第26話:お母様
数か月が過ぎ、イヴォンヌは絹がふんだんに使われた白のドレスに身を包んでいた。
柔らかなレースが肩にかかり、腰には淡い光沢のリボンが結ばれている。
胸の奥で小さく高鳴る鼓動を感じながら、控室の鏡に映る自分を見つめる。
今日、私はアレクシス様の妻として、永遠の愛を誓うのだと改めて実感する。
結婚の誓約自体は済んでいたけれど、粋な計らいというやつだろうか。改めてきちんとした式と祝宴の場を用意しようとアレクシスが提案してくれて、イヴォンヌは今日という晴れ舞台を迎えることになった。
「大丈夫ですか、イヴォンヌ様」
そっと傍に来たモニカの声に、イヴォンヌは小さく頷いた。緊張もあるが、それ以上に胸が温かく、穏やかな幸福感に包まれている。
モニカに支えられながら、イヴォンヌは控室を出て、廊下をしずしずと歩いて行く。所定の位置まで来て静かに教会の扉が開かれるのを待った。
扉が開き、列席者の視線が一斉に集まる。花嫁としてのイヴォンヌの姿を見て、アレクシスの手が顔を覆った。
驚き、そして胸がいっぱいになる様子が手に取るように伝わる。
口パクで「きれいだ」と伝えてくるアレクシスにイヴォンヌは頬を染め、そっと視線を伏せた。
式が始まる。
列席者の前で、二人はこれまでの誓いを再確認する。
小さな震えを含んだ手を互いに取り合い、声を重ねて誓うたび、心がさらに温かく満ちていく。
「永遠の愛を誓いますか?」
「誓う。俺の魂の剣は今日この日を以て永遠に彼女に捧げられるとここに誓う」
「誓います。私はアレクシス様と歩む未来を、ずっと大切にします――」
お母様。お母様。
私を生んでくれて、ありがとう。
アレクシス様と出会わせてくれて、ありがとう。
万雷の拍手が鳴りやまないなか、アレクシスは自然とイヴォンヌの手を引き寄せ、静かに唇を重ねた。
柔らかな陽光がステンドグラスから差し込み、二人の影を長く伸ばす。今この瞬間、すべてが愛に満ち、世界が二人のために祝福しているように感じられた。
「これからも、ずっと――」
アレクシスの言葉に、イヴォンヌは微笑みを返す。
「はい、アレクシス様。ずっと一緒に」
教会の外に出た二人に向かって祝いの花が降り注ぐ。白い鳩たちが放たれ、高く、高く、空を翔けていく。
自由に。どこまでも自由に。澄みきった青空をどこまでも高く、飛翔していった。
「継母と義妹に嫌われた姫君は、年上の伯爵様に拾われて幸せになる」はこれにて完結となります。約一か月の間、お付き合いいただいてありがとうございました!
小学三年生の頃から小説を書き始め、中学生~20代半ばで二次創作に転び、同人活動に心血を注いでいた自分が、オリジナルの小説を書きたくなる日が来るとは思ってもみませんでした。10/9~10/12で一気に書き上げたくらいには楽しかったです。
初心を思い出させてくださった皆さんに感謝申し上げます。
感想・評価・ブクマをいただけると励みになります! オリジナルを書き上げたのは初の試みなので、「ここが良かったよ!」をぜひ教えていただきたいです!




