135話 グリモワール王国の協力
「ハーミット……! まさか、負けるなんて……!」
「信じられない……」
驚きの言葉をあげる仲間の元へと戻ったルインスキーだったが、一番驚いているのは彼自身だった。
「無傷……か」
自分は春人からただの一撃も浴びてはいない。それなのに負けを認めざるを得なかった。Sランク冒険者パーティ「レヴァントソード」の頂点に立つ自分が……このような負け方をしたのだ。とても信じられない。春人の潜在能力はどれだけスバ抜けているのか。同じSランクという看板を背負ってはいるが、とても同じランクの相手だとは思えなかった。
ルインスキー生まれて初めての惨敗の経験と言えるのかもしれない……。
「上には上がいるということか。世界は面白いな……くそっ」
苛立ちを隠せないルインスキーだったが、負けたことに関しては素直に認めるのだった。
「気付けば圧勝というところか」
「春人、お疲れ様。楽勝だったんじゃない?」
戻った春人を迎え入れたのはミルドレアとアメリアだった。アメリアは分かり切っているという雰囲気を醸し出していたが、春人からすればそうではない。
「そんなことはないよ、楽勝だなんて。運よく無傷で決着はしたけど……体術に関しては教えを請いたいくらいだ」
「そういう謙虚な態度は春人の魅力だと思うわ。でもね……」
「実際の実力差は歴然だったわけだ。殺し合いになればさらに差は開くだろう」
アメリアの言葉を補完する形でミルドレアは話した。これが周囲から見た時の印象というわけだ。春人の気持ちはあまり考慮していないが、事実だと言える。
「人間で春人の相手になりそうな奴はいなさそうね。Sランク冒険者が相手でもあれなんだから」
「油断はするべきではないが……悔しいがその通りだろうな」
ミルドレアは単純に認めるのは悔しかった。少し前まで自分こそが人間最強だと思っていたからだ。しかし、今回の戦いも踏まえてその考えは修正されていく。今では春人が世界最強の人間だということに疑いの余地はなかった。
「俺を倒したあの化け物……アテナと言ったか。今ではあの怪物とも戦えるんじゃないか?」
ここでミルドレアは人外の存在を出した。初めての敗北を味わわされた敵の名だ。
「どうでしょうか? サキアのレベル次第だとは思いますが」
アテナのレベルは1200。その値にどれだけ近づいているのか……サキアに聞くのが一番早かった。
「私のレベルは現在は不透明です。マスターのレベルが逐一変わっているというのが原因だと思いますが。500を超えているのは間違いありません。私のレベルが確定するのはもう少し時間がかかるでしょう」
都合の良い展開と言えるかもしれないが……春人の正確なレベルはわからないということだった。
「まあ、わからないなら仕方ないわね。どのみち、春人が世界最強クラスなのは間違いないでしょ。私やミルドレアよりもはるかに強いわけだし」
「悔しいがな……認めるしかないようだ」
アメリアやミルドレアは世間では最強クラスと言われている。それよりもはるかに春人のレベルは高いのだ。その事実を考慮すれば春人が世界最強と言われてもおかしくはなかった。さらに、ルインスキーに負けを認めさせた事実もあればなおさらである。
春人は本意ではないがその後も賞賛の嵐に巻き込まれるのだった……。
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「それは、レヴァントソードとしての意見と考えて良いのか?」
「その通りです、陛下。彼らとは協力した方がよいかと。国の利益にもなるでしょう」
戦いを終えたあと、カースドを説得したのはルインスキーだった。春人達に協力した方がいいという意見を提唱したのだ。
「やはり協力は必要か……マッカム大陸の危機と言えるかもしれない状況だからな」
ルインスキーの意見を経て、カースド・リオンネージュはかなり温和な態度を見せていた。このまま協力してくれるのは間違いなさそうだ。周囲から見てもそのように見える。
「裏組織アンバーロードと闇の軍勢……それらの脅威をなんとかしないとマッカム大陸での覇権などは夢のまた夢だな」
「その通りですよ、陛下。私達に協力してください」
「仕方ない。協力するとしよう」
「ありがとうございます」
アメリアの言葉でカースドは首を縦に振るのだった。グリモワールとの協力関係がこの時、誕生したのであった。
「しかし、協力とは言っても私達は何をすればいいのだ? 戦力的な話をすると、レヴァントソードを差し出すくらいしかないのだが」
5000年の歴史を誇るグリモワール王国ではあるが、現在はスコーピオンの大群にも手を焼いていたくらいだ。戦力的には大きな期待はできなかった。
「レヴァントソードを派遣してもらえるのもありがたいですけど……簡単ですよ、テラーボムをお借りできればいいんです」
「なに……? テラーボムを?」
「そういうことです」
アメリアは淡々と話を進めているが、カースドはよくわかっていなかった。自分達の大量破壊兵器をどうするのかということに。
「闇の軍勢は大量の騎士達で構成されています。その正体はおそらく魔法で作り出された亡霊みたいなもの。私達が投下しても大丈夫な場所にその騎士達をおびき出すので、合図に合わせてテラーボムを投下していただければ、大量の騎士達を葬れると思うんです。それをしていただけるだけでも、闇の軍勢を葬ることは可能かと。生き残った連中は各個撃破で仕留めればいいわけで」
アメリアは軽い口調ながら、重要な部分を話していた。闇の軍勢の騎士達を葬ることができれば、それは自分達の勝利へかなり貢献すると考えているのだ。もちろん間違ってはいない。春人やミルドレアも頷いている。
「なるほど……話を聞く限り、我々が協力できることはそれくらいだろうからな。わかった、共通の敵である闇の軍勢討伐に参加させてもらおう。テラーボムで其方たちを巻き込まないように細心の注意を払おう」
「陛下……ありがとうございます」
春人達は強力な味方を手にしたことになった。グリモワール王国を完全に信用することはできないかもしれないが、今回の件で下手なことはしないだろう。春人達の考えはそこに至っている。また、レヴァントソードの協力も非常にありがたいと言えるだろうか。
これにて戦力は整った。あとはアンバーロードと闇の軍勢に対してどのように戦力を分散させるかということだった。春人達はオードリーの村に戻ることにした。




