3話 冒険者ギルド
「さてと、今日も大量収穫だったわね」
「7階層の階段も見つかったし、よかったな」
時刻は夕刻過ぎを迎えていた。オルランド遺跡の探索を本日も終えた二人は袋にギッシリと詰まった結晶石を手にアーカーシャの街を大手を振って歩く。袋に詰まった結晶石は傍から見るだけでも現金の塊くらいの価値があるものだ。
無防備に持ち歩いていれば、ならず者に狙われてもおかしくはない。特にアーカーシャの街の治安は悪いことで有名だからだ。だが、そんなことを考える者は誰一人としていない。なにせその袋を持ち歩いているのは、現在最も有名な冒険者と言える者達だからだ。
「さ~て、いくらくらいになるのかしらねっ」
「アメリア……もうちょっと清楚にしていたらいいのに」
アメリアの勝気で明るい性格は時に守銭奴のように狡猾な笑みを作っていた。春人は苦笑いをしつつそれを見送る。二人が向かっている場所は、アーカーシャの冒険者組合「ギルド」と呼ばれる所である。
冒険者に遺跡の探索や住民の護衛などの仕事を斡旋する場所である。他の街にあるギルドとは違い、大半が遺跡に関係する仕事ではあるが。冒険者のレベルに応じて、行ける遺跡も厳しく管理されている。
また、遺跡で発見した宝や結晶石の換金、鑑定などもギルドが行っているのだ。まさに冒険者の仕事を全体的にサポートする役割を担っていると言える。
アーカーシャの街は中央に位置する巨大な時計塔を中心に街並みが整えられている。冒険者ギルドの場所もそんな時計塔のすぐ傍に位置していた。
ギルドは石造りの堅牢な建物で、中へ入ると幾つかのソファーが並んでいる。受付には役人と思われる人々が、それぞれ冒険者の対応をしているようだ。
「ホテルのロビーと市役所が合体した所って感じかな」
「ん? なんか言った?」
「いや、なにも」
春人は日本の家屋で近い物を適当に考えていた。デザインこそ中世ヨーロッパを思わせる雰囲気ではあるが、その堅牢さは現代の日本の家屋と比較してもなんら変わらない印象を受ける。魔法の技術が進んでいるこの世界は、単純な文明の造りとは比較できない何かが多分にある。
「やっほー、ローラ。今日も結晶石の鑑定おねが~い」
「あら、アメリアこんにちは。今日も随分と大量ね」
「ま~ね」
ギルドの受付の女性の一人にアメリアは声をかける。この三週間の間、この光景は春人も何度か見てきた。アメリアが鑑定などを依頼する相手は決まってローラと呼ばれた女性である。
二人は旧知の間柄であり、ローラはアメリアの4歳年上の為、姉妹のような印象を春人は感じていた。実際、アメリアとしてもそういった頼りがいをローラに感じているのだろう。
「高宮くんも大変ね。アメリアについて行くのは大変でしょ?」
「まあちょっと大変な時も……慣れて行きます」
ローラは受付嬢の立場を厳守しているのか、春人のことを苗字で呼ぶ。高宮 春人という聞き慣れないイントネーションの名前を聞いた時はかなり驚いていたが、現在では慣れてきたようだ。
「全く勝手なこと言うんじゃないわよ。春人は私のパートナーとしてふさわしい働きをすればいいの」
「わかってるっての」
「まあ、アメリアはこう言ってるけど、自分の背中を預けられる子が見つかって喜んでるから。仲良くしてあげてね」
言葉のひとつを取ってもアメリアへの心配の念が伝わってくる。春人にもそれが感じられた。アメリアも若干口を尖らせてはいるが、図星なのかローラには頭が上がらないようだ。
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「今回の結晶石は……合計で10万ゴールドね」
ゴールドと呼ばれる単位が、この世界での通貨の単位となっている。春人としては元の世界ではゲームなどでよく耳にする通貨ではあったのですぐに受け入れることができた。日本で言うところの1万円や5千円、千円札に該当するであろう金貨や銀貨で手渡しをされる。
