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無双系女騎士、なのでくっころは無い  作者: 赤木一広(和)
第七章 イジョラ魔法兵団
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112.イェルケルと騎士軍


 イェルケルとアイリの二人は、とある文官に頼まれ彼の護衛を引き受けた。

 この文官は、アイリが新王アンセルミの配慮にて政治を学ばせてもらう際の教師役に当たる。

 彼はその仕事とは別に、これより作戦行動に入る騎士団、傭兵団達、通称騎士軍に対し、命令書を持っていく役目を負っていた。

 当然、騎士軍が王家に疎まれていること、それを騎士軍側もわかっていること、全てこの文官は知っている。

 長くカレリアにて武力の象徴と言われてきた騎士軍が追い込まれていることも、彼らのもとに持っていく命令書が彼らを更に追い詰める内容であることも。

 ありていに言えば、文官君は騎士軍が激高し文官君を害するやも、と恐れたのだ。そこに、王都最強との呼び名も高い第十五騎士団との繋がりができた。

 彼は恥を承知でアイリに胸のうちを明かし、どうか共に行ってもらえないかと頼み込んだのだ。

 アイリが以上の話をイェルケルにして許可を得ようとしたところ、イェルケルも同行しよう、となったわけで。

 幾らなんでも王弟を相手に馬鹿な真似はやらかさないだろう、という至極まっとうな理由と、カレリアの騎士団の最も濃いところを見てみたい、というちょっと他人に言えない理由により、イェルケルとアイリは共に護衛に付き合うこととなった。

 王都の文官に好意を持ってもらおうという下心も、もちろんあったのだが。

 そして、本来付けられている二人の騎士と兵士二十人。これらを引きつれ騎士軍が逗留する野営地に赴いた。

 イェルケルの感じた第一印象は、ガラ悪い、であった。

 騎士団なんてきらきらしい名前のくせして、集まっているのはもう何十年も血と臓物の臭いにひたりきってきたかのような男共ばかり。

 イェルケルは意識して足の進め方を変える。技量をその動きで見極められぬような歩き方に変えたのだ。

 こちらの挙動にさして興味を示していなさそうな風でありながら、彼らは皆イェルケルの動きを観察している。

 その目は味方に向けるものではなく、獲物の力を見極めんとする狩人のそれだ。

 アイリはフードを目深にかぶっており、背の低い妙なのがいる、程度で済むようにしている。

 ただ、こんな戦臭い連中の間を歩いていると、どこかわくわくしてくるイェルケルだ。

 どいつもこいつも一筋縄ではいかないような曲者ばかりで、味方ならばもちろん敵になったとしても、コイツらが相手ならば良い戦ができるだろうと思えてならないのだ。

 一際強い、戦士の臭いがした。

 人数は二十人ほど。

 その風体に見覚えがある。あれは、サルナーレで戦ったこともある自由騎士だろう。

 国に仕えず、しかしその武勲にて騎士の名を許された男たち。もちろん国の騎士と比べてその権限は著しく制限されているが、並みの傭兵には絶対にありえぬ各種の特権を、文字通り槍働きのみで勝ち取った戦士の中の戦士たちだ。

