145話 断章 港町アーバンスにて
「日々の鍛錬は抜かりないようにな」
「これはカール総督。お越しいただいていましたか」
マシュマト王国より東に位置する港町アーバンス。その内部の訓練場にてカール・レギンス総督が様子見に来ていた。マシュマト王国の軍隊のトップに立つ人物であり、57歳という年齢ながらその実力も確かな人物とされている。
カールと話している人物はジスパ―・ライノフ大佐だ。35歳という年齢だがその実力は全ての者の中で最強とされている。闘気によって生み出した剣を武器に変幻自在の剣技を披露することができるのだ。
「お前の部下の進捗はどうだ?」
「問題はありません。全てはアルカディア島への進行の為に鍛え上げた精鋭になります。レベル400の鉄巨人を仮想敵として想定していますので、まったく問題はないかと思われます」
「それは素晴らしい」
最強軍隊を誇るマシュマト王国は1体で小国を滅ぼせるとされる、伝説の鉄巨人を仮想敵として想定した訓練を実施していたのだ。大佐のジスパ―からその部下に至るまで全く隙のない陣営が組まれていた。その代償として、アンバーロードによる介入を許してしまったわけだが……。
「組織アンバーロードや闇の軍勢に進行されるという隙を作ってしまったが……Sランク冒険者が解決してくれたのは良かったな。我が精鋭たちを差し向ける必要はなかったということだ」
「ええ、総督。こちらはレベル400のモンスターを倒せることを想定して鍛えてきました。結果的にアンバーロード達に差し向けることがなくて良かったと思います。まあ、差し向けていても勝ちは確実でしたが、アルカディア島への進行に影響が出た可能性があります」
「うむ、その通りだな。住民からの非難はあるかもしれんが、今はアルカディア島への進行を最優先にして問題あるまい」
総督であるカールと大差のジスパーは余程の自信があるようだった。闇の軍勢やアンバーロードと戦っても勝てるという自負があるのだ。もちろんそれは過信ということではない。鉄巨人を仮想敵と位置付けられる軍隊にとってはむしろ自然の自信と言えるだろうか。
彼らはそれほどにアルカディア島に未来を感じているのだ。その謎を解くだけではなく、結晶石を永久的に取り入れる場所としても考えている。常に新たなモンスターが出て来る場所は結晶石の宝庫と言えた。最強国家であるマシュマトに更なる恩恵を考えているのであった。
「最強国家のマシュマト……アルカディア島を占領することで、その名はマッカム大陸だけでなく、他の島にまで轟くことでしょう」
「その通りだ。アクアエルス世界最強の国家……シズファ・ジーンズ女王陛下も満足してくれることだろう」
マシュマト王国は現在はシズファという女性が国王になっている。900年程の歴史を誇るマシュマト王国ではあるが王家の血筋は1度、断絶していた。5000年の歴史を誇るグリモワール王国でも断絶は何度も繰り返しているので一つの家系で繰り返すことは難しいということだ。
「第一陣にはアルミラージという冒険者パーティが加わるとのことですが……」
「アルミラージは確かな実力を誇るSランク冒険者パーティだ。必ずや力になってくれるだろう」
「総督のお言葉であれば申し上げることはありません」
大佐であるジスパーにとって、カール総督の言葉は絶対であった。
「しかし、第二陣を募集しているのはどういうことでしょうか?」
「ああ、第二陣は噂を大陸中に情報を広めてくれるという意味合いが強い。冒険者を中心に募集してはいるが……第一陣がアルカディア島を制圧したという情報をな。正直、戦力的には期待していない面子だということだ」
「そういうことだったのですか。確かに我が最強部隊とアルミラージの面々がいますからな。第二陣の出る幕はないでしょう」
「うむ、期待しているぞ。まあ、第二陣は今のところ手練れの者達が応募しているようだが、第一陣には関係あるまい」
「はい、関係ありません」
ジスパーは自信満々といった笑みを総督に向けていた。仮想敵を鉄巨人に合わせている部隊に敗北などあり得ないという自信だ。たしかに鉄巨人はかつては最強のモンスターとして君臨していた。そういった自信が生まれるのも仕方のないところではあるが……。
ギルドマスターであるザックからの情報をマシュマトの軍隊は軽視していたのだ。その為、あまり見ることはしていなかった。これが吉と出るか凶と出るかは……その時になってみないとわからない。
「ちなみに第二陣のメンバーはどうなっているのですか?」
「今のところはSランク冒険者のソード&メイジ、ナラクノハナ、ビーストテイマーの3組が応募している。それ以外ではアルトクリファ神聖国のミルドレア神官長だな。それ以外にもいるかもしれないが、まだわからない」
「なるほど……なかなか強力な面子が投入されるようですね。第一陣の戦力でアルカディア島を制圧するのは重要かもしれませんね」
「うむ、その通りだ。彼らに成果を奪われないように頼むぞ」
「わかりました、お任せください」
ジスパーの自信に揺らぎはなかった。
「いかにSランク冒険者とはいえども鉄巨人を想定した訓練はしていないでしょう。その段階で我が部隊の方が有利ということになります」
「確かにな。失敗は許されんぞ、ジスパー。国の威信を懸けて第一陣を率いてくれ!」
「はっ、お任せください!」
マシュマト王国は東のアルカディア島を制圧することで頭がいっぱいと言える状況だった。それだけの実力を有していることは間違いないが、不穏な空気も流れ始めていた……。