「10万って言ったら……どんなくらいだっけ?」
「10万ゴールドって言えばそうね……3人家族で数カ月は過ごせる額じゃない?」
「3人家族で数カ月か……なるほど」
オルランド遺跡の6層までの1往復で10万ゴールドを稼ぎ出した。往復に費やした時間は8時間程度だ。1日に稼いだ額としては大きいのかもしれないが、命の危険を考えると果たしてどうだろうか。6階層ではレベル44のバジリスクとの戦闘もあったのだから。
普通の仕事よりは遥かに稼げているはずだが……春人は難しい顔をしていた。
「ま、今回は不作だったかしらね。新しい宝の発見がなかったのが痛いわね」
「俺としては驚きだけどね……前が14万ゴールドで……俺がこんな稼げていることが信じられない」
まだ高校生だったこともあり、働いたことがない春人だったが、普通の社会人であったとしても、1日の稼ぎとしては多すぎるくらいだ。1日で数カ月分の給料を稼いでしまっている計算になる。
「前回も14万ゴールドを稼いでいたわね。十分な額だけれど、あなた達だからそれも可能なのよ? 普通の冒険者はオルランド遺跡になんて入れないわ。通常は1万ゴールドも稼げれば十分なんだから」
冒険者という職業は全ての人間が食べれるというわけではない。一攫千金という意味合いでは夢のある職種ではあるが、どうしても貧富の差というものは発生している。上位冒険者である二人で10万ゴールドといった印象なのだ。
通常の何倍もの稼ぎだが、彼らは常にこのくらいの額を稼げる実力を有してはいる。本気を出せばさらに稼げるだろうというのは二人とも分かっていた。ローラも同じ感想だ。
「でも、健康体であれば一度は冒険者をしてもいいと思うわ。それだけ鍛えられるし、経験にもなるしね」
アメリアの体験を思い出したのか、物思いにふけているようだった。そんな彼女をローラも静かに見送る。10歳の少女が冒険者の世界に参入したことで、現在のアメリアがあるのだ。ローラも以前から彼女のことは知っている為、過去の苦労なども承知していた。
「ところで、そろそろパーティの名称を考えてくれない? あなた達ほどの有名な冒険者で、名前を付けてないのは非常に困るのよ」
「え~? パーティ名とかどうでもいいと思うけど……う~ん、じゃあ「ソード&メイジ」で」
「うわ……安直……」
アメリアの安直なネーミングに思わず頭を抱える春人。それぞれの武器をそのままパーティ名にしただけだ。アメリアはそんな春人に不機嫌な視線を送っている。
「ソード&メイジね……うん、悪くないわ」
「え……?」
予想外のローラの反応に思わず彼女を凝視する春人。
「さっすが私の親友! よくわかってるわね!」
「他の冒険者が「イリュージョニスト」とか「ネオエクスデス」といった名前だから。シンプルな方が返って目立つと思うわ」
無駄に凝った名称……春人の世界で言えば中二的な名前に該当する。ソード&メイジというシンプルな名称は逆に最強の冒険者パーティとして目立つという考えだ。
「じゃあ、ソード&メイジで決まりね」
「ええ、これで紹介もしやすくなると思うわ」
「紹介ですか?」
「あなた達のことを教えてほしいっていう人も増えて来ているわ。単純なファンから依頼を考えている人まで幅広くね。パーティの名称があれば、そういうのを処理しやすくなるの」
ローラは春人に笑顔を向ける。本日を持って正式に「ソード&メイジ」というパーティでの活動が決まった。まだまだ冒険者として心構えが成熟していない春人にとって、パーティ名が決まったというだけでも重荷にならないか……一抹の不安が拭えないでいた。
彼はまだまだ現在の自分の実力と、過去の苛められていた自分とを別々に考えられる状態にはなっていなかった。




