【ざっと】四元館の殺人・アンデッド3・invert・兇人邸・黒牢城など【感想】
こんにちは
このエッセイを更新するのは、余裕で一年ぶりですね。しかも前回、古畑【前編】で途切れちゃってるし! なんなの、いくらなんでも自由過ぎるでしょ!! 羽野ゆずです。
いやー暑いですね。
ツイッターでも呟きましたが、生まれてこの方ずっと北海道で暮らしていますが、こんなに暑い夏は初めてのような気がします。
コロナ予防接種の副反応を誰かに訴えても、「なんかぼおっとして身体が熱いんだけど」「暑さのせいじゃない?」で済まされる体たらくです。
皆さんもどうかご自愛ください。
暑い+夏休みで、なかなか執筆が進まないので、ここいらで気分転換に最近読んだ本の感想など記録しておきたいと思います。表題の他にもいろいろ読んだので簡単に感想を。
ちなみに今読もうとしているのは、依井貴裕さんの『夜想曲』です。山荘モノらしいので、旅気分を楽しもうと思います。
従来から在る傑作も読みますが、なるべく新しいものも読むようにしています。
どのジャンルにもいえることかもしれませんが、とりわけ推理小説は、新しいものほど新しい要素が取り入れられている可能性が高いからです。ハードル上がりっぱなしなジャンルなわけです。
そんな過酷なジャンルの新作ですから期待度は高まらないわけがないじゃないですか!
というわけで、今をときめく本格ミステリの新作をあっさりばっさり(←なんでだよ!)感想並べていきます!!
例によって、ネタバレの可能性があるので未読のかたはご注意です。では、Go!!
☆『四元館の殺人―探偵AIのリアル・ディープラーニング―』早坂吝
探偵AIのシリーズの続編。といっても、このシリーズは本作が初読でした。
あらすじはこんな感じ↓
犯人のAI・以相が電脳空間で開催した犯罪オークション、落札したのは、従姉を何者かに殺され、復讐のための殺人を叶えたいというひとりの少女。
以相による殺意の連鎖を食い止めるべく、探偵のAI・相以と助手の輔が手がかりを元に辿り着いたのは――雪山に佇む奇怪な館「四元館」だった。そこに住まう奇妙な一族と、不可思議な変死事件……人工知能の推理が解き明かす前代未聞の「犯人」とは!? 本格ミステリの奇才が“館ミステリ”の新たなる地平を鮮烈に切り開く、傑作長編。
(帯より)
探偵も犯人もAI。しかも館ミステリの新境地、という珍しい作品でした。しかも館シリーズではお約束の怪しげな建築家も存在。その伊山久郎が、予想を裏切って、ほのぼのとした人柄なのが印象的でした。純粋に依頼主のために仕事をする建築家なのですが、その純粋さが逆に怖いのかもしれません。
肝心のトリックは、たしかに――前代未聞! しかし、大規模なバカミスともいわれそう!!
でも、序盤に与えられた情報から必ずしも推理できないわけじゃないんです。そんなバカな! で終わらないのが、早坂吝先生だなぁと感心します。
個人的に評価が難しいと感じるのが、AI探偵の意義とは? 天才プログラマとか天才ハッカーがPCを通して活躍するのと、変わらないないんじゃない? と思ったりもします。海外ドラマにそういうのありそうだし。第一作も読む必要がありそうです。
☆『アンデッドガール・マーダーファルス3』青崎有吾
最近読んだなかでは、一番読み応えがあり面白いと感じた作品。あらすじはこんな感じ↓
〈牙の森〉の謎を追いドイツへ向かった〈怪物事件専門の探偵〉鳥籠使い一行が遭遇したのは、人狼による怪事件だった。犯人は人か狼か?
怪物たち〈夜宴〉と保険機構〈ロイズ〉も介入し、舞台は人狼の隠れ里へ。満月の夜が戦乱を呼び、二つの村がぶつかり合おうとしたそのとき、輪堂鴉夜の謎解きが始まる。
怪物ロジックを鮮やかに決めていたシリーズ第一弾も素晴らしかったですが、この第三弾はボリューム、ストーリーの壮大さで個人的にはベストに成り代わりました。
バトルシーンがますます増えて、メイドの静句さんが大活躍です。物語の序盤、人狼の隠れ里の場所は明らかになっていないのですが、中盤に明かされ、そこから全く視点の違う物語が楽しめます。
そして最終的に、別集落で起こった微妙に似通った事件の謎が、足し算引き算(?)で、綺麗に明らかになる快感。さりげない、どんでん返し。それでいて、推理の発端は『割れた窓の状況』というエラリー・クイーン的なシンプルな装置で、やっぱり青崎先生の作品だなぁと感心します。
大きな声でいえないですが、推理に関係なさそうなバトルシーンは読み飛ばしたりしてます(てへ)
☆『invert 城塚翡翠倒叙集』相沢沙呼
ミステリランキングを総なめした『medium 霊媒探偵城塚翡翠』、まさかの続編。短編集。
あらすじ↓
綿密な犯罪計画により実行された殺人事件。アリバイは鉄壁、計画は完璧、事件は事故として処理される……はずだったが、犯人たちのもとに、死者の声を聴く美女・城塚翡翠が現れる。自分が捕まるはずなんてない。ところが……。エンジニア、小学校教師、そして人を殺すことを厭わない犯罪界のナポレオン。すべてを見通す翡翠から、彼らは逃れることができるのか?