 そしてあちらもどうやらイェルケルに見覚えがあるようだ。

 その姿を認めると彼らはぞろぞろとイェルケルたち一行の前に立ちはだかる。

 無礼な、と肩を怒らせる騎士を無視し、自由騎士の一人がイェルケルの前に立つ。


「イェルケル、王子。いや、今は王弟殿下、か。サルナーレで自由騎士を十人斬ったと聞いたが本当か?」

「それっぽいのを斬った覚えはあるが、人数まではわからんよ。だとしたらどうする? ここで仇でもとるか?」


 男は獣のように口を大きく開き破顔する。


「ガハハハハ! 味方なんだろう今は! なら頼もしい限りよ! どうだ! イジョラとの戦! アンタも一緒にやっていかんか!」


 肩をすくめるイェルケル。


「味方かどうかは難しいところかもな。武勲を立て、アンセルミ陛下より認められたうえでなら私も文句はないのだが」

「そいつは手厳しいな! では今日はわざわざ何をしに来た? 我らとやる気、というわけでもなさそうだが」

「勘弁してくれ。今日はそちらの文官殿の護衛だ。頼むからあまり無体はやめてくれよ」

「良く言うわ! 無体を強いておるのはそちらであろう! ガッハハハハ!」

「そいつを大笑いしながら言えるんだなアンタは、大した度量だよ。まったく、できれば本当に味方になってほしいぐらいだ」

「グハーッハッハッハ! 世辞まで言えるか! 何とも出来のよい王子! いやさ王弟殿ではないか!」


 少し真顔になってイェルケル。


「……会っていきなりこんなこと言うのもなんだが。国軍に入ることはできなかったのか?」

「無理だ無理! あんな硬っ苦しいところで戦が出来るか! それにな! きっとアンタとソリが合う奴はここの半分ぐらいだ! 残りは絶対アンタには合わん!」

「何故そう言い切れる?」

「会ってすぐの相手を本気で心配するようなお人よしはな! ここじゃ食い物にされてお終いよ! せいぜい飲み込まれんよう気をつけることだな!」


 そう言ってガハハと笑いながら男は去っていく。他の自由騎士たちも、油断ならぬ視線をイェルケルに向けはするが、それ以上何かをしようというつもりはないようだ。

 フードを被ったアイリの側に行き、イェルケルは小声で呟いた。


「……案外、本当にイジョラ魔法兵団をコイツらだけで潰してしまうかもしれんな」

「私も同じことを考えておりました。とは言え、魔法もまた理不尽に強力ですからなぁ。どちらに対しても、お手並み拝見といったところでしょうか」


 豪放な自由騎士と別れた後、騎士軍の首脳陣が居座るテントへと向かうが、足を進めるにつれ空気が重苦しくなっていくのがわかる。

 軍隊などというものはおおよそどこも不穏な気配の塊であろうが、国軍を知るイェルケルには、これが本当に軍であるかが疑わしく思えてならない。

 既に戦は始まっていて、敵中に突入し周囲を敵に取り囲まれている。そんな錯覚を覚えるのは、通りすがる兵士たちが皆どいつもこいつも突撃直前のいきりたった兵士のような顔をしているせいだろう。

 不気味なことに、そんな顔付きのままで彼らは野営をし、或いは食事の用意を、或いは武具の手入れを、或いは戦友との談笑に興じているのだ。

 今すぐにでも剣を抜いてきりかかってきそうな、血走ったような目つきのままで平然と日常を行う。そんな男たちは、イェルケルには理解できぬものであった。

 隣を歩くアイリもこれ以上ないぐらいに警戒しているようで。だがそれをわかるのは付き合いの長いイェルケルぐらいであろう。他の者には警戒していると気取られぬよう気を配っているのもまたわかった。

 その場所は、言われなくてもすぐにわかった。

 とにかく濃い。気配も殺意も血生臭さも、これまでで一番濃い場所だ。

 そのテントの中に何がいるのか、見たくもないがこれも役目とイェルケルは文官殿に続いてテントに入っていく。

 ちなみに文官殿はこうした戦士の気配は全くわからぬようで、通りすがりに見る兵士の顔付きが怖いことだけに怯えているようだった。

 だからテントの中に入った時も、その鬼気の風に押し出されずに済んだのだろう。

 テントの中には十人の男たちがいた。イェルケルは危うく剣に手をかけてしまうところであった。

 まるで怯えたかのような反応をしてしまいそうになったのは、テントの中央に座る三人の男のせいだ。

 強い弱い、ではない。怖いのだ。

 今にも何かをしでかしそうな、どんな非常識なことでもコイツらがやったのならありえる、そう思えてしまうような。

 国軍の将軍たちの持つ重厚な気配とはまた違う、近づく者を傷つけずにはおれぬ抜き身の刃のような。

 イェルケルの考える騎士では断じてない。どう考えても騎士が退治する類の相手だ。

 文官はテントの中の強面に怯えながらも役目を果たそうと必死に前へ出る。

 名乗りをあげ、持参した書状を彼らに手渡す。

 中央に座るヨアキム・シーララと名乗った男がこれを受け取り、じっと目を通すとこの書状を隣の男に渡す。ヨアキムの左右に控えるユッカ・ヘリスト、カレルヴォ・ヒルヴェラが集まってこれに目を通し始める。

