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「杏奈ちゃん、個室ご理解いただけた?」


「はい。サインもらってきました。状態が改善されたら大部屋希望です」


「ホワイトボードと看護記録にその旨を書いておいて」


「わかりました」


 優花先輩に声をかけてもらい、現状を報告した。ホワイトボードに軽く書き看護記録には、娘さんから聞いた事を添えて書いておく。早くせん妄が抜ける事を願う。


 八重子さんの娘さんの面会が終わりナースステーションに声をかけて帰って行かれた。


 午後になりリハビリの患者さんがそれぞれの担当の理学療法士に付き添われリハビリに出かけていく。そうすると少しの間、病棟が静かになる。そんな時に個室方面の廊下から、泣き声が聞こえてきた。


「杏奈ちゃん、たぶん木村さん」


「わかりました。行ってきます」


 廊下を進むと825号室から聞こえてくる。扉をノックして扉を開ける。


「木村さん、どうされました」


「痛くて動けないから迷惑かけて情けなくて涙出てくる。うるさいって言われてどうして良いかわからなくなって、情けなくて涙出てくる」


 そう言って泣いて、落ち着いては泣いてを繰り返す。とりあえず大丈夫ですよと声をかけて話し相手をする。


「今は痛いかもしれないけど、少しずつ痛みから解放されますから。そしたらリハビリが待ってますよ」


「頑張ります」


「何かありましたらナースコール押してくださいね」


 そう言って病室を出る。看護記録に残しておくため記載しているとナールコールが鳴り響く。


「杏奈ちゃん、825の木村さん」


「はい。行ってきます」 


 木村さんの病室に向かい、ノックをして病室に入る。


「木村さんどうされましたか」


 声を抑えて泣いていた。声をかけても泣くだけで特に何かあるわけでもなさそうだ。


「木村さん、泣かなくて大丈夫ですからね。痛み止めのお薬を先生に聞いてみますね」


 そう声をかけて病室を出る。そして優花先輩に相談をする。


「優花先輩、今、木村さんの病室に行ってきたんですけど、泣いてるだけで特に用事があって押したわけでもなさそうなんです」


「せん妄からかな。ドクターに相談してみましょうか」


「わかりました。主治医の永森ながもり先生に伝えてみます」


 優花先輩に相談して主治医の永森先生に医療用携帯で永森先生に電話をかける。


「永森です」


「ナースの中野です。お疲れ様です。先生今少し相談良いですか?」


「うん、大丈夫だよ。そっち行こうか」


「そうしてもらえたら助かります」


「了解。すぐ向かいます」


 木村さんの主治医の永森ながもり郁也いくや先生が、ナースステーションに来てくださるまでに、看護記録を準備して待つ。


「中野さん、待たせてごめんね」


「いえ、大丈夫です。永森先生、早速なんですけど木村八重子さんせん妄のためか泣いてて知らずに押してしまったのか不明なんですけど、ナースコール頻繁で本人は泣いてるだけで特に何かあって押している様子はないんですけど、痛みのコントロールが進んできたら落ち着くかなとは思っているんですけど」


「お昼は食べれてる?」


「ご飯は少し残っていましたが、他のものは完食してました」


「マイスリー処方しておくから飲ませて様子みようか」


「わかりました」


「それじゃあ頼むよ。また何かあれば連絡して」


「ありがとうございました」


 永森先生は、右手を軽く挙げてナースステーションを後にされた。


 永森先生が処方した木村さんのお薬が届いた。お薬を持って病室に向かう。


「木村さん、ゆっくり眠って心落ち着けましょうね。永森先生がお薬処方してくださったので飲みましょうね」


「ありがとうございます」


 八重子さんの手のひらにマイスリーをコロンと乗せる。コップに入っているお水で飲んだ。飲めたかの確認する。


「木村さん、飲めましたか?」


「はい。飲めました」


「それじゃあ、ゆっくり休みましょう」


「はい」 


 目をつむり寝る体勢をしてくれた木村さんを確認したので病室をでてナースステーションに戻り看護記録にマイスリー服用を記載した。


「杏奈ちゃん、木村さんはどう?」


「永森先生がマイスリーを処方してくださり今、服用を確認してきました」


「これで落ち着いてくれるとお部屋移動できるんだけどね」


「はい。本人は個室希望されてますけどご家族が大部屋希望されてますから」


「泣いてうるさいって言われて、個室にいきたいって言ってたあれの事かな。本人希望って」


「看護助手の美輪さんがオムツ交換で病室にお邪魔した時に話したらしいです」


「せん妄疑われてる時の会話って本人覚えてない事が多いからね」


「娘さんに木村さんが、自分で貯めた貯金を私が私のために使うの。だから個室に入る同意してくださいって懇願したらしいですよ。でも貯金を個室代で使い果たしてどうするの? 退院してからの生活の方が長いでしょ。って話したらしいですよ。それを私にも話してくださいましたから。娘さん言ってましたよ。危篤でもう長くないなら今までありがとうの意味を込めて個室で……って考えないでもないけど、退院してからの生活があるんだから、大部屋で治療してもらいたいですって話してました」


「まぁ、余裕がないと個室はね」


「木村さんが年金生活で娘さんパートで働いてるって言ってたので、今の部屋が長期になればキツイでしょうね。落ち着いたら、前の病室ではなく、もう少し高齢の方が入っていらっしゃる奥の病室かなと考えてます。師長と相談して決めますが」


「それが良いわね。しばらく様子をみましょう」  


「はい」


 木村さんのせん妄は一週間ほどで落ち着き、大部屋へ移動となった。

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