せっかくだから私はこの赤のコードを選ぶわ!
「やはり危険だ。俺が宝箱を開けようかルスカ」
「やだ。こんな機会滅多にないし! ジン。止めないで!」
「しかし……」
宝箱があるのだ。ルスカだって開けてみたい。
マニューバコートサイズの罠に危機を感じるジンだった。
『ジン君。任せてみたまえ』
助け船は思わぬところから現れた。
カスガから守山が伝達してきたのだ。
『マニューバコートにはシーフというクラスが設定してあるにも拘わらず、宝箱を開ける機会が少ない。このような大型の宝箱は初かもしれないんだ。そう。これはシーフクラスの希望ともいえる。けっしてクリ職の代名詞ではないんだ』
何故か熱く語る守山。
「強引に破壊して中身を取り出すという手は?」
『残念ながら往々にしてこのような宝箱は解除に失敗すると中身が喪失する。この宝箱も例外ではないだろう』
「そうか。――わかった。ルスカ。何かあったらカバーするからな」
『やっぱりジン愛している! ――解錠スキルがフレーバーテキストじゃなくて良かったよ』
ルスカはピクシーを操作し、スキャンする。
「仕組みは単純。赤のコードを切断すれば82%の確率で罠を解除できるらしい」
『アナログゲームでは決して油断できない数値ですね』
アナログゲームに詳しい飛梅が懸念を口にする。
碁や双六に勤しむ平安貴族を長年見守ってきた。何せ平安時代から日本のアナログゲームを見守っている梅の木だ。現代のアナログゲームはもはやコレクターになりつつある。
「こういうときはこういうのよね? ――せっかくだから私はこの赤のコードを選ぶわ!」
ルスカが宣言して、赤のコードを切ろうとするとき、恐るべき警告が入った。
「ルスカ様。そのネタは百年前のネタにございます…… 正確には90年前かと」
イネが思わずツッコミを入れたのだ。現在は2080年代。ルスカが口にしたネタは1993年にまで遡るのだ。
「デジマ?!」
「それも死語にございます…… エルフは長命なので見逃されるでしょうが…… お年がばれますよ」
「エ、エルフは長命だから流行廃りにはうといんだよ……」
「最近その姿になったばかりですよね? ジン殿とのジュネレーションギャップが激しいかと」
非常に言いづらそうなイネだった。知っているということは、自分もそれ以上の年齢だと告げているのと同じ。精霊としての沽券に関わる。
「それはまずい。ねえジン。アイノ。このせっかくだから、ってネタ。聞き覚えない?」
「ないな」
「ありません。私、ゲームにはうとくて」
「それなりにゲームはやっていたけどないな」
容赦がないジンだった。
「やめて! 二回もないなって言わないで。ええい! さっさと切ろ!」
躊躇なく赤いコードを切るルスカのピクシー。
「罠解除成功……かな? 開けるよー」
「自信なさげだな……」
「大丈夫だって。きっと!」
ピクシーが宝箱を開ける。
「小さな銀色に輝くインゴットがあるだけ」
「よくやったルスカ!」
「えへへー」
ジンに褒められ、照れたように笑うルスカだった。
真剣な眼差しで宝箱を注視する。
「魔力みたいなものはないな。まさか伝説のミスリ……?!」
「違うから。銀だね」
ルスカの言葉を遮ったサラマが、興味津々といった感じで、ジンの背後から体を乗り出しモニタを凝視する。
「とりあえず持ち帰ろう」
「ならば積載補正がある私が持とう」
前衛クラスは積載補正があり、より多くの装備や兵装が持てるようになっている。
このような運搬には重要のようだ。
「展開式のバックパックに格納したが、報告がある。見た目よりも重い。少なくとも鉄よりは密度がある物質だ」
「銀色で質量がある…… タングステンか何かか。それはそれで貴重品だが」
「貨幣よりは価値ありそうだね。金の先物相場より高そう」
ルスカがエルフとは想えぬ言葉を発する。
「ただの銀だったりしてな」
「そんな夢のない話はしない! ――進もう」
四人は宝箱を後にし、先に進んだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「停止」
ジンがパーティを制止する。
「これはどう判断すればいいのか」
「判断も何も……下層へ続くスロープね。巨大な」
やや狭くなった洞窟では、緩やかな下り坂が続いている。
「下層か。階段でもあるかと思った」
「敵は機械のモンスターだからね。階段よりはスロープのほうが合理的かな」
「そうだな。何が出てくるかわからない。先ほどのアンデッドのように」
ジンはシデンのライトで先を見通すが、大きく弧を描いているような下り坂で、先は見通せない。
「普通ならいったん引き返すところだが、 ダンジョンマスター【ヴェレス】を倒さないとアンデッドが地上に溢れ出る」
「もうかなり溢れているよね。今はなんとか日本外征部隊とフィンランド国防軍が抑えているけど」
「あいつらで低位モンスターだからな」
ジンが思わず本音を口にする。
「セーブポイントか安全地帯でもあればいいんだが」
「さすがにそれは期待できないかなー」
「だよな。そこまでゲーム的だとは思っていない。都合良く弾薬など売ってくれるわけもなし。――NATO規格ならワンチャンあるかな」
「ノーチャンスだと思うよ……」
ジンの希望的観測をルスカが悲しそうに否定する。
「……ヴァーキ武器や魔法で弾を節約するしかないか」
「ミルスミエスで殴るという手もあるさ。次からはメイスを造ってもらおう」
サラヴィはとくに気にしていないようだ。
「迷宮探索が一日で終わるわけないもんな。――ん。あれはなんだ」
前方がほのかに明るくなり、何故か巨大な看板が立っている。達筆な手書きだ。
「英語だ。resting area? 休息所だと。こんな迷宮のなかに?」
「レスティングエリアならゲームにも何らかの形であるよね。迷宮にあるなら精霊か、異教の神が経営しているか。どちらかだと思うわ。魔力はあるけど敵意は感じないもの」
サラマが目を凝らしながら、魔力の感触を探る。
「私は大気に属するから、地下とは相性が悪いんだよね。正体まではわからない」
「敵ではないことを信じていこうか。道の途中にあるんだ。通るしかない。敵意がないなら安心して休めるだろう」
ジンの言葉に一同は頷いた。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります。
鈴木土下座○門と同様、映画化されてから幻の金属ミス○ルも使用ルールが厳密になり、うかつには使ってはいけないそうです……!
ゲーム機は土星。日立からV土星も出ていましたね。




