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追放先の呪われた森がいつの間にか聖域認定されていた。~【浄化】スキルに目覚めた俺、神竜や大精霊たちに囲まれて一国の王になる~  作者: 戸津 秋太
第二章

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第27話 シルク商会の思惑

 交渉の場はゼスの家の一室で行われることになった。

 広い家には生活に使用していない部屋もある。その一室を応接室としてあてがい、スターロードたちを招き入れたのだ。


 室内にはゼスとララド、そしてテーブルを挟んで向かい側にスターロードと彼の補佐官が座っている。


「ああ、これはご丁寧にどうも」


 フローラが彼らの前にお茶を置くと、スターロードは柔和な笑みを浮かべる。

 彼はお茶を一口飲むと、前のめりになった。


「改めて、この場を設けていただき感謝いたします。単刀直入に申し上げましょう。我々シルク商会はこの村と交易を結びたいと考えております。我々は新興商会。規模や歴史は他の大商会とは比べものになりません。しかし、大陸中の国に販路を築いておりますので、必ずやお力になれるかと存じます」

「大陸中の国……《交易路(・・・)》ですか」

「ええ、その通りです」


 ゼスの呟きにスターロードはにっこりと笑む。


 ――シルク商会。

 十五年前に立ち上がったばかりの商会ながら、異常な速度でその勢力を拡大させている。

 強みはなんといっても、商会長であるスターロードのスキル《交易路》。

 その能力は、商人であれば誰もが羨むものだ。


「わたくしの《交易路》は交易を結んだ場所への道を開けるスキルなのです。大樹海で暮らすララド様方と取引ができたのは、ひとえにこの能力の賜物(たまもの)。その有用性はララド様もご承知のはず」

「無論ですとも。わしらが外の世界と交易できたのも、シルク商会のおかげですからな」


 ニコニコとした笑顔を絶やさないスターロードの言葉に、ララドも力強く頷く。

 そのやりとりを耳にしながら、ゼスはなんとなく違和感を覚えた。


(嘘はついていない……けど、本音でもない(・・・・・・)な)


 本来の流れでは、交易品について軽いすり合わせを行うだけでシルク商会と契約を結ぶつもりだった。

 だが、話を聞いているうちにゼスは気が変わった。


 今のところ、こちらの利益をアピールするばかりで、商会側の利益を語ろうとしていない。

 それどころかララドを使って丸め込もうとするところを、ゼスは不思議に思った。


(まるで、深く突っ込まれる前に契約を結びたがってるみたいだ。前世で店に押しかけてきた営業マンを思い出す)


 懐かしい気持ちになりつつ、ゼスはおもむろに口を開いた。


「お話はわかりました。確かに俺たちには特に不利益はなさそうですね」

「! では――」

「ただ、交易を結ぶ上でまだ聞いていないことがあります」

「それは……?」


 明るい表情を一転、困惑するスターロードにゼスは毅然と告げた。


「俺たちと交易を結ぶことでそちら側が得られる利益……もっと言えば、スターロードさんの狙い。それをお聞かせいただきたい」


 スターロードが目を見開き、ゼスの目をジッと見つめ返す。

 室内に漂い始めた緊張感にララドたちがあたふたする中、スターロードは小さく肩を竦めた。


「まったく、取引相手にそのようなことを言わせるとは……わたくしもまだまだ未熟ですな」


 スターロードは深く息を吐き出しながらお茶を一口飲み、どこか清々しそうに告げる。


「では、我々の狙いをお話しいたしましょう」





 ◆ ◆ ◆





「――大樹海の資源の独占、ですか」


 ゼスの反芻(はんすう)に、スターロードは頷く。


「現状、大陸中のどの商会も、大樹海に眠る資源の安定的な供給には成功していないのです。リスクとリターンが見合っていませんから当然ですが」


 大樹海はその危険度から、大陸のあらゆる国からも見放された地だ。

 しかしそれゆえに、大樹海に眠る資源はまさに無尽蔵。


 少し熱の帯びた声で、スターロードは続けた。


「ですがここは違う。大精霊の加護により、魔物が寄りつかない地――この村があれば、大樹海の資源を安定的に集めることができる。そして我々なら、その潤沢な資源を独占し、大陸全土に流通させることが可能なのです」

「大樹海の資源でもって、シルク商会の大陸における影響力を高めたい――ということですか」

「ははは、ゼス様にはお見通しのようですね。しかし、その通りです。……これがわたくし共の狙いのすべてです。いかがですか?」


 両方の手のひらをゼスへ向けて苦笑するスターロード。

 すべてを赤裸々に明かした彼に、ゼスも表情を和らげた。


「ララドさん」

「う、うむ!」


 ゼスの呼びかけに、ララドが羊皮紙を取り出す。

 そこにはララドたちが纏め上げた交易にまつわるこちらからの要望が記されている。


 交渉が始まったことに安堵するスターロードは、その羊皮紙を補佐官に受け取らせながら、好奇の眼差しをゼスへと向けていた。





 ◆ ◆ ◆





「商会長、いかがでしたか」


 一度目の会談を終えたスターロードを、部下たちが出迎える。


「いやぁ、うん、今のところは上手くいきそうだ。この村の存在を秘匿したいという我々の要望は、あちらも望んでいたところのようだしね。……ただ、この村に対しての認識は改めないといけないね」

「認識、ですか」


 部下の困惑の表情に、スターロードは深く息を吐き出しながら、頭上を見上げた。


「私は、この村を無自覚に下に見ていた。ララド様たちドワーフの村と交易をしていた時と同じ認識でね。孤立無援の僻地(へきち)で身を寄せ合ってどうにか生きながらえているだけの、哀れな集団だと。そして我々シルク商会こそが、彼らに手を差し伸べることのできる唯一の集団であり、その手を払いのけることはないだろうとね」


 だが、と。スターロードは力強く区切る。


「見てみなよ、この村を。よく整備され、活気づき、明日を恐れていない。外の世界と何も変わらない、どころかより幸福にさえ見える」


 スターロードは村の中を見回して敗北感に似た何かを漂わせて語る。


「本当に思い違いだったよ。彼らは我々の力など必要としていない。我々がいなくとも、彼らは生きていけるんだ。ゼス様は我々の心根を見抜いたのだろうね。『お前たちと交易をしなくても、生きていける』――そう言われた気分だよ。そしてそれは事実だろう。もう二度と彼らへの認識を見誤ってはいけないね」

「心得ておきます」

「うん。そうしてくれ」


 部下の言葉にスターロードは優しく微笑み返す。

 そうして、遠くでたくさんの人に囲まれて何やら照れ笑いを浮かべるゼスの姿を捉えた。

 彼の頭上にはユグシルの姿もある。


 眩しいものでも見るかのように、スターロードは目を細めた。


「……大樹海の資源の独占なんて、最早どうでもいいな。彼と最初に交易を結べたこと、それ自体が我々の商会に大きな利益をもたらすはずだ」


 スターロード。その役職も、そして職業さえも【商会長】。

 生まれながらにそうなる運命(さだめ)にあった男は、久方ぶりに胸の高鳴りを覚え、密かに笑みを浮かべるのだった。

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