女騎士は夢の中2
もう起きてますが…
最近、同期のヴィクターの様子がおかしい。
「おい、ヴィクター」
「あっ、アレシア……っ? な、何だ、どうした?」
「……次の演習の資料だ。目を通しておけ」
持ってきた書類を手渡そうとしたとき、こちらに手を伸ばしてきたヴィクターの手に少し触れた――瞬間、目にも止まらぬ早さでヴィクターの手が離れた。
「お、おう! 悪いな……!」
「……」
やつは書類を握りしめると瞬く間に走り去っていった。
おい、それ重要書類だぞ。
こんな調子で、ヴィクターの様子がおかしい。
訓練生のときから一緒に組むことが多く、気心知れた良いやつだったが、最近はなぜか落ち着きがない。
変なものでも食べたのだろうか。
だが、やつの態度がおかしいのは、私に対してだけだ。
他の騎士団員には変わりない。
騎士団は基本的に男所帯なので、他の騎士はほぼ男になり、つまりヴィクターの態度がおかしいのは女騎士である私だけということになる。
訓練生のときから今まで女扱いをされたこともないし、今さら女だから扱いに困ると考えているとは思えないが、この突然の態度の変化は私に対して何かあるということだろう。
そう考えるとなんだか苛ついてきた。
今まで男女の区別なくやってきたはずなのに、突然態度を変えられるのは腑に落ちない。
そう思った瞬間、私はヴィクターの後を追った。
ぐだぐだ考えているのは性に合わない、行動に移すのみだ。
「おい、ヴィクター!」
「あっ、アレシア!?」
先ほどと似たようなやり取りを繰り返す。
だが今度は逃げられないように、やつの胸倉をつかみ取った。
「今夜飲みに行くぞ、付き合え」
「は、はい」
なぜか敬語で返事をしてきたやつを引っ張って、仕事が終わると近くにある馴染みの居酒屋へ向かった。
***
「――で、ここ最近の私への態度はなんだ?」
ビールの入ったジョッキを傾けながらヴィクターを問いただす。
やつは下を向いて目をそらしたままなものだから、私はため息をついて言葉を続けた。
「……私はおまえを信頼できる仲間であり友人だと思っていたのに、おまえはそうではなかったということか、ヴィクター」
そう言うと、ヴィクターがやっと顔を上げた。
「違う! そういうつもりではない!」
「なら何なんだ、このところの余所余所しさは」
「それは……」
ヴィクターが口ごもる。
「……今はまだ言えないが、おまえを信頼できないとか、仲間じゃないと思っているわけではない。きちんと気持ちを固めてから、言う」
解決はできなかったが、ヴィクターが私に対して不満を持っているなどというわけではないことは分かった。
はっきりさせたい気持ちもあるが、ヴィクターの思いを無理強いさせるのはよくないので、いずれ言ってくれるのなら待つ。
「分った。気持ちが固まったら教えてくれ」
「ああ。すまない」
「いや、こちらこそ問いただして悪かったな」
仲直りというわけではないが、ビールの入ったジョッキを近づけて音を鳴らす。
先ほどよりはビールが美味い。
ヴィクターもビールを飲みながらこちらを見てきた。
「とりあえず、休憩室で無防備に寝るのは止せ」
「急に話が変わるな」
「変わってない」
「よく分らんが、分かった」
思い返せば、ヴィクターの態度がおかしくなったのは、騎士団の休憩室で仮眠をとったときからな気がする。
起きたときに、休憩室内にヴィクターがいたことを思い出す。
寝相は悪くない方だが、ヴィクターを蹴ったり叩いたりでもしたのだろうか。
思い出したついでに、夢を見たことも蘇った。
「そう言えばこの前、夢におまえが出てきたんだ――って、ビール零すなよ。もったいないな」
普通にビールを飲んでいたはずのヴィクターが、盛大に手を震わせてジョッキの中身を零した。
一体何をやってるんだ。
「夢の中でおまえが犬になってじゃれついてきたんだ」
「は……? 犬……?」
「大型犬で、あれは可愛かったな!」
騎士団の休憩室で仮眠をとっていたときに見た夢の中で、なぜかヴィクターが犬になっていて、髪と同じ茶色の毛並みの尻尾をぶんぶん振り回してじゃれついてくる様子は、今思い出しても非常に可愛かった。
私は犬派だ。
思い出して言うと、目の前のヴィクターがまだ手を震わせていた。
「も……もてあそびやがって……!!」
「は?」
まるで令嬢みたいなセリフが飛んできた。
「俺は、おまえが俺の夢を見ていると思って意識したっていうのに……!」
「は……?」
「それなのに、犬……くそうっ、犬だったのかよ……!」
「意識……? おまえが、私を?」
「悪いか!?」
そう言いながらヴィクターはビールを煽った。
私はといえば――。
ヴィクターが私を意識していたという言葉が頭の中を回って離れない。
ヴィクターが、私を。
意識?
ビールを煽っていたヴィクターが、不意にこちらへと視線を向け、目を丸くしながら口を開く。
「……おい、顔……」
最後まで言われる前に遮った。
「意識させるな!!」
まださほどビールを飲んだわけでもないのに、自分の顔が熱くなっていくのを自覚した。
――後日、そろって落ち着きをなくした私とヴィクターの二人に、騎士団長から呆れ顔を向けられたのは、言うまでもない。
ヴィクターは格好良い騎士にしたかったのですが、初恋を奪われた少年みたいになりました。
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