒ってばかりいたけど、やっぱり先生の暖かい手のひらからの熱が伝わると、大丈夫って思えてくるんだ。これも暗示だったら笑えちゃうけど。


 ――――違うよね。僕は……先生のこと、好きなんだから。


「あ、そうだ。先生、まさか僕の気持ちとか暗示にかけてないですよね?」


 ふと思い立ったことをそのまま口に出した。『あなたはだんだん自分のことを好きになる』なんて。


「そんなことができるなら、苦労しないよ。あ、でもね。私のような精神の医者は患者に好意を持たれることはままあるんだよね。やっぱり、辛い思いを共有したり、治癒して楽になったりすると……。だから、そういう気持ちを抱かれないよう注意する必要はある」

「はあ、まあ。そうだよね……。宗教みたいところあるよね。じゃあ、僕にも変に好かれないようガードしてたん?」


 だとしたら、僕はそれでも先生のこと好きになったってことか。


「あー、いや。途中から……うーん、もしかしたら割と最初からか、全くしてなかった」

「え?」


 先生は僕に見せる顔半分だけで笑ってみせる。


「心療内科医といっても、自分の気持ちはよくわからないみたいでね。いつも自然とガードするのに、光に対してはいつの間にかノーガードになってたな。好きだと気付いてからは、そのオーラ全開でいった。へへっ」


 へへ……って。僕は返事もできずにシートに体を埋める。恥ずかしくて顔が熱い。

 でも、いつの間にか相思相愛になってたなら、それはそれで嬉しいか。先生が拒否してるって感じたら、僕も自分の気持ちを抑えたかもしれないし……。


『それ以上でもそれ以下でもない』


 なんて言いながら、多分それも先生の作戦だったかもなあ。

 僕の緊張はそこで少し緩めることができた。再び椅子に座り直し、実家近くの見慣れた風景を車窓から眺めていた。




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