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「杏奈ちゃん、おめでとう。今日から独り立ちだね。困ったり悩んだ時はすぐに声かけてよ。いつでも相談に乗るから」
私の指導看護師をしてくれた伊沢優花先輩が声をかけてくれた。
夜勤帯から日勤帯のナースに申し送りが終わり、いつもの慌ただしさが始まる。整形外科病棟では患者さんの入院事案は多岐にわたる。外科とか形成外科とは何が違うのか? と良く聞かれる。私も配属されたばかりの頃は、違いがよくわかっていなかった。
いつも通りの日常が流れていた病棟に救急外来から内線が入る。電話に近かった優花先輩が電話を受けた。そしてナースステーションにいたスタッフに電話内容を伝える。
「救急外来から入院依頼です。木村八重子さん80歳女性。仙骨骨折です。痛みが酷く歩行不可でベッド移動で上がってきます。担当を中野さんにしてもらいます。引き継ぎよろしくお願いします。みなさんもフォローしてあげてくださいね」
私が独り立ちして初めて受け持つ患者さん。救急科の看護師がベッドを押して病棟に上がってきた。私はすぐに引き継ぎを行うためにホールに出迎える。
「木村八重子さん、80歳。仙骨骨折で痛みのため歩行不可です」
「わかりました」
細かいやりとりをして救急外来から整形外科病棟へ引き継ぎが行われた。
病室ベッドをホールに出しておいたのでそこでベッド移動を行う。手の空いている看護師数名に手伝ってもらい移動させる。そして病室へ移動してもらう。ご家族にはカンファレンス室で待ってもらい話を聞く。
「木村さん、初めまして。担当をさせていただきます中野杏奈です。よろしくお願いします。お部屋は820号室です。6人部屋の右側の真ん中です」
救急外来で病衣に着替えオムツにしてもらっているので今すぐに何かをしなくてはいけないことはない。まずはご家族から色々とお話を聞かなくてはいけない。
「木村さんまた後から来ますね。困ったことがあればいつでもナースコール押してくださいね」
ご家族の待つカンファレンス室に電子カルテ、入院の書類、そして各種確認しなくてはいけない書類など全て持って向かった。
「失礼します。木村八重子さんを担当させて頂きます看護師の中野杏奈です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。母がお世話になります」
娘さんが救急車に同乗して来院された方と理解する。入院計画書、安全で快適な入院生活をしていただくための聞き取り用紙へのサイン、身体拘束による行動制限に関する説明と意思確認書、退院支援計画書、アメニティセット利用確認、入院のご案内に沿って説明など多岐にわたり確認作業が続く。
「パジャマやタオルなどは当院のアメニティをご利用になられますか? ご家族の方が持参されますか。アメニティをご利用になる場合は、寝巻、衣類、タオル類、日用品もご用意できるセットがありますので、ご家族に持ってきてもらうものは何もありません。費用がこちらで日数分の費用が必要です。それとお母様はオムツを使用しますのでオムツはこちらで用意したものを使用しますので1日この金額で日数分費用がかかります。衣類はどうされますか?」
「こちらのアメニティをお願いします」
「わかりました。では、こちらにサインをお願いします」
まず一つ目の確認が終わる。次のサイン事案の説明を始める。
「お母様は高齢のため、もしかして入院当初に"せん妄"が見られるかもしれません」
ご家族に説明のために作成してあるプリントを見せながら説明していく。そしてそうなった時の身体拘束や個室入室が考えられるためその説明を受け同意しますのサインをもらう。そして、本人のことの確認とお話をしていく。
「お母様は、普段はどう生活されていましたか?」
「自分のことは自分でしていました。動ける内は自分の事は自分ですると言っていましたから」
「素晴らしいですね。頑張っておられたんですね」
「ありがとうございます」
色々と話は進み、
「介護認定を受けられていますか?」
介護認定を受けていてサービス等を始められている場合はケアマネージャーさんがいらっしゃるためその確認をする。
「母のかかりつけの病院の師長さんから、介護認定を申請されたら良いですよ。と教えて頂き今日仕事の帰りに区役所へ行く予定でしたが、まさか仕事中にかかりつけの病院の事務の方に母が泣きながら電話かけて相談受けてるんですけど。どうしましょうか。帰ったらそのまま救急搬送してもらったら良いと思いますよと背中を押してもらい電話を切ると仕事先の方が『帰って良いよ。お母さん心細い思いしてるだろうから帰ってあげな』って言ってくださり、家に帰って母の様子を確認して119番に連絡しました。もう私の緊張の方が半端なかったです。意識がないとか倒れてるとかの緊急ではなく痛みで動けないだけで呼んで良いものかとか考えちゃって」
「そうでしたか。それは大変でしたね。そういう時は呼んでくださって良いんですよ。今日はお母様もご家族の方も頑張られたんですね」
戸惑いや心細かった様子が見てとれたので、労いの言葉と安心してもらえるような言葉掛けを心がけた。
「主治医の見解ですが、高齢のため手術は行わず、絶対安静を1週間行い経過観察を行います。痛みのコントロールはしていくのでご安心くださいね。そしてリハビリを行います。一ヶ月程の入院だと思います」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
入院の案内の冊子を開き一緒に確認事項を説明していく。
「お見舞いは一回に三人までで三十分でお願いします。駐車場は入庫三十分は無料です。以降は三十分毎に百円です。病院の要請で来院、退院時のお迎えは、無料ですので、病棟で駐車券に検印を受けた後、総合窓口に提出して無料処理を受けてくださいね」
「はい。わかりました」
「わからない事はその都度スタッフに声をかけてくださったら良いですからね」
「ありがとうございます。初めてのことなのでびっくりしてどうして良いのかわからなかったので親切に説明してくださり優しい対応ありがとうございます」
「お母様には頑張って頂かなくてはいけませんけどね。色々お手伝いさせていただきます。それでは病室にご案内しますね」
ご家族を病室に案内する。
「820号室の右側の真ん中になります。木村さん、ご家族の方がいらっしゃいましたよ」
担当患者さんに声をかけて、ご家族の方を案内してナースステーションへ戻る。