倒叙スタイルで描かれる三篇。倒叙とはいうまでもなく、刑事コロンボや古畑任三郎のように、犯人の視点で描かれるミステリーです。
mediumの続編は出ないと思っていた……正直な話、出なければいいな、と思っていた。
なぜならキャラへの深い愛情を感じる相沢先生が、まさかのキャラ使い捨てた! でmediumが傑作になったと考えていたからです。
表紙と装丁が美しい! 赤と緑でクリスマスカラーなのも素敵!! ちなみに、表紙により翡翠は実は双子、というオチを予想していたのですが見事に裏切られました!
三篇ともロジックが凝っていて、しかも日常ミステリの名手ならではの視点が光っていて、さすが相沢先生! と感心するばかりでした。小学校の先生のは切なかったです…。
ただ、(以下グチです。不快な方は読み飛ばしてください↓)
翡翠のキャラがなぜか任三郎さん寄りになっていたのが気になるところ。確実に狙ったことではあると思うのですが、推理の鮮烈さもオリジナルを越えるものではありませんでした。
こんなに面白いのに、なぜ引っかかってしまったのか……自己分析してみたのですが、翡翠が何度か繰り返す「よろしいですか、よろしいですか。」――このフレーズで私が懐古するのは、古畑が犯人役の津川雅彦さんを説得した名台詞。『よろしいですか。よろしいですか。たとえ明日死ぬとしても、やり直しちゃいけないって誰が決めたんですか?』←これ。なんかね……あんまり使ってほしくなかったんですよ。という超個人的な我儘でした。
☆『黒牢城』米澤穂信
あらすじは以下のとおり↓
天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する家来らを落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の軍師・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。
米澤先生が描く、黒田官兵衛! 籠城戦により一種のクローズドサークルとなった城下町。土牢の過酷さが伝わってくる描写。四季のさまざまな描写。素晴らしかったです。
帯に『二人の推理が歴史を動かす』みたいなことが描かれていて、荒木村重は実はキリシタンだった的な推理をしていたのですが、全然違ってました。
大河ドラマを観ていなければ感じ方もだいぶ変わっていただろうな、とも思います。歴史小説ですが、米澤先生らしさが十分に感じられる文章と展開でした。首実検という時代ならではの特殊なシチュエーションを生かした第二章も良かったですし、推理の過程が丁寧な三章『遠雷念仏』も好きです。
ただ、帯の『歴史を動かす』の文句は微妙に的外れ。本作は親子(家族)愛の話だったと思うのです。
☆『兇人邸の殺人』今村昌弘
前作の『魔眼の匣の殺人』の推理が抜群に良くて、良作なミステリに触れたくて購入した今作。
率直な感想は―― うん! もう一回読み直さなきゃ!
あらすじはこんな感じ↓
廃墟テーマパークにある「兇人邸」。班目機関の研究資料を探し求めるグループとともに、深夜その奇怪な屋敷に侵入した葉村譲と剣崎比留子を待ち構えていたのは、無慈悲な首斬り殺人鬼。
逃げ惑う狂乱の一夜が明け、次々と首のない死体となって発見されるなか、比留子が行方不明に。さまざまな思惑を抱えた生存者たちは、この迷路のような屋敷から脱出の道を選べない。さらに、別の殺人者がいる可能性が浮上し……。葉村は比留子を見つけ出し、ともに謎を解いて生き延びることができるのか?!
今度のクローズドサークル要因は、異形の首切り殺人鬼。
しかも外は、テーマパークで客が練り歩いているという、特殊な設定です。客がいるゆえに、安易に扉を開けるという方法も選べない。これは――これは本当によく考えられた閉ざされた設定!
本作も本格度が高かったです。ただ、それが終盤の解決編だけでなく、要所要所にちりばめられていて、私的には少し印象が弱かったイメージ。やっぱり謎解きは解決編でばーんとまとめてやって欲しい派です。犯人捜しロジックと同じくらい、脱出方法ロジックに重点が置かれていました。
ただ、読み返さないとわからない箇所も多く、私の頭脳では全て理解できていないので、再読しなければ…。邸の間取りもかなり複雑なので少し混乱しました。
回想シーンの〇〇が首切り殺人鬼だった、と明かされた瞬間も個人的に「ああそうね」みたいな感じで驚きがなく、素直な読者に戻りたい…と泣いてしまった。
色々書いてしまいましたが、展開のスピーディさリーダビリティも凄まじく、面白い作品でした!
☆『人形はなぜ殺される』高木彬光
名作の再読。おどろおどろしさが半端なく、やっぱり抜群に面白いですよね。
読者への挑戦も、すごく挑発的でゾクゾクします。
ワトソン役の松下が、名探偵神津恭介に「また麻雀だろう! 馬鹿!」と罵られるシーンが好き。こんなワトソン役、なかなかいない。