 ヨアキムはじろりと文官を睨みつける。


「我らに死ねと言うか、新王陛下は」


 その視線だけですくみあがってしまう文官。隣で見ているイェルケルは、文官がこの男の覇気とも言うべき気配を感じ取れないのは大層幸運なことであると思えた。


「い、いえ。もちろん、皆様方の武勇を頼んでの……」


 テント内の残る面々も皆が一斉に文官を睨みつけると、彼は怯え震えて声も出なくなってしまう。

 恐らく、こうやって脅し何がしかの言質を取り付けるのが目的だろう、と考えたイェルケルは、文官の肩に手を置き、ヨアキムに向かって口を開く。

 問題さえ起こらなければただの一騎士で通すつもりであったのだが、こうなっては仕方がない。


「王弟、イェルケルである。こちらの文官殿とは懇意でな、こうして付き合って来たのだが、どうやら正解だったようだ。彼は戦とは縁が無いのだ、あまりそうやって脅してくれるな」


 イェルケルの名乗りに、部屋の気配が更に濃くなる。文官の怯えもよりひどくなるが、イェルケルと、フードをかぶったままのアイリは反応を返さず。

 ヨアキムも、ただの護衛の騎士だと思っていた者が文官よりよほど地位も高く有名な人物であるイェルケルであったことに、率直に驚きを顔に出している。


「ほう、それはそれは。二百人抜きの勇士殿であったか」


 王族だと名乗っているというのに、ヨアキムの言葉遣いはあくまで対等のもの。それを気にするイェルケルではないが、文官はというと思わず振り返りイェルケルの顔色を窺うぐらいには驚いている。


「ヨアキム殿。その手紙は陛下よりの直接の文章ではなく勅命という形ではないにせよ、陛下の御内意が含まれている。貴殿はこれに、逆らうおつもりか?」


 ヨアキムは口元を手で押さえ含み笑う。案外に所作は上品な男であるが、ゴツイ見た目と雰囲気のせいで全く品が良いという雰囲気になっていない。


「騎士団は独立独歩。陛下と言えど侵せぬ領域はあるのだぞ」

「答えになっていないな。その命令書に、従うのか逆らうのか、どちらだ」


 イェルケルの挑発の如き言葉に、周囲の男たちは皆、言葉によらず自らの意志を示す。

 溢れんばかりの殺意を叩き付け、命令書に逆らいここで貴様ら皆殺しにするぞ、と。

 だが、ヨアキムはというと彼らに同調することはなく、はははと爽やかに笑う。

 皺の寄った険しい表情、筋肉で盛り上がった一際大きな体躯、機能性以外一顧だにせぬ身だしなみ、そういった荒くれ的外観のままに見せる、育ちの良さを思わせるような快活な笑い声は、テントの中に重苦しいほどに満ち満ちている殺意をすら霧散させてしまう。


「よせよせお前ら。王弟イェルケル殿下が来たとなれば、さしもの俺たちでも無茶は通せん。かといって脅しが通じるようなタマでもない。お手上げだ、イェルケル殿下。命令には従おう」

「……一々それを試したりせず、素直に命令書を受け取ってくれ」

「一つゴネ通せば死人の数を百は減らせるとなれば、殿下とて試さずにはおれまいて」


 む、と口ごもるイェルケル。

 騎士軍に与えられた任務が過酷なもの、消耗覚悟のものであるのはイェルケルも知っている。そうする理由も、アンセルミ新王の意図も全て理解しているが、やはりイェルケルは無為に人が死ぬということに抵抗があった。

 そんなイェルケルに、逆に驚いた顔をするヨアキム。


「いや、そこでいきなり引け腰になるとは思わなんだ。噂とは随分と違う反応だな、イェルケル殿下」

「噂なんてみな好き勝手に言い散らすものだ。私を判断するのなら是非私を見たうえでそうしてくれ」


 ブスッとした顔のイェルケルに、声を上げて笑い出すヨアキム。いや、ヨアキムだけではない。他の者たちも笑い出しているではないか。

 そんな笑顔であってすら、テントの内を漂う油断できぬ気配は薄れたりしないのであるが。


「今見ただけで判断するというのなら、イェルケル殿下は武勲に似合わぬお人よし、となるがそれでいいのか?」

「好きにしてくれ。……勝算はあるのか? 魔法とは私もやったが、あれは常識で測れるシロモノではない。高位魔法とやらには容易く兵の十人や二十人を蹴散らすほどの威力があった」

「なるほど、南方にてイジョラと交戦したらしいな。その時の魔法を具体的に聞いてもいいか?」

「もちろん。力になれるといいんだが」


 一切躊躇無く情報提供を行うイェルケル。ヨアキムのみならず他の者たちもイェルケルの話を真剣に聞き入っている。

 それは荒唐無稽なとんでもない話ばかりであったが、これを馬鹿にする者なぞ一人もおらず。イェルケルたちがいかに対処したか、騎士軍ならばどう対処すべきかなんて話をする。

