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 木村八重子さんの看護記録を新規で作る。


"腰の痛みが酷く歩行不可。救急車で来院。救急外来で診察検査の結果、仙骨骨折と診断。主治医より絶対安静で痛みコントロールで経過観察"


"オムツ初めてとの事。排尿確認。できない、尿量が少ない等主治医より導尿やカテーテル検討との事"


 必要事項を書き込んでいく。ナースステーション入り口で声がかかる。


「木村八重子の家族の者です。今日はこれで帰ります。母がお世話になります。よろしくお願いします」


「気をつけてお帰りくださいね」


 お薬手帳から常用している薬をご家族に持ってきてもらうまでの分をドクターに処方してもらう。夜勤交代迄に揃えておかなくてはいけないため、急いでドクターに処方箋を書いてもらう。薬が届いたら配薬しておかなくてはいけない。


 全てのことが終わると、夜勤帯の人と交代の申し送りの時間だった。


「申し送り始めます」


 優花先輩の声が聞こえナースステーションに集まる。それぞれ引き継ぎを行なっていく。


「木村八重子さん80歳。仙骨骨折で救急車で来院。痛みが強くベッド安静指示が出ています。かかりつけ医の処方が、カンデサルタンとニフェジピンが朝食後に各一錠処方されています」


 電子カルテにも看護記録にも記載して事柄だけど、申し送りでもキチンと共有する。全ての引き継ぎが終わり、日勤帯のスタッフが病棟を後にする。


「杏奈ちゃん、お疲れ様。今日の受け入れから看護記録の準備や処方箋の手配や配薬、申し送りまで完璧だったよ」


「優花先輩、本当ですか!?」


「うん。自信持っていいよ。さすが私の教え子だわ」


「ありがとうございます」


 こうして始まった私の初めて一人で受け持つ担当患者の八重子さん。大人しい印象を受けていたが、なかやか結構大変な患者さんだった。


 翌朝、いつものように更衣室で着替え病棟のナースステーションへ向かう途中で同期入職の高梨たかなし妃茉利ひまりに声をかけられた。


「杏奈おはよう」


「妃茉利おはよう。久しぶりだね。同じ所にいるのになかなか会えないよね」


「病棟違うと難しいよね」


「小児はどう?」


「処置で泣かれるし、大っ嫌いって言われてヘコむ」


 わかる気がする。新人の頃って言われることに一喜一憂するんだよね。


「時間が合えばお昼一緒に行こう」


「うん。そうしよう」


 またね。とお互い手を振りそれぞれの病棟へ向かって歩いていく。整形外科病棟の扉を開け、ナースステーションへ向かう。


「杏奈、八重子さん。さっき個室に移したよ」


 何があったんだろう? 


「何かあった?」


「あったなんてもんじゃなかったよ。消灯後に結構な声量で泣き出しちゃって主治医に相談してマイスリーで対応したんだけど、深夜に病室の入り口で倒れてて」


「えっ? 痛みが強くて動けないんじゃなかったっけ」


「そうでしょ。歩いたのかベッドから落ちたのかわからなくて、全身チェックして痣とか怪我はなかったの。ドクターに診察もしてもらって異常なしって事だったけどせん妄か見極めが難しいけどとりあえず個室で経過観察。ご家族に個室の説明と書類にサインもらわないといけないから連絡よろしくね」


 朝の申し送りが始まりさっき聞いた事も、共有事項として申し送りされた。個室の等級を確認する。そしてご家族に書類にサインをもらわなくてはいけないため八重子さんの看護記録を開く、そして第一連絡先に指定されている娘さんの携帯に連絡を入れる。


「もしもし」


「桜ノ宮総合病院の整形外科病棟看護師の中野です。木村八重子さんの娘さんの携帯でお間違いないでしょうか」

 

「はい。そうです。母がお世話になっております」


「八重子さんなんですが、消灯時間の辺りから泣き始め結構な時間泣いておられてドクターから眠れるようお薬が処方され落ち着いてお休みになられたのですが深夜に病室の入り口でしゃがみ込むようにしていらっしゃって、歩いたのか落ちたのかわからず、夜中にドクターの診察を受け、全身チェックをして痣や怪我などはありませんでした。せん妄なのか経過観察のため、個室に今入って頂いております。一日につき9400円の差額ベッド代が必要になります。同意書のサインが必要になりますので病棟へお越しの際はナースステーションでお声掛けをお願いしたいのですが」


「今日、母の薬を持っていく予定でいましたのでその時にでも良いすか」


「もちろん大丈夫です。それでは、よろしくお願いします」


 とりあえず、ご家族に連絡がついて来院いただけるので書類を準備しておこう。


 午前中の回診も終わり、病棟の雰囲気はのんびりとした時間が流れる。しかしお昼の時間までに、やらなくてはいけない事で忙しく走り回る。看護助手さんは、シーツ交換日でそれぞれの病室を慌ただしく動き回っている。


 八重子さんのご家族に書いてもらう書類を準備しておく。書類には、等級別の差額ベッド代が記されている書類を取り出し八重子さんが入っている病室にチェックを入れておく。


「母がお世話になってます」


 ナースステーションの入り口で声がかかった。事務員が対応している。


「お母様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」


「木村八重子です」  


「はい、少々お待ちくださいね」


 そのやりとりの後、ホワイトボードの今日の担当ナースを確認して私に声がかかった。


「中野さん、木村八重子さんの娘さんがいらっしゃってます」


「ありがとうございます。今行きます」


 書き終わった看護記録をラックに戻して、書類を持ちナースステーション入り口で待つご家族のもとへ向かう。


「こんにちは。ご来院ありがとうございます。それではこちらへどうぞ」


 ご家族に相談室に案内して、使用中にして部屋の中へ入っていく。今の八重子さんの状況を説明する。そして書類を広げて説明していく。


「あのぉ、もう少し安い個室って空いてないんでしょうか」


 個室の等級別に値段が違う。整形外科は6段階の等級がある。801号室、802号室、803号室は13200円。826号室、827号室は11900円、805号室、806号室、807号室、808号室、810号室は10700円。825号室は9400円。823号室は5400円。811号室は4000円。八重子さんが入っているのは825号室。


「今は、このお部屋しか空いておらず申し訳ありませんがこちらのお部屋でお願いします。せん妄が改善されたらお部屋の移動も可能ですから」


 そう説明すると娘さんは


「母は年金生活で私はパートで働いています。なので、母がもう危篤で……っていうなら、感謝の意を込めて個室で見送る事も考えないではないですが、退院してこれからの生活があるのなら入院中が長くなることがわかっているのでお部屋の贅沢はさせてあげられないです。状態が改善されたら大部屋に戻してもらうことは可能ですか」


「もちろんお母様の様子が安定したら、お部屋の移動をしましょう。こちらにサインをお願いします」


 室料の加算(個室入室)の同意書にサインをもらう。


「ありがとうございます」


 同意書にサインをもらい書類を受け取る。


「個人病院で頂いていた薬を全部持ってきました」


「ありがとうございます。お預かり致しますね。それではお部屋にご案内しますね。お顔見せてあげてください」


 娘さんを825号室へ案内する。


「ありがとうございました」


「ごゆっくりどうぞ」


 書類と預かった薬を持ってナースステーションへ戻る

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