 イェルケルの知る限りの魔法を話し終えると、呆れた顔でヨアキムが言った。


「アンタ、いいのかこんな話して? 新王陛下は俺たちの全滅がお望みだろう?」

「……それでも友軍だ。情報の共有は当たり前のことだ。その程度で、陛下もどうこう言ったりはしない、と、思う、多分、きっと」

「やれやれ、どこまで本気なんだか。くくっ、確かに少し、アンタはアンセルミ新王に似てるかもな」

「私がか?」

「ああ、そうさ。あの方は嫌がらせするにも筋を通すからな。間違っても軍への補給を滞らせたりだの、払うべきを出し渋ったりだのはしない。一々律儀な方なんだよ」


 だからこそ、この作戦を成功させればきっとアンセルミ新王は新体制の中に騎士軍を、ヨアキムたちの望む形で残してくれるだろうと信じられるのだ。

 ヨアキムのようなどこに出しても恥かしい無法者たちですら、新王アンセルミの言葉は信頼に足る、と考えていることにイェルケルは驚き、そして、嬉しく思えた。







 文官とイェルケルがテントを出ると、テントの中には主力騎士団傭兵団の団長たちが残る。

 うちの一人が、不満げな顔でヨアキムを咎める。


「何故、そのまま帰した?」


 彼の言葉に賛同しているらしい幾人かもヨアキムを非難するような目つきだ。

 だがこれにはヨアキムではなく、隣にいたユッカが笑って答える。


「やめとけ。殿下のお人よしにつけこんで上手いこと有利に立ち回ろうってんだろ? お前らな、アイツがどうしてあんな油断した間抜け面のままでここに立っていられたと思う?」


 ユッカの言いたい事がわからぬ彼らはうさんくさげに彼を見るも、一応話を聞くつもりはあるようだ。ユッカは続ける。


「アイツ、ここで俺たちが暴走しても、最悪自分だけは生きて脱出する自信があるんだよ。もちろん、ここにいる俺たち皆殺しにして頭を潰したうえでな。わかるか? ああいうのは油断っつんじゃない、余裕ってんだ」


 半数は、上等だ、という顔をして、残る半数は苦虫を噛み潰した顔に。苦虫組は闘技場のイェルケルを見ているし、ここでこう言うユッカもそうだ。


「馬鹿共が、なめてかかってんじゃねえよ。アレを敵に回すんなら、それこそ一軍を打ち破った時ぐらいの報酬がいただけるんでもなきゃワリに合わねえんだよ。もののついでで殺せる相手か」


 ヨアキムは肩をすくめる。


「そういうことだ。そうそう都合の良い楽な話は転がっていない。せめてもあのお人よし王弟から魔法を聞けただけ有難いと思え」


 ヨアキムの声に、皆納得して解散していく。そして最後に、ヨアキムとユッカの二人が残った。

 ユッカは窺うようにヨアキムに問う。


「で、それだけ、か?」

「イェルケル殿下な、あれの根は貴族でも王族でもない、戦士だ。なら心情的には俺たちの味方になるかもしれないだろう」

「なるほどな。普通のお貴族様じゃあ、絶対俺たちの味方になってくれねえだろうし、同じ戦士として俺たちを見てくれる王族か。確かに、媚を売っといて損はねえか」

「今のアンセルミ新王の、唯一といっていい急所だ。当人の武勇が常識外れなんでまともに利用はできないが、味方になるだけならば、そう難しくはないかもな」







 告げるべきを告げ終え、テントを出るイェルケルたち。イェルケルはどうにかこの騎士軍が、新たな体制の中で生きていけないものか考えていた。

 そんなイェルケルの考えがわかったのか、帰路にてアイリはイェルケルに教えてやった。


「騎士軍所属騎士たちがしでかし、これまで不問とされてきた犯罪行為の数を、殿下は御存知ですか?」

「はん、ざい?」

「そうです。騎士団所属、それも騎士位にある者に与えられている権限を考えれば、逆に彼ら騎士が犯罪に加担した時、これを追及することはとても難しいとわかるでしょう」

「アイツらが、そんなことをしていたというのか?」

「ヨアキム・シーララが任務と称して焼き払った村は二十を超えます。すぐ隣にいたユッカ・ヘリストなどはもっとヒドイ。どこぞの侯爵がやっていた奴隷取引の常連ですぞ。騎士団、傭兵団が駐留した都市では、行方不明者の発生率が不自然なほどに増加します。それがわかっていても、連中は度を越さない程度に治めておくことでこれまで追求の手を逃れてきたのです」


 絶句するイェルケルにアイリは続ける。


「個人として、戦士としては好感の持てる男もいるかもしれません。ですが、抗う牙を持たぬ者たちにとっては、あれらは最悪最凶の害獣となります。それでも尚、殿下はあやつらに同情しますか?」


 何かを言い返そうとして言葉が出てこないイェルケルに、アイリは優しげに微笑む。


「それでも、友軍となればこれに対する信頼を裏切るわけにはいきませぬ。殿下が奴らに勝つための情報を提供するところまでは、それで通ると思いますよ」

「そう、か。……彼らは何故……いや、この問いにも意味はないな。今更、国軍に入ることもできぬ、か」

「自覚もあるのでしょうよ。そして、逃げるは逃げ、降るは降り、死ぬは死んだ後で、最後の最後に残ったのが今騎士軍と呼ばれるものなのでしょう。それでも戦に出たい、自分の好きに戦いたいという彼らの欲求は、ほんの少しだけならば私にもわからないでもありません。私もまた殿下のもと、スティナとレアと、戦場を駆けられるというのであれば、どのような窮地も厭いはしませんでしょうからな」


 ふむ、と冷静さを取り戻したイェルケルが頷く。


「度し難い戦馬鹿というのなら確かに私にも共感する部分はある。だが、それ以外までもが度し難いとなれば、さすがに擁護はできん。……おい、アイリ。その顔は何かやってはいけないことを真顔でやらかそうとしている顔に見えるんだが」

「へ? あ、いえ、顔、と言われましても。ただ、殿下の好意を利用しようとした報いをくれてやろうかと思いまして」

「おいばかよせやめろ。連中はこれから魔法兵団と戦おうというんだぞ。その目的はどうあれ、カレリアのためになる任務を命懸けでしようという彼らには、きちんと礼を尽くすべきだ」

「むむむ、殿下がそうおっしゃるのでしたら……ふん、運の良い奴らよ」

「いやほんとに。それに、だ。陛下が無駄に騎士軍を魔法兵団にぶつけるとは考え難いだろう」

「騎士軍を潰す以外にも、何か目的があると?」

「今日見て確信した。連中、たった八千で魔法兵団一万五千に挑むことになるが、それでも、半数であってすら連中ならば魔法兵団を相手に何かやらかせると思う。それにあのヨアキムや周りの男たちの反応を見る限り、幾ばくかの勝算があるのではともな」

「……八千を更に精査し千程度の数に収められるのであれば、あの戦狂い共も生かしておく利がより勝るかもしれませぬ。いや、その前に。魔法兵団相手に、騎士軍を使って損害を与えることを何かの前提にしているかもしれないということでしょうか」

「なんにせよ、大きく動くのならばサヴェラ男爵なりに一度断りを入れた方が無難だろうな。そして、わざわざ我々が動く理由もないだろうに」

「理由なぞ殿下に無礼を働いたというだけで皆殺しに値しますが、まあ、殿下がそうおっしゃるのでしたら我慢してやりましょうか」

「それあれだよな。私に無礼云々じゃなくて君が頭来たって話だよな」

「同じことです」

「ぜんっぜん違うっ! 頼むから君もその殺意を全く我慢しない癖改善してくれ!」


 ちょっと拗ねた顔になるアイリ。


「殿下だって結構血の気多いじゃないですかっ」

「自覚はある。だからお互いきちんと止めあおう。そうしよう」

「わかりました。とはいえ、横にスティナなりレアなりがいると、私が怒るより先にあの二人が怒りますからなぁ」


 疲れた顔で肩を落とすイェルケル。


「……その時は二人で止めに回ろう。いいかげん反乱騒ぎも落ち着いてきたし、国内でのこれ以上の騒乱はできるだけ避けるべきだ。もちろんこれ以上手柄を独占するのも好ましくないし、イジョラの魔法兵団は国軍と騎士軍に任せるさ」


 第十五騎士団の特徴の一つだ。

 団長含め団員は皆、四人の中で自分が一番冷静であると無根拠に信じているのである。


